6話「森の主」
前回のあらすじ
ムギを助けてくれた蜘蛛をヨモギと名付けて、新たに仲間にしたムギたちは森から抜け出すために動き始めるのだった。
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どのくらい移動したのだろうか。
あの洞窟から出て数時間が経とうとしているが、どこまで行っても木、木、木である。このままなんの目印もなく歩いていて、この森から出ることは叶うのだろうか。
『あるじ、なんか見えてきたよー』
「嘘だろ…。」
なんと先に見えてきたのは、断崖絶壁とも言えるほどの高い崖だった。
ここから抜け出すためにはきっとこの崖を降りる必要がある。
だが、この発見は希望でもあった。遠くに街が見えているのだ。とりあえず、あの街に行くことが僕たちの目標になった。
「とにかく降りられそうなところを探そう。もしかしたらあるかもしれないし。」
『わかった!』
『私は右側行くねー。ハクは左側よろしくー。』
「え、僕は…?」
どっちに行っていいのかわからなかったので、下手に動かずに崖の上から街の近くの様子や森の目印などを見つけるということをしていた。要するにサボりだ。見つかったらきっと怒られるけどどうにかなるだろ。
『ただいまー。あるじ早いね、ヨモギの方行ってたの?』
『マスターただいま。ハクと一緒に行ったんだ?』
『『え?』』
『まさかとは思うけど、サボってたわけじゃないよね?』
ばれた。おかしいな、バレないと思ったのに。さて、どう言い訳したものか。
「いや、サボってたってわけじゃなくてね。街の近くの目印とかを確認してたんだよ。」
2匹がこっちをじっと見る。本当か、とでも言い出しそうな疑いの目を向けている。さすがに隠せないかな、これ。
『まあ、いいや。左側には特に何にも。降りるどころか登るところはあったけど。』
『こっちもほぼ一緒。でも下に繋がる道があるかどうかはわからないけど、洞窟があったよ。』
危ない危ない。それにしても洞窟か。大抵ゲームとかでは洞窟が次に繋がる。そう考えるとそこに行ってみるのが良さそうだな。
「洞窟に行ってみようか。もしかしたら手がかりがあるかもしれないし。」
そこからその洞窟まではそう遠くなかった。
洞窟の前までつくと、妙な心の昂りを感じた。きっと心の中の少年心がくすぐられていたのだろう。
中に入り、奥の小部屋に着くまでは魔物も現れず、ただただ進むだけだった。
問題はその小部屋だった。
「なんじゃこりゃ…。」
天井一面にへばりつく蝙蝠の姿。数にするときっと1000は超えるだろう。鑑定してみると、この蝙蝠はヘビーバットという魔物で重低音を鳴らして攻撃してくる、厄介な魔物らしい(ハク情報も含む)。それが1000匹。
奥を見ると、次の部屋につながるであろう出口が見えている。
きっとこの洞窟に下に下がる手がかりがあるから、奥に進みたい。だが、進むにはこの蝙蝠を倒す必要がある。
いや、倒さなくても抜けられないか?ふと思ったことを実行してみるべく、部屋の中に入ってみる。
「やっぱりか。この蝙蝠は攻撃してくる気は無いんだ。」
予想が的中した。もし、この蝙蝠が攻撃してくる獰猛な魔物なんだとすれば、この人数差を使ってもう攻撃してきているはずだ。なら、下手に刺激しなければ抜けられる。
「ハク、ヨモギ、蝙蝠を刺激しないようにここを抜けるぞ。」
『『わかった。』』
そろりそろり、忍足で少しずつ出口に向かって進む。もし、何かの拍子で刺激して攻撃されたら勝つ術がない。ゆっくりゆっくり進んでいくしかないのだ。
そうして、とうとう出口に辿り着いた。
出口を抜け、先を見るととても大きな部屋に出ていた。形は先ほどの小部屋に似ている。振り返って小部屋を見ると、天井が蝙蝠で埋め尽くされていたため気が付かなかったが、蝙蝠がいる部屋と今いる大きな部屋は同じサイズということに気づいた。
上を見上げるとそこには蝙蝠の姿はなく、代わりに何かの紋章が描かれていた。まるで何かの召喚陣とでもいえそうな紋章だ。
そうして部屋の中を見渡していると、この部屋の主が現れた。
いや、この森の主とでもいうべきだろうか。
現れたのは、とても大きなクマだった。このクマは実はちょこちょこ見かけていて、きのみをとっては持って帰り、とっては持って帰りの往復をしていた。
このクマと戦闘をしては今の僕たちでは勝てない。そう思った時だった。
「君たちはここを抜けたいのかい?」
誰の声なのか理解するのに時間がかかった。
言語理解のスキルが反応していないのを見ると、きっとこのクマが人語を喋っているのだろう。
「はい。できればこの森の抜け方を教えていただきたいんですけど。」
「いいよぉ〜。でも前の部屋の蝙蝠を殲滅してくれたら、ってことでいいかな。あいつら通る時に邪魔でね。」
だいぶ辛いだろうな、と思う。この巨体であのスペースの道を通る。慣れていてもかなり難しいことだ。だからこそ、あの蝙蝠たちが邪魔なのだろう。
ぜひ、と受けたいところだが今の僕たちではあの蝙蝠を殲滅することは難しいだろう。さて、どうしたものか。
「受けたいところなんですが、蝙蝠を倒すことができるか自信がなくてですね。」
「大丈夫。あの蝙蝠遠距離攻撃できる人が一人でもいれば簡単に勝てるよ。まあ、耳栓は必須だけど。」
遠距離攻撃、と言っていいものなのかという疑問は残るが、僕の投擲があれば遠距離から攻撃は狙える。しかし耳栓がない。
『あともうちょっとだよ、あるじ。』
「よし!あともう少し頑張りますか。」
あれから30分間、討伐会議を行いヨモギが連れてきて僕が倒すという作戦になった。耳栓問題はヨモギの作った糸で簡易的に耳栓を作り、なんとか防ぐことができた。
それから1日間まるまるその蝙蝠の処理に追われた。
どこまで倒しても湧いてくる湧いてくる。確実に倒していっているはずなのに減っている気がしない感覚に襲われるほどだった。
「終わったー。もう、やりたくない。」
「お疲れ様ー。じゃあ、報酬の森の抜け方だったよねぇ。それはね、この奥の階段を下って外に出たらそのまままっすぐこの洞窟から遠ざかっていくんだ。そしたら森から出れるよん。」
どうやら本当にこの洞窟が上と下の森をつなぐ架け橋になっていたようだ。
「ありがとう。それじゃ。」
「うん、気をつけてねぇ。」
クマと別れてから1時間。やっと外に出た。あのクマにとってはこれが少しなのか、という真実に落胆しつつも、外に出ることができた喜びが遥かにそれを上回っていた。
先の蝙蝠討伐で鑑定スキルはレベル4になり、植物の詳細情報を見れるようになった。また、投擲スキルもレベル1からレベル6まで上がり、命中補正がかかってくれるようになった。
レベルもとうとうもう少しでレベル2、というところまできている気がする。
この森を抜けるまでの戦闘でレベルアップしておきたい。
「さて、さっさと進んで街に行ってみよう。」
『はーい。』