4話「初戦闘と蜘蛛(前編)」
なんと今回は前編と後編同時公開✨是非ご一緒にご覧ください!
前回のあらすじ
ハクをテイムしたムギは、ハクのステータスを見て自分との差に驚く。自分が弱いと自覚し、鑑定スキルに打ち込みレベル3まで上がったムギの前に魔物が現れるのだった。
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戦いの火蓋がきられたと同時に、ハクと敵の魔物がお互い威嚇し始めた。
威嚇はハクも持っているスキルで、効果は自分よりレベルの低い相手のステータスを1%下げるというものだ。微量ではあるものの僕にとっては致命傷を避けれる可能性が生まれる。ありがたい。
それよりもハクとこの魔物の戦闘に僕が横入りすれば、邪魔になってしまうだけだ。それなら、自分にできることをしよう。
「鑑定」
鑑定内容
名称:なし
レベル:5
種族:オーク(劣等種)
HP 32
MP 0
試しに魔物を鑑定すると、HPとMPを確認することができた。この魔物、オークはレベルが5とハクと僕より高い。威嚇が効かないということだ。
「ハク、そいつには威嚇が効かない!地道に削るよ!」
『わかった!』
ハクは爪で攻撃したり、身体強化で攻撃していける。
僕には何ができる?何かヒントはないかと周りを見る。ふと見つけたものを手に取る。これなら、役に立てるかもしれない。
急いで道具の準備をし、構える。タイミングを見計らって…。
「ハク、右によけて!」
ハクが避けたタイミングで石を放つ。
さっき急いで準備していたのは投石機。近くに尖っている石とロープと布が落ちていたから作れた。近くには魔物に襲われて壊れたのであろう馬車と荷物の数々があった。ここにあったものがなければきっと作れなかっただろう。
放った石は綺麗にオークの目に突き刺さり、大きくHPを減らした。
『こっからは任せて。』
ハクがここぞとばかりに攻撃を絶え間なく、くらわせ、とうとうオークのHPは尽きた。オークが死んでいる。その光景を見て僕は喜びと共に、大きな吐き気に襲われた。
よく考えてみれば何かを殺すということを今までしたことがない。どれだけ自分が平和ボケしていたのかということを痛いほど思い知らされた。
しばらくして吐き気がおさまり落ち着いた僕は、ハクがオークの素材を取るというので任せ、ステータス画面を一人見ていた。
「スキルに投擲Ⅰが増えてる…。さっきの投石機かな。」
もし、さっきの投石でスキルを手に入れられたのだとすると色々なことをしてみる価値があるな。あとで試してみるか。
そうこうしているうちに、ハクが素材取りから帰ってきた。
『ただいまー。あるじ、素材取れたけどどうする?街まで持っていけたらお金になるよ。』
何をとってきたんだい、と聞こうと思ったが見たらまた吐き気に襲われるという直感が反応し、とりあえず袋に包んでバッグに入れてもらった。
このバッグも先ほどの壊れた馬車の中の空のバッグを一ついただいた。特に鑑定しても普通のバッグと出るだけでなんの変哲もないバッグだが、今の僕にとってはありがたい。
「この後どうしたものかなぁ。」
『とりあえず何か食べない?もうハクお腹ぺこぺこだよ。』
「そうだよね。何か食べられるもの探すか。」
それから僕たちは鑑定スキルとハクの野生の勘で食べられそうなものを集めた。
鑑定スキルはレベルが3になっても、植物の鑑定結果はなんら変わっていなかった。とってきた植物は生のまま食べると危なそうだったので、先ほどの馬車から火をつける魔道具をもらって火で焼いて食べた。
この魔道具、どういう原理なのか魔力を流すと火が出るという優れものだった。
とはいえ、充電式と常時配給式の2つあるようで充電式は事前に魔力を貯めて置けるのだが、配給式はずっと魔力を流し続けなければいけなかった。
この魔道具は配給式なので魔力が少なく1分も持たなかったが、それでも焼いて食べることができた。これでしばらくは食料の心配がなくなりそうだ。
「うーん、食べた食べた。ハクはまだ食べるの?」
『うん。だってまだまだ食べられるし。まだ食料余ってるから。』
きっと貯金とかできないんだろうな、という考えが頭をよぎった。
そうこうしているうちに空が暗くなってきた。異世界にきて最初の1日が過ぎ去ろうとしているのだ。
暗くなってしまうと、動くのは危険が多い。安全な場所を見つけたほうがいいな。
「ハク、そろそろ安全な場所を探しに行こう。このままじゃちょっと危険だ。」
『ん んんんんっんんん』
口にたくさん含みながらしゃべったせいで、何を言っているのかわからなかったけど、きっと食べ終わったらいく、とかなんだろう。
「先行くよー。」
このままだと本当にまずいな。視界が悪くなってきた。
森の少し奥に行ったそんな時だった。背後から気配を感じ、振り返ると槍を持ったオークが3匹こちらにジリジリと近づいていた。その気配は未だ感じたことない、圧だった。
きっとこれが殺気なんだろう、と理解した頃にはオークは踏み込んで飛び込んできた。前回もそうだったが、オークは飛び込んで間合いを詰めるんだろう。
敵が間合いを詰めてくるのに対して、横に跳んで避ける。槍は横に攻撃しにくい。
このままじゃジリ貧だ。ハクがきてくれればどうにかなるだろうがあの様子じゃもう少しかかる。大声を出せば気づいてくれるかもしれないが、他の魔物が来てしまう可能性もある。
いや、そんなことも言ってられないかもしれない。視界が悪くなってきて槍を避けるのがきびしくなっていく。1匹ならまだしも3匹だ。
避けようとした僕に3匹の槍が一斉に襲ってくる。3方位からの攻撃を避ける術がない僕にとってそれは死を意味する攻撃だった。
1日も持たずに死んでしまう自分を叱りながら目を閉じて敵の攻撃を待っていた。 やっぱり僕はこの世界でも弱かった。自分の何にもできない無力さを恨んだ。
「シュシュ シューーー」
突然音がきこえたと思った矢先、殺気が消えた。
目を恐る恐る開けると、そこには1匹の蜘蛛がいた。オーク3匹の上に乗っている蜘蛛はこちらを見た。なぜか自分が死ぬという未来は見えなかった。