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歳をとらないおじいちゃん 歳をとれないお嬢ちゃん

「なあ、お嬢ちゃんや。君は今年いくつになる?」

「七歳よ。去年も七つ、今年も七つ、来年も再来年も七つ……おじいちゃんは、今年何歳?」

「九十歳じゃ。去年も九十、今年も九十、来年も再来年も九十」

「……変わらないのね。変われないのね、わたしたち」


「なあ、お嬢ちゃんや。君はいつでもバラ色のほお、桃色のくちびる、ミルクのように白い肌をしているね」

「おじいちゃんはいつだってしわだらけ。枯れ木みたいに細い腕、垂れ下がったあごの皮……百年前からおんなじね」

「やあ、ごあいさつだな! 君だって百年前からずっと少女のままだろう」


「……わしは、少年でいたことがない。わしは思うよ、君と同じ年に生まれて、幼なじみの君と恋をし、結婚して、子どもに恵まれ、孫が生まれて……当たり前の一生を過ごし、当たり前に年をとって、幸せに一生を終えて天に召されて……」

「――わたしだって思うわよ! ちゃんと赤んぼうで生まれて、女の子から乙女に育って、あなたと結婚し、ママになって、おばあちゃんになって……でも無理よ、無理なの……だってわたしたち……」


* * *


「……あれ? おかしいな、時計の人形のほおが濡れてる……弟のトムがいたずらしたのかな? あいつ、あんなに背が低いのに、わざわざ椅子によじ登ったか? ふふ、ヒマなやつだなあ!」


 年の離れた兄のタビーは、くすくす笑って金属製の人形の少女のほおをぬぐい、口もとに笑みを含んだままで立ち去った。残された壁掛けの『からくり時計』の台の上、老人と少女の人形がお互いに手を伸ばしながら、永遠に老人と少女のままでいた。


 去年も七つ、今年も七つ、来年も再来年も七つ……、

 去年も九十、今年も九十、来年も再来年も九十……、


 そう歌うように、夜の十二時を知らせる時計が、オルゴールのトロイメライを奏で出した。音に合わせてくるくる回る老人と少女の金属のほおに、また水滴が浮き出した。


(完)

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