7 ジェレミー、見知った天井
微睡みから覚醒すると、白い見慣れた天井が目の前へと浮かぶ。
どうやら、病室のベッドに寝かされているらしい。
痛む節々を堪えながら、身体を動かしてみた。
「……うう」
ベッドの上で動くと胸が酷く痛み、情けない呻き声が漏れた。
同時に周りが騒ぎ始める声が聞こえてくる。
「ジェレミーさま! ジェレミーさまが目覚められたぞ!」
人のバタバタと行き交う足音がして、看護師らしき女が数名私のベッドの横に立った。
「目覚められましたね、ジェレミーさま」
「良かったです! ジェレミーさま!」
涙ぐむ女たちに尋ねてみる。
「ここは……」
「アロンソ城ですよ、ジェレミーさま。貴方は戦場で重傷を負って、今まで寝ておられたのです」
なるほど、私は負傷して城に戻されたらしい。
そういえば、槍で胸を貫かれた記憶が最後だ。
胸が再び痛む。
貫かれた箇所を見てみると、何やら大層に包帯以外のものでも補強されていた。
よく生きていられたものだと思う。
そんな思案に耽っていると、ノックも無しにドアを開け、早足で私の元へと駆けてくる見知った顔がやって来た。
息を切らせながら、私を見るとその長身の男は泣きそうな顔で肩をさすってくる。
「おお! ジェレミー! 良かった……! 無理をしよって! 死にかけたのだぞ!」
私の兄であり、サクラモン王であるロゾレイズだ。
全く王らしくないその振る舞いに、苦笑いしながらも私は申し訳なく思う。
「兄上……! ご心配をかけてすみません」
「いい、無理をするな。休んでいろ」
起きあがろうとする私に、そう言って兄は優しく微笑んだ。
それにしても、戦場での最後の記憶が蘇り、私は再び不思議に思う。
急所を貫かれたというのに自分は生きている。
奇跡でも起きたのだろうか。
不思議に思い、自然と呟くように疑問が口からついて出てきた。
「私は胸を貫かれたはず…… どうして助かったのでしょうか……?」
兄は頷いて答えた。
「聖女様がお前を治療してくれたのだ」
「聖女……?」
驚きながら、私は兄を見た。
現役の聖女といえば、1人しかいない。
しかし、その者は我が国が戦争をしている相手国に所属している女性だったはずだ……
兄は私の疑問に答えるように、簡単に説明してくれた。
「セルデュク帝国にいたあの聖女ポーラ様だ。潜入させていたスパイが彼女を連れてきてくれたのだ。後で礼を言っておかねばならんぞ」
「……セルデュクの聖女が」
なるほど、詳細は分からないが、そんな経緯があったのか。
この胸の傷を作った敵国の人間に救われたという事実に私は気持ちに整理がつかない。
「そうですか、少し複雑な気分です」
「彼女はもうセルデュクの民ではない。余計な事は考えず、ゆっくり休め、ジェレミー。詳細はまた話してやる」
兄はそう言って手を握ると優しく微笑んだ。
「陛下自ら、お見舞いありがとうございました……」
ロゾレイズ王は、開戦以来見せたことのない優しい表情で、ますます力強く私の手を握りしめる。
「良い、兄弟ではないか」