6 聖女、オペレーション
患者の呼吸は浅く、体温もかなり低く、脈も弱い。
患部の創傷も酷く、膿がかなり溜まっていた。
私はまずレオナに尋ねる。
「患者の名は?」
「ジェレミー・ラズ・サクラモーンと申します」
患者の耳元で声をかけてみる。
「ジェレミーさん、頑張ってください。必ず助けますからね」
一向に反応はないが、私はこの人を必ず助けるという意思を固めた。
黒ずんだ血液と膿が深い傷口にこびりついている。
傷口を真水で洗いながら、状態を目視した。
(壊死しかけてる…… 脈が弱い! バイタルが弱すぎる!)
心臓と肺の一部も欠損しているようだ。
もう、臓器を縫合して済む段階ではない。
化膿している患部の肉をメスで削ぎ落としながら、私は新薬の投入を決意した。
「レオナ、ポーションの用意を」
「はい、ポーラさま」
レオナはすぐに薬品の詰まった小瓶を取り出し、チューブへと繋ぎ始める。
「ポーションを投与します」
そして、患者の手首へと点滴を開始した。
私が開発したこの秘薬は、身体の回復機能を著しく高める。
モルモットや猿の実験段階では成功を重ねたが、人体への治験はまだだ。
よって不安ではあったが、迷う暇もなかった。
それ程に目の前の患者の状態は逼迫していた。
祈るような気持ちで患者の様子を観察していると、ポーションの投与から約160秒後、バイタルに変化が現れる。
体温と脈が回復し始め、灰のようだった肌に色が戻り始めた。
患部の壊死も少しだが回復している。
……これならいける
「必ず……! 必ず助けますからね」
私は再びメスを手にして、患部を切開した。
先ほどより幾分良い。
これなら血管を縫合して、壊死部を切除すれば命は助かるかもしれない……!
私は思考の波に飲まれるように手技へと集中していった。