5 聖女、オペ開始
私は相当、間抜けな顔をしていたのだろう。
状況が状況なので許して欲しい。
サクラモン王は私の様子を見て、レオナと顔を見合わせ頷く。
「突然で済まないな、少し説明しよう」
そして、訥々と話し始めた。
「私の弟はある部隊の将軍を務めていたのだが、2日前、セルデュク帝国との戦いで重傷を負ってしまったのだ…… 心臓付近を貫かれ、今も昏睡している」
その経緯を聞いて、私は複雑な気分になる。
私の生国の兵士がこの人の弟を瀕死に追いやったのだ。
……いや、その人だけじゃない
今だって、私の祖国の兵士はこの国の人を傷つけているに違いないのだ。
そんな憎いに違いない相手である私に、サクラモン王は悲痛な表情で、頭を再度下げてきた。
「あいつを救えるのは貴女だけだ……! 我々は敵国である事は承知している! しかし! 頼む! 聖女どの! 私の弟を助けてくれ!」
……なんて事だろう
弟や国民を傷つけた敵国の住民に、一国の王がこんな真摯に頭を下げてくるなんて。
私は居た堪れなくなって、すぐ様、こんな事はやめさせようとする。
「王様、顔を上げてください! こんな事、もったいないです!」
サクラモン王は顔を上げて、私を見つめる。
こんな事しなくとも、私は患者を必ず助ける。
「弟どのをすぐに治療します。どこに寝ておられるので?」
王は安堵の笑みを浮かべた。
「ありがとう……! 聖女どの! すぐに案内する!」
廊下を渡り、病室に案内されると1人の男がベッドに寝かされていた。
一目で重傷だと分かる。
「これは…… ひどい…… レオナ、手術道具と薬は有りますね?」
「もちろん、持ってきております」
レオナが箱を取り出し、台へと中身の道具を並べていく。
人の身体を裂き、縫合する為の器具。
人によっては眉を顰める者もいるが、全て私が考案した手術道具だ。
私とレオナは手術の前に、消毒液で腕を中心に殺菌する。
白衣へ着替え、手袋を装着すると、再び患者の前へ立った。
「早速、オペを始めましょう」