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34 ポーラの幼少期④

 忙しなく日々のお仕事のお手伝いをこなしているうちに、秋祭りの日がやってきた。

 集まった村のみんなの前にして、一段高い壇上に登り、村長が大きな声でお祭り開催の前の挨拶を行う。


「さて! 皆さん! これより明日の朝まで、我が愛するべきファネット祭りの開催です!!!」


 僅か200名足らずのこのファネット村に、この秋祭りの時にだけ、都から楽団を呼び寄せ、盛況なお祭りを行う。

 小さな村だけど、収穫された作物は他地域からの評価も高く、良い値で取り引きされるために、ちょっとした贅沢も許されるそうだ。


 それにしても村長の話は相変わらず長い。

 大人たちも村長の自慢話に似た口上を聞きながらそろそろ苛立ち始めたみたいだ。


「話なげーぞ! 村長!」


「もういいだろ! 村長!」


「はやく祭りはじめよーぜ!」


 焦れた大人たちの野次が飛び交い始め、その度に小さな笑いが漏れ、村長がこほんと、咳払いしながら声の方を睨むが、皆さんの意思は同様のようで、笑いは止まらない。


 村長は眉を顰め、長い演説の締めに、白い幕の下で待ちわびているらしい都からの劇団の皆さんを満面の笑みで指さした。


「皆さま、祭りの開催前にまだまだご紹介する素晴らしいゲストがいらっしゃいます! このお祭りのために都からはるばるやってこられた! バーク演劇団の皆様方です!」


 村のみんなが盛大に拍手しながら、天幕の下から現れた劇団の皆さんを出迎える。

 都からやってきた劇団の人たちは煌びやかな衣装を着ていて、全員の所作がこなれているようだった。

 村の予算を1番費やした今回の出し物の目玉だそうだ。

 劇団のリーダーらしきおじさんが大きな声で私たちに挨拶をする。


「こんにちは! 我々はバーク演劇団です! わざわざこの伝統あるお祭りにお呼びいただき光栄で御座います! 我々のショーもこの祭りに彩りを添えられればと思います! では皆さま! ファネット祭りを楽しみみしょう!」


 こうして、大きな歓声と共に年に一度のお祭りが開幕した。


 祭囃子と共に、早速お酒を飲みはじめた大人たちを他所に、お母さんは銀貨の入った小袋を手渡してくれる。


「ポーラ、お友達と一緒にお店を回ってきてもいいわよ。ただし、明るいうちに帰ってきなさいね」


 この田舎で貨幣を使う機会なんて子どもにとっては、この日くらいしかない。

 このお祭りでは美味しいものや珍しいものがたくさん並ぶ。

 都の方から商人もやってきて、露天を出すからだ。

 今日を待ちわびながらこの村の人たちは大人も子どもも日常のお仕事に励むのだ。


「わかった! ありがとう! お母さん!」


 私は懐にお金をしまうと、祭りで浮かれる村を歩き始めた。

 大人たちが早速浮かれながら、楽器で音楽を奏でたり、踊ったりして楽しんでいる。

 旅行客らしき人たちも楽しそうに祭りを見物しているみたいだ。

 残念なのは、魔法使いのおばあさんからは色よい返事はもらえず、おそらく今日もお家に引きこもっていることだろう。


「まずはケーキ食べて! お面を買って! それから……!」


 ケーキを食べてから、少しおばあさんを見にいこうかな、と思ったところでお馴染みの声が聞こえてきた。


「おーーい!!! ポーラ! どこ行くんだー!?」


 振り向くと、相変わらず顔に泥をつけたリックが小走りで私に追いついてきた。

 リックはニヤニヤしながら、懐から小さな鞠を取り出すと、「いーだろ」と手の中で跳ねさせて遊び始める。


 私は呆れながら、リックの肩を掴むと井戸端まで連れて行き、顔の泥を落としてやった。


「なによ、リック! 今日はお祭りなのよ?   顔の泥くらい落としなさいよ! あんたと遊んでる暇もないからね! 私は今からケーキを食べるの!」


 邪険に扱われてもリックは楽しそうに笑いながら答えた。


「おう! それじゃ俺も行くぜ。じいちゃんから小遣いもらったからよ」


 そう言うとリックは懐の皮袋を自慢げに取り出してみせた。

 リックも同様にお小遣いをもらったのだろう。


「ええ、なによ勝手に。女の子の付き合いもあるのよ」


「大勢で行ってもやかましいだけだって。静かに食いたいだろ? 滅多に食えないケーキを」


 そう言ってリックは私の手を引っ張り、小走りで駆け出した。


「もう、なんなの」


 観念して私はため息を吐いて、リックに手を引っ張られながら美味しそうなお店の前までやって来ることになった。


「うーーん! やっぱりおいしい! 苺とクリームのケーキ!」


 クリームと苺をたっぷりと使ったこのケーキは都から来た料理人さんが作ってくれたものらしい。

 ひと口を楽しむように私はケーキと温かいお茶をゆっくりと味わう。


 リックもケーキを食べながら、私の方を見て笑っていた。


「ほんと甘いもの好きだよな。おまえ」


「こんなに甘いの滅多に食べられないよ! もう一つ食べようかな……」


 あっという間にケーキを食べてしまった私は、また食べたくなり、やはり多くのお客で盛況なこの露店の様子を見つめる。

 また食べたいなら、もう一度並ばないといけない。

 リックは呆れたように一欠片残った彼の皿を見つめた。


「まだ食べたいのかよ。太っちまうぞ。それにもう一度並ぶのも面倒だなあ」


「なによ! 嫌なことばっかり言うわね!」


「怒んなって。ほら、苺一つやるから」


 そう言ってイチゴを一欠片掬いスプーンを私の口元に持ってきた。


「わーい! ありがとー!」


 私はそのままスプーンを口に入れ、クリームのついたイチゴを頬張った。

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