30 サクラモン王家に起きた悲劇
自分のことを話せ、と言われて私は少し考え込んでしまう。
「とは言われましても、何から話したものか……」
陛下の顔を見て、身振り手振りで私の生い立ちは至って平凡だったことを前置きしておく。
なんだか面白い話を期待されているようだけど、何やら特別な才能や出来事があったと思われても話しにくい。
「言っておきますが、私などは本当に普通の人間です。特に何か才能があったわけでも、経済的に恵まれたわけでも、また逆に貧しかった訳でもありませんでした。さて、何から話したものか……」
私の言葉に陛下は軽く頷いた。
「ふむ、そうだな。一方的に聞くのも君に失礼な話だ。語ってもらう前に少し私の話をしようか」
そして、何かを考えるようにしばらく目を瞑ったのち、ご自分の過去を話し始めた。
「私とジェレミーの両親…… 先のサクラモン王と王妃の話なのだが、公式には5年前に病死したことになっているが実際は違う」
陛下はまだ、17の頃に即位したと聞いている。
その若さで即位した理由はもちろん、前王が急逝したからに他ならない。
陛下は感情を交えずに話し続ける。
「国境近くのある栄えた街に表敬した際に、鉱山から発生した毒ガスによりその街ごと亡くなってしまった…… その日以来、私は若輩ながら王位に就くこととなったのだよ。私には両親の死を悲しむ暇も無かった。毒ガスの影響を考慮して、街に誰も立ち入ることも出来なかったため、遺体を目にすることも出来なかった。両親の死を実感するには時間がかかったよ」
淡々と語り続ける陛下の表情や声にも、哀しみは見て取れないが、私はそんな事まで話してくれた陛下の心境を思いながら目を伏せる。
「それは…… なんと申し上げたら良いのか……」
「いや、君が気に病むことではない。少し、私のことを話しておきたかっただけだ。それに、もう随分と昔の話だ。自分の中で既に消化している」
陛下はそう言って、微笑む。
そして、手振りで手のひらを見せ、敢えて朗らかな声で再び尋ねてきた。
「君のことも、少しでいい。ハードルを上げてしまったつもりは無いんだ。済まなかったな。気楽に話してくれるか?」
陛下は私の逡巡も理解してくれていた。
「特に何も無い」と言うのは、「何かあった過去」より話しにくいし、期待されている分話すのは恥ずかしい。
でも、そう言ってくれるなら、私の平々凡々なストーリーを話してみたいな、と思った。
「わかりました。少しお話致します」




