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29 聖女、休暇をとる②

 馬車から降り、村人の歓待を受け、宿泊施設に案内されると、早速食堂らしき所に通され、ようやく落ち着く。

 隣に座る陛下をチラと睨みながら、私は不満を吐き出した。


「……陛下 勝手に私に休暇を入れられても困りますよ」


 勝手なことを立案した陛下に一言言ってやりたかった。

 そんな私を見つめると陛下は肩をすくめ、微笑んだ。


「しかし、何度レオナが休めと言っても聞き入れなかったそうではないか。貴女に倒れられては困る。我が国だけの問題では無くなることを自覚していただきたい」


「それでも、余りに強引過ぎます」


「悪かった、悪かった。ほら、料理が運ばれてきたぞ。これで許せ」


 そう言って運ばれてきた料理に指差し、この話はお終いとばかりに手を打った。


「……もう!」


 少し腹が立ったが、運ばれてきた焼き魚を口に運ぶととても美味しい。

 私にとって珍しい穀物を使った粥も魚と合っていた。

 陛下も魚を食べながら、笑みを見せる。


「美味いだろう。ここのアユとマスは絶品だ。とれたてだぞ。塩も地産の岩塩を使っている」


「ええ、美味しいです」


「スープも絶品だ。ぜひ味わってみてくれ」


 料理は本当に美味しくて、癪だったが、私はもう文句は言わないことにした。


 昼食を終え、空の皿を片付ける給仕のおばさんの1人がニコニコと笑いながら、私を見て陛下に話しかけてきた。


「坊っちゃん、いいお方を連れてきなさったな。中々婚姻の話が聞こえてこないので我々は心配しておったのですよ」


 ああ、何か勘違いされてるな、と思っていると陛下が気まずそうに眉根を寄せながら苦笑して訂正する。


「……いや、この方はそういうのではないのだ。済まないな、期待に応えられず」


 おばさんはすぐ様、口を押さえて、申し訳なさそうに私に非礼を詫びた。


「まあ、それは失礼しました。ごめんなさいねえ」


 もちろん悪気はないだろうし、私は会釈で返答する。


「いえ、お気になさらず」


 給仕の方が行ってしまうと、陛下は私に謝ってくる。


「済まないな、ポーラ殿。軽口は気にしないでくれ。あと、貴女が聖女である事は村人は知らない。公式には君の存在を公表していないからな。申し訳ない」


 そう、聖女と認定されている私がサクラモンにいることを公表すると、コモドスがどんな言いがかりをつけてくるか分からず、国際情勢にもどう影響するか不明なので、今のところ私の所在は伏せられている。


「大丈夫です。気にしてませんから」


「そうか、なら良い」


 そして、村に着いてからの陛下への歓待振りや親しげな口振りを思い出して尋ねてみる。


「陛下は随分とこの村の方たちと親しいのですね」


「ああ、私もジェレミーも幼少期に1年ほどこの村で暮らしていたことがあるのだ。父の方針で、民草の生活に触れよ、とのことでな」


 サクラモンは王族なのに中々ユニークな育成方針のようだ。

 セルデュクの王家のことを思い出して比べてみる。


「なるほど、我が国の王家とはすごい違いですね」


「ふふ、コモドスなどと比べられても面白くないがな。よく魚を釣り、ウサギを追いかけ、カブトムシを取ったものだ。ああ、畑仕事の手伝いの合間にだぞ?」


 陛下の意外な趣向におかしくなって私は笑ってしまう。


「あらあら、男の方って本当にカブトムシがお好きですねえ」


「なんなら、今晩採取に行くか? 木に黒蜜を塗っておけば大量に取れるぞ」


 陛下は本当に楽しそうにそう言うが、流石にカブトムシに興味はないので、丁重に固辞する。


「いえ、申し訳ないですがそれは結構です」


 聞いていたレオナが呆れたようにため息を吐き、陛下を嗜める。


「……陛下、カブトムシなどと。ポーラ様が引いているじゃないですか」


「なんだ、カブトムシは男のロマンだ。わからないか。つまらんなあ」


 陛下は頬をかきながら、不満そうに腕を組む。


「まあ、五連休もある。ゆっくり休んでくれ。村で出し物も色々用意してくれているようだから、飽きないだろう」


 演劇や村伝統の舞踊なども披露してくれるそうだ。

 この機会にサクラモンの文化に触れるのも悪くないかもしれない。


「村の方たちが用意してくださるのですか。わざわざ申し訳ないですね」


「遠慮することはない。休める時は休んでおけ」


 ついでに陛下に頼み事をしてみる。


「陛下、あの、早速医療関係のお話で申し訳ないのですが、ポーション生産の為の人材と場所を確保していただきたいのです。お願いできないでしょうか?」


 ポーションの素材は見つけた。

 後は生産態勢を整えて、出来れば多くの医療施設が使えるように流通させたい。


 陛下は提案に二つ返事で頷いてくれる。


「おお、ジェレミーを救ったあの奇跡の薬だな? もちろんだ。すぐに予算を組もう。理論は私などにはわからないが、あれはすごい薬だな。我が国のためにもなる」


「ありがとうございます、陛下」


 我が国セルデュクではこうはいかないだろう。

 私は陛下に深く頭を下げた。



 デザートも食べ終え、陛下は茶を啜りながら私に向き直り尋ねてくる。


「さて、こうして膝を突き合わせる機会も少ないよな。少し君のことを聞かせてもらえないか?」


「私、ですか?」


 透くような碧眼で陛下は私を見つめる。


「ああ、個人的な興味だ。君が気分を害さない程度に話をしてもらえないかな。君の生い立ちと…… どうやって君がそんな医療や魔導の知識を身につけたのか気になる」

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