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26 恐怖の朝

 セルデュクの王都ゼメルガは、今日も朝から賑わっていた。

 1番広い通りでは、行商人が行き交い、活気のある声が飛び交う。


「いいモロコシが入ったよーー! やすいよ、安いよ!」


「古くなったり割れたりした皿買い取るよぉー!」


「寄ってって! 寄ってって! 昼から演劇を始めるよ!」 


 いつもの通りの光景であったが、その日は不穏な影が差す。

 カチャカチャと甲冑の鉄が打つ音が響いた。

 民衆が手を止め、音の方を見遣ると多くの騎士たちが隊列を組んで、広場の方へとやってくる。


 民衆たちは騎士たちを見物しながら、思い思いにヒソヒソと話を始める。


「物々しいな? おい、武装した騎士がやってくるぞ?」


「まーた、戦争関連かなあ。うんざりするぜ」


 その時、民衆の1人が慌てた声をだす。


「……お、おい! なんだあれ……!」


 やがて、騎士たちの掲げているあるものに気づいた民衆たちの好奇は、恐怖へと変わっていく。


「アイツら、何を掲げてやがる!? ……う? うわぁぁぁぁぁぁ!?!?」


「ひぃぃぃぃぃぃぃ!?!?」


「な、なんだぁ!? こいつら!? し、正気か!?」


 民衆たちの目線の先には、騎士たちが手に持つ槍や棒にくくりつけられた生首があった。

 よく見ると、騎士たちは返り血か何かで赤く染まっている者が多い。

 やがて広場の中央に着くと、騎士たちは生首を並べ始めた。


 民衆たちは戸惑いながら、騎士たちの作業を遠巻きに見つめる。


「ざ、罪人か?! しかし、物騒な!」


「なんなんだ!? いったい!」


「酷いことをなさるなあ」


 生首を並べ終えたらしい、騎士たちは見物している民衆たちに大声を飛ばした。


「静まれ! 民衆ども! 此奴らは王太子コモドスさまに逆らう反逆者である!」


 民衆たちは戸惑いながら、誰ともなく尋ねた。


「は、反逆者!?」


「それにしても酷い……!」


「なんと惨たらしい……」


 そして、1人が震えながら、首の一つを指さした。


「……! おい! あの首……!」


「な、内大臣さまじゃないか?! ああ、なんてこった!」


 内大臣ダグラス・カストールの生首もその中にあった。

 目を閉じ、傷口から赤い血を垂らす青い首は無念を訴えているようであった。


 心ある民衆は、涙ぐみながら、生前のダグラスを思い返す。


「お優しい方だったのに……」


「嵐や飢饉の時、あの方が居なければ都はもっと荒れていたよ……」


 騎士たちはそんな民衆たちを睨みつけ、また大声で叫ぶ。


「静粛に! 静まれと言っておる! いいか! これより王太子殿下の御言葉を読み上げる! よくきけ!」


 そうして、騎士の1人が前に出ると紙を取り出して読み上げ始めた。


「内大臣ダグラス・カストール、宰相クリディス、農務大臣ブリウスetc…… これらの面々は王に仕える身でありながら、勅書を破き、陛下の了解を得ずに帰国しようとした忌々しい反逆者共である! 更には国家事業である隣国の征服にも反対していた! このように首を晒されるのは自業自得である!」


 コモドスは近衛兵に命じ、戦争に反対していた議員たちを一晩で皆殺しにした。

 広場に晒された全ての首が無念を訴えているかのようだった。


 一方的な理屈で、残虐なやり方を正当化する文言は民衆たちにも到底受け入れられるものではなかった。


「……なんとまあ」


「むごいことだ……」


 騎士たちは脅すように民衆たちを睨みつけた。


「王家に逆らえばこうなる! この首は数日晒しておけ、とのコモドスさまのご命令だ! お前たちもこの無様な姿を見たなら、つまらんことは考えないことだな!」

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