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19 宰相、内大臣に助けを求める①

 セルデュクの王都ゼメルガは、大陸随一の繁都であり、煌びやかな街中を多くの人々が行き交う。

 馬車に揺られ、宰相は考える。

 先日の国会で、コモドスはますます狂態の度を増していた。

 もともと幼少期より傲慢な男だったが、そのまま成長した人間が王権を握ってしまったと言う感じだ。

 このままでは、冗談ではなくセルデュクが滅んでしまう。

 ……もはやこれから会う男に協力を仰ぐしかなかった



 立派な門構の屋敷の前で馬車が止まり、近習が目的地に到着したことを報せてくる。

 宰相は考え事をする渋い表情のまま、馬車から降りると、近習に先導されながら、屋敷に入っていった。


 屋敷の執事長が宰相を鷹揚に迎え入れる。


「おや、これは宰相閣下! お久しぶりですねえ。ダグラス様も貴方のご心労を心配してましたよ」


 都では下々とされる者も、まるで友人のように貴族に話しかけてくる。

 これが辺境伯カストール家の流儀であり、ダグラス・カストールが3年前に自領の家臣を引き連れ、王都にやってきた頃は、宰相自身も面食らったものだった。


(彼のやり方も悪くない)


 宰相は密かに苦笑しながら、取り次ぎを依頼する。


「……ああ ありがとう。私は大丈夫だ。内大臣閣下に会わせて頂けぬか?」


「はい、庭に居ますので案内します」


 庭に案内されると、広い芝が辺り一面に広がり、一頭の馬が人を背に乗せ駆けていた。

 馬上の人は宰相を認めると、そのまま駆け寄って来て会釈してくる。

 宰相は笑みを作り、彼に会釈し返す。


「お邪魔しております。相変わらずご精悍なことですな、内大臣殿」


 内大臣ダグラス・カストール。

 セルデュクの国王ブラスの妹を娶り、陛下や国民の信頼も厚い貴族であり、宰相は彼を頼りに屋敷へとやって来た。

 その中年の男の筋肉質の身体はシャツの上からでも充分に伺え、ひらりと跳ねるように下馬すると、爽やかな笑みで宰相に挨拶する。

 そして、宰相も促されるままに庭に設置してあるテーブルに共に着くと、執事が茶と食事を置いていった。


「宰相閣下。久しいですね。お忙しい中、わざわざうちに来られるくらいだ。何用ですかな?」


 ダグラスがそう切り出すと、宰相は小さくため息を吐き、早速本題に入る。


「……貴方が欠席されておられる間に、ますますコモドス殿下が増長されてます。陛下が病床に伏せられた今、殿下に釘を刺せるのは叔父である貴方様しかいません」


 半年前にブラス王が病に伏せて以来、コモドスはサクラモンとの戦争を始め、彼のやり方を批判する議員の言う事を一切聞こうともしない。

 加えて先日の議会での傲慢な振る舞いである。


 ダグラスは茶を啜り、つまらなそうに菓子を齧った。


「……コモドス殿下の癇癪は今に始まったことではない」


 宰相は全くコモドスに関わる気が無さそうなこの男に、なんとか喝を入れ無ければならぬ、と考える。


「ますます酷くなっております! 先日など、国民からの徴兵と、増税を議案にかけたので、我々は必死に阻止しました……! そればかりか、あの聖女ポーラ様を我々の預かり知らぬところで裁判にかけ、聖女の資格剥奪を宣言した上で、行方不明に追いやってしまったのです!」


 悠長に構えていたダグラスも、その言葉に顔色を変え、驚愕する。


「……なんだと? ポーラ様が……」


「そもそも陛下が病に倒れられて以来、コモドス殿下が議会の主導を握り、隣国サクラモンとの戦争をおっ始めました。我々重臣の意見を聞く事なく。陛下にお戻り頂きたいが、コモドス殿下と彼奴の認めた侍医以外、陛下に近づくことも出来ず、我々は皆頭を抱えております……!」


 ダグラスはカップを飲み干すと、顎に手を当て考え込む。

 宰相はこの機とばかりに、ダグラスを説得し、何としても議会に出てもらおうと畳みかける。


「お願いです! ダグラス殿! 議会に出席して、コモドス様を説得してください! あの愚かな小僧が次にどんなとんでもないことをしでかすことか!」


 ブラス王が病床に伏せってより、ダグラスは一向に議会に出席する事はなかった。

 コモドスと意見を違えることを予見していたからだろう。

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