17 聖女、サクラモンの病院を周る
タダで衣食住を提供してもらうのは心苦しく、私はサクラモンの病院を周り、重傷患者たちを治療していた。
ついでに医療者に治療や衛生の基礎を説くことにする。
「まずは傷口を洗うのです。沁みますが、アルコールで洗浄しなければ、外からの汚れが入り、他の病気に罹ってしまう怖れがあります」
「……なるほど」
「同様にベッドのシーツもこまめに洗浄しましょう」
「分かりました」
医療者たちは、皆、神妙に私の話に聞き入り、メモを取ってくれる。
これくらい意識が高いと教え甲斐があるというものだ。
ある患者さんの、血で汚れた包帯を換えながら、私は感染症の危険について説明する。
「これくらい汚れてしまうと、危険です。包帯も取り替えないと。陛下に頼んで、包帯の在庫も増やしてもらいますね」
「そうして頂けると、助かります」
「怪我人の治療も追いつかなくて…… 何でもいいから手が欲しいです」
戦場から運ばれてくる重傷者は私の祖国との戦争で傷ついた者たちだ。
戦が続く限り、怪我人は増え続ける。
状況はセルデュクにいた頃と変わらない。
複雑な思いで、私は疲弊した様子の医療者たちを見回した。
「微力ながら、私も医療従事者の育成に協力致します。時間はかかりますが、きっと乗り切れます」
医療者たちは、己を奮い立たせるように、声を大きくする。
「……聖女さま ありがとうございます!」
「千切れた腕さえ繋げる、その手技、是非私たちも習いたいです!」
「ええ、もちろんです。これでより多くの人が助かるなら……」
私の考案した外科手術の手法は、まだ一般には広まっていない。
だが、この技法が世間に広まれば、魔力を持たない者でも重傷者を治療できるようになるはずだ。
病院での仕事を終え、城に与えられた部屋に戻ると、レオナが労いと共に尋ねてくる。
「お疲れ様でした、ポーラ様。お風呂と食事どちらを先に致しますか?」
「……あー ありがとう、レオナ。お風呂に入るわ」
「かしこまりました。すぐに」
そして、今日の手術で秘薬を使い切ってしまったことに思い当たる。
「それにしても、ポーションの在庫が切れてしまったのよね? 素材を探しに行かないと」
「……お陰で多くの人が助かりました 貴重なポーションを惜しみなく使ってくださり、ありがとうございます」
レオナは深く頭を下げてくるが、「客」として扱われるのは心外だ。
「もう、お礼なんか言わないで。この国にいる以上、私もこの国の医療従事者だわ」
「国を越えるそのご慈愛、本当に見習いたく思います」
「大げさだってば。それにしても…… この国でも、素材が見つかるかしら?」
ポーションの素材を探さなければならない。
サクラモンにも素材となる植物が存在するだろうか。
不安になるが、レオナは力強く頷く。
「私にお任せください。ポーションの素材場所、当てがありますよ」




