11 ザラ、犬を飼う
ザラはコモドスの処刑から救ってやった衛兵たちを見回し、ニコリと微笑んだ。
衛兵たちの手足は繋がれたままである。
「さて、あなたたち。危うく処刑されかけたわね。助けてくれたのは誰かしら?」
衛兵たちは、大声で答える。
「それはもちろんザラ様です!」
「御恩は忘れませぬ!」
「我々一同、身を粉にして貴女のために働きます!」
彼らは忠誠を誓い、拘束が解かれたら逃げ出そうと考えていた。
そんな思惑を知ってか知らずか、ザラは満足そうに笑う。
「そう、いい心がけね。でもね、悲しいかな、人って忘れる生き物なの。私はそれをようく知っているわ。だからね? あなたたちには、忘れないための枷が必要よね?」
そう言ってザラは衛兵たちの手足の拘束を更に強め、動けなくすると盆を持ってくる。
衛兵たちは、盆に盛られたソレを見つめ、嫌な予感に震え始めた。
「ザラ様?」
「……何をなされるのです?」
「な、何なのです⁉︎ その珍妙な生物は?」
ザラが持ってきた、その盆にはうぞうぞと蠢くミミズたちが山のように盛られていたのだ。
ザラは盆を彼らの前に置くと、衛兵たちに柔らかに微笑む。
「あら、珍妙だなんてひどいわね。言ったでしょ? 私ねえ、人に裏切られるのってとても悲しいの。だからね? あなたたちが裏切らないようにしてあげる。大丈夫。あなたたちも私のこと大好きでしょ?」
ミミズたちは、盆から這い出ると衛兵たちの身体を伝い登り始める。
衛兵たちは必死にもがくが、強く拘束されているため、床に座らされた姿勢のまま動けない。
「な、なんだそれは……?」
「や、やめてください! ザラさまぁ!?」
泣き始める衛兵たちに、ザラは優しく微笑んだ。
「大丈夫だって。見た目はアレだけど、あなたたちを私の忠実な犬にしてくれるわ」
遂にミミズたちは、衛兵たちの口の中へと侵入し始める。
「や、やめっ!? ……うわぁぁぁぁぁぁ!?」
「お、おやめくださ……! ウッ⁉︎ 」
「も、モゴォォォォォォォォ!?!?」
数秒ほどで、ミミズによる衛兵たちへの侵入は終わった。
ミミズを食わされた衛兵たちは、虚な表情で、口から白い煙を濛々と吐く。
やがて数分で変態は終わったのか、衛兵たちは息を切らせ、正気に戻ったように見えた。
衛兵たちは力を込めると、自力で拘束されていた鎖を断ち切る。
まるで人外のような膂力だった。
そして前と見た目は変わらない様子でザラを見つめ、跪いた。
ザラは衛兵たちに尋ねてみる。
「どうかしら、気分は?」
衛兵たちは、虚な瞳でザラを見つめ一斉に応える。
「「「いい気分ですよ、ザラさま」」」
「……そう、良かったわ」
ザラは椅子に腰掛け、満足そうに彼らを見て笑う。
「フフフフ……! 私を裏切る事のない忠実な犬の完成ね!」
ザラは胸元のペンダントを撫でながら、その瞳を怪しく光らせた。




