魔を穿つ星の光
太陽が昇り、エルナは窓から射し込む光で目を覚ます
「ふぁ〜お……」
眠い目を擦り寝間着から着替え、聖堂へと向かうと二ムスが祈りを捧げていた
「あ、おはようお父さん」
「おはようございますエルナ、朝ごはんが出来ているので冷めないうちに食べてください」
そう言うと二ムスは傍らに置いていた鞄を手に外出の準備をする
「どこか行くの?」
「ええ、村の外に王都からのお客様が来る予定ですので、村長さんとお話しをしに行くんですよ」
王都というのはこのビギム村がある一帯、エルスティア領を統治する王都エルスティアの事だ、かなり大きな都だと言うのは二ムスからよく聞いていた
「どんな人なの?」
「王都で魔法の研究をしている方ですよ」
「お父さんって王都に知り合いがいたんだ、初めて知ったよ」
「昔、冒険者をしていた頃の友人でしてね…話すと長くなるのですが…」
二ムスは話そうと思ったが壁に掛けてある時計を見て話を切り上げる
「おっといけない時間が…この話はまた後でにしましょう、夕食までには戻りますので教会の事はお願いします…あ、お昼ご飯はまたお弁当を用意してあるので食べてくださいね」
「うん、わかった!行ってらっしゃ〜い!」
エルナは二ムスを見送った後朝ごはんを食べ、聖堂の掃除を始めようと思い付くが
「うーん…いつもお父さんがピッカピカにしちゃうから特にする事がないや…」
エルナがする事も無く、適当な本を読んで時間潰しをしていると教会の扉が開く
「…?あっ、い、いらっしゃい迷える子羊!!」
エルナが慌てて挨拶をするとそこには昨日ぶつかった赤髪の女性がそこにいた
「…」
(あの人は確か…)
「あっ、貴女は昨日の…ごめんなさい、昨日きちんと謝れなくて…」
「いいや、気にしていない」
赤髪の女性はエルナの目の前まで歩いて来ると、エルナの事をじっと見つめる
「えーと…なんでしょうか…?」
「…この子供が勇者の…いや、まさかな」
赤髪の女性は小さく呟くと、踵を返して外へと向かう
「あ、あれ?お祈りは…」
「必要ない、邪魔をした」
赤髪の女性がそう言って外へ出て行ったのと入れ替わりでアイカとミリアが入ってくる
「おはようエルナ」
「よーエルナ、今日はお前が牧師サマやってんのか」
「うん、今日はお父さん外でお話しに行くんだって」
「へー、誰と話すんだ?」
「なんか王都で魔法の研究をしてる人らしいよ」
「二ムスさんって王都の人と関わりがあったのね、どんな人脈なのかしら…」
「なんかお父さん昔冒険者をやってたらしいくて、その時の友達なんだって」
「へぇー!エルナの父ちゃんって冒険者やってたのか!結構ひょろっちいから意外だわ…」
そんな話をしている中エルナはふと思い出す
「そういえば2人は赤い髪の女の人見た事ある?2人と入れ替わりで出てった人なんだけど…村で見たことない人だから気になってさ…」
エルナの質問に2人は顔を見合わせる
「いや?アタシは知らないけど」
「私も知らないわね…もしそんな人がいたら私もお父様もすぐ気づくだろうし…」
「お前本に出てくる登場人物を妄想しただけじゃねぇの?」
「もう、違うよー…うーん…気のせいだったのかな?」
気のせい、にしようとしてもやはり先程までいた女性は妄想だとは思えなかった
「ま、そんなこと良いだろ!暇だから遊ぼうぜ!」
「もうアイカったら…エルナはお仕事の最中でしょ?諦めなさいな」
「そうなの、また今度…」
そう言いかけてエルナはふとあの台座を思い出す
「いや、やっぱり遊びに行きたい!」
「え、でもエルナお仕事があるんじゃないの?」
「教会は今日臨時でお休みって事にすれば…多分大丈夫!」
「なんだ、言ってみるもんだな!よしいこーぜ!」
「大丈夫かしら…?」
そう言ってエルナはお弁当を持ち、教会の扉に(臨時休業です)、と貼り紙をして外に出た
───────
「遊ぼう!つったけど特に何も決めてないな!」
「無計画の擬人化みたいねアイカは…」
「まあまあ待て待て、このアイカ様が無敵のお遊びプランを今考えるから…」
悩むアイカへエルナは告げる
「ごめんアイカ!私どうしても行きたいところがあるの!」
「え?行きたい所?」
「と言ってもどこにするの?エルナ」
「もう一度、あの森に行きたい」
アイカとミリアは顔を見合わせ困惑の表情を浮かべる
「連れてったアタシが言うのもあれだけどさ、またぶっ倒れられたらやだぞ?」
「大丈夫!なんか今回は大丈夫な気がするの」
「うーんまぁアタシも探索し足りなかったし、リベンジって事で行くか!」
そんなエルナとアイカが盛り上がっている所にミリアが釘を刺す
「ちょっと待って2人とも!はしゃいでる所悪いんだけど、昨日はバレなかっただけであの森は立ち入り禁止なの忘れてない?」
「えー、ケチケチすんなよミリア〜」
「ケチケチって言うか…エルナも、私達もだけど、今度はお父さんに怒られるかもしれないわよ?」
「ごめんミリア、それでも行きたいの…」
何か覚悟を決めたようなエルナを前にミリアは頭を抱えて
「む〜…もうしょうがないわね…そんなに行きたいんだったら…仕方ないかぁ、良いわ、行きましょう」
「よっしゃ!村長の娘直々の承認だぁ行くぞ〜!」
「おー!!」
「……やっぱり止めようかしら」
───────
そして私達は再びあの森にたどり着いた
「よっしゃ探検隊隊長アイカ様についてこーい!」
「おー!!」
「おー…」
乗り気な2人と気乗りしないミリアは森の中を進んで行く
森は昨日と変わらず穏やかな様子であった
そして進んでいる所でアイカはふと思い出した様にエルナに質問する
「そういやさ、お前の教会って何を信仰してんだっけ?」
「忘れたのアイカ?どこの教会でも世界樹信仰でしょ?」
「アイカったらさすがに無関心すぎじゃない?」
「知らなかったんだからしょうがないだろーぶーぶー!」
「せっかくだし教えてあげよう〜」
エルナは自慢気に説明を始める
「この世界では海の中心にそびえる世界樹を信仰しているの、かつて魔物達が世界を支配し、暗黒に閉ざした後、その絶望の中でも勇者様が頑張って世界を救った…ってのは知ってるでしょ?」
「おう、それくらいは何とか知ってる」
「そこもギリギリなのね…」
ミリアが突っ込みを入れる中エルナは続ける
「それで世界は救えたんだけど、世界に蔓延るこの暗黒…まぁ悪い空気って感じで考えて貰えばいいかも」
エルナは地面に棒で絵を書き出す
「それを浄化するのに勇者様はかなり悩んだみたいで色々な魔法で対策してみたらしいんだけど…どれも一時的で、結局完全に取り払う事は出来なかったみたいなの」
「じゃあどうしようもないじゃん」
「そう、だから勇者様は色々な知恵を頼る事にしたの、王国の大魔法使い、東の国の仙術使い、森の精霊使い、霊峰の頂上に住まう大いなる龍…とたくさんの知恵を」
「ほほー」
「そして各々の知恵を募った勇者様は野を超え山を越えそして海を超え、やっと世界樹という存在を知ることになるのだけど…実はその世界樹は暗黒の力によって力を失っていたの」
「それじゃあやっぱりどうしようもないじゃん」
「そこで皆から募った知恵が役に立つの!」
エルナが地面に描き出す絵が気合いの入った物になっていく
「大魔法使いからは魔力を高める方法、仙術使いからは大気に溢れる魔力を制御する方法、大いなる龍からは地脈を活かす方法、精霊使いからは精霊の力を扱う方法…と勇者様自身の救世をもたらした偉大な力を使って世界樹を蘇らせる事に成功するの!そして世界樹の力によって再び世界は光を取り戻し、今の平和な世界になったってわけ!」
「ふーん…でもさ、それだと信仰の対象って勇者にならね?」
「確かにそうね、世界樹のおかげで世界は今の状態になったけど、それも勇者がいたからだしね」
「それはそうなんけど、この話には続きがあってね、実は勇者様が信仰の対象になる事についてね
【僕は結局ただの人間、すぐに消えてしまうただの命さ、信仰される様な存在じゃない、それでも何か信じたいものがあるのならば…この樹を信じて欲しい、これは何にも揺るがすことの出来ない希望の象徴、僕なんかよりもずっと信仰に値するはずさ】
…って言ったから信仰の対象が世界樹になったんだって」
「ふーん…まぁ聞いといてなんだけどさ、お前この長い話よく全部覚えてたな」
「そりゃまあ…牧師の娘だしね!」
そんなエルナの説明を聞いているとふと違和感に気づく、昨日はそこかしこから聞こえていた動物達の声が聞こえないのだ
「そういえばさ、昨日は色んな所から聞こえてた動物とか虫たちの声が聞こえないね…」
「んぁ…?そういえばそうだな」
「うーん…なんだか不気味だし、やっぱり帰った方が良いんじゃないかしら…?」
「まぁまぁ!昨日は大丈夫だったし今日も平気だろ!」
「そうだと良いけれどね…」
そして3人は再びあの台座の前にたどりつく
「昨日はあんま見れなかったけど、今回はしっかりいじくって…じゃなかった観察してやるからな〜?」
「アイカ…誤魔化せてないわよ…」
はしゃいで周りを物色し始めるアイカをミリアは見張っている、エルナは台座の剣をじっと見つめ、再び触れてみるが、今回は特に目眩などは起きなかった
(何も起きない…もしかしたら、昨日の見たあの景色の続きが見れると思ったんだけど…)
エルナは少し落胆した様子で剣から手を離す、すると
「ギャォォォォォォォォ!!!!!!」
「「「!?」」」
巨大な獣のようなけたたましい絶叫が森中に響き渡り、3人を恐怖させる
「な、なんだよ、今の」
「もしかして、魔物…!?」
「も、もう帰りましょう!?早くここを離れ…」
ミリアがそう言いかけた時、声の主は凄まじい速度で森をなぎ倒し、3人の前に現れる
「わっ!」「きゃっ」「ひいっ!?」
そこに現れたのは血に塗れた巨大な狼の様な異形であった、その異形の目は血走り、血の涙を流し口覗く鋭い牙は先程まで何かを捕食していたのだろうか、何かの肉片が挟まっている
「ど、どどどどうしま、どう…」
「2人ともアタシのう、後ろに!」
エルナは声も出せず、その場で膝から崩れ落ちる
(わ、わたしが此処に来たいって言ったから、2人が、私も、し、死…)
「ギャアアアアアアア!!!!」
異形の咆哮で強気になっていたアイカは歯をガチガチと震わせ涙を流す
「こ、怖くねぇぞ!来るならこいよ、こ、来いって!!」
アイカは昨日拾った木の棒を構え異形の前に突き出す、だがその勇気も虚しく異形の前足の一振で弾き飛ばされ、木に叩きつけられる
「ごぼぁっ!?」
「ア、アイカ!?いやあああ!?」
アイカが弾き飛ばされた光景を見たショックでミリアはその場で倒れ、意識を失ってしまった
「アイカ、ミリア、あ、あぁ…」
エルナは恐怖に竦み、ただその光景を見ているだけしか出来なかった、だがその瞬間
『剣を取れ、エルナ・グランフォード』
「…え?」
すぐ後ろ、剣から声が聞こえる
「取れ…って」
その時エルナの身体から恐怖が消え、すぐに立ち上がり、その剣を掴む、そしてその剣はあまりにも容易く台座から引き抜かれた
「け、剣が…!」
『あの異形に向け、剣の名を叫べ』
「剣の…名を…」
剣を引き抜いたエルナに気づいた異形は血走った目を向け、エルナへと向かってくる!
『さあ叫べ!!』
瞬間、エルナの脳に流れ込む剣の記憶、それは
星の輝きを宿し、魔を滅する星の極光!!
「極星剣!!レディエント・シュヴェーテ!!!!」
エルナが名を叫ぶと、錆びた剣は再び極光と共にその輝きを異形に向けて放つ
「グァオ!?」
異形の身体は極光に撃ち抜かれ、粉々になって完全に消滅し、後に残ったのは放たれた光による破壊の跡だけであった
「やっ、やった…?」
エルナは安堵したと同時に2人の友人の事を思い出し、駆け出した
「アイカ!アイカしっかり!」
「う…あ…エル…ナ…?」
意識はあるようだが負傷が激しく、目を開けることもままならない
「ど、どうしよう!このままじゃアイカが
…!」
エルナがどうしようもなく狼狽えていると
「なんと凄まじい破壊の痕跡…」
「ここで一体何が…っ!?エルナ!?」
「お、お父さぁん…!!」
そこには急いで駆けてくる父二ムスの姿と見慣れない色白の眼鏡の痩せた男性があった
「色々と言わなければならない事はありますがまずは2人を村へ送りましょう!エルナ、立てますか?」
「うん…うん…!」
唯一此処に意識を持って立っているエルナの傍らに転がる剣と破壊の跡を眼鏡の男は交互に見て驚く
「まさかこの子がこの破壊を…?そんな馬鹿な…」
そして二ムスは怪我をしたアイカとミリアを抱える
「さぁ行きますよ!アイカさん、少し揺れますからね!」
そしてエルナ達は村へと急ぐのだった




