はじまり
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村の中央にある教会の中で1人、少女は集中して本を読んでいた。
少女が持っている本は、勇者の伝承について書かれているものだ。
「……」
集中して本を読む少女に後ろから声を掛ける人物がいた
「おや、今日も読書ですか」
「わっ!?わわわわ!!」
急に声を掛けられ本を落としそうになるエルナ、なんとか落とさないようにして声を掛けてきた人物の方を見る
「おっと、驚かせてしまいましたか」
彼の名はニムス・グランフォード、この教会の牧師であり、エルナの育ての親である。
「お父さん、急に後ろから声を掛けないでよ!びっくりするんだから…」
「ははは、申し訳ない」
ぷくっと頬を膨らませて怒るエルナを見てニムスは笑う
「ところで、エルナ」
「はい?」
「今日はお友達と遊びにいくのではなかったのですか?」
「ふぇ?」
エルナは壁に掛けられている時計を見てギョッとした
「わあっ!?時間時間……!」
エルナは自分の部屋へと駆け足で飛び込み、わたわたとしながら荷物を持って出てくる
「じ、じゃあ、行ってきます!」
「あんまり急ぐと転んで…」
「わぶっ!?」
エルナは床につまづき盛大に転ける
「だから言ったのに……ほらお弁当も忘れないで持って行ってください」
「あはは……じゃあ行ってきます!」
お弁当を受け取って走って出ていくエルナを見送るニムスであった。
ここは小麦の農業が盛んなビギム村、かつて勇者が産まれここで死んだとされる村、
村の中央のにはその勇者を象った石像が建っており、村のシンボルになっている
エルナは村はずれの森へと向かって駆け足で向かっていく
(まずいまずい遅刻しちゃう……!)
エルナが急いでいると
「あびゃ!?」
「...!」
目の前から歩いて来た女性に気づかずぶつかって尻餅をつく
「いたた...あっ!ご、ごめんなさい!」
エルナは慌てて立ち上がり謝罪するも
「...ふん」
女性はエルナを一瞥しそのまま歩いて行ってしまった
「……綺麗な赤髪...初めて見る人だ...」
その場で思わず見とれていると
「おーいエルナー!そんなとこでぼーっとしてたのかー!」
向こうから大声でエルナを呼ぶ少女の声が響く
「おせーぞー!何やってんだよー」
「もう、遅いから心配したのよ?」
エルナは走って2人の元に向かう
「ごめん2人とも!本読んでたら遅くなっちゃって...」
「まったく、相変わらず本の虫だなお前は...」
彼女の名前はアイカ・ロックス、村の木こりの家の娘で気が強くいたずら好きな女の子だ。
「今度やったら怒っちゃうわよ?もう」
そしてこっちの柔らかい言葉使いの女の子は村長の娘でもあるミリア・クロフォードだ。
今日は彼女達と親に隠れて森で探検をしよう!と集まる約束をしていたのだ
「お前ら親にこの事はバレてないな?」
「うん、ばっちり」
「ええ」
エルナとミリアはアイカに親指をぐっと立てて返す
「おっし!それじゃ行こう!」
意気揚々と森に入ろうとするアイカへエルナは
「そういえばアイカ、何で大人の人に内緒で森に来ようって言ったの?」
「突飛な事を言うのは何時もの事だしね、私も突っ込むのを忘れていたわ」
アイカはニヤつきながら答える
「実はな?ゆうべに村の大人達がこぞって森に入ってくのを見ちゃってさ〜、何やってんのか気になるじゃん?でも1人で見に行くのはつまんないからお前らを誘ったワケよ!」
それを聞いてエルナとミリアは呆れた顔をして
「子供っぽい理由だね」
「そんな理由だったのね……」
「そんな顔すんなよー!お前らも気になるだろー?」
「まぁ...気にならない訳では無いけれど...どうしようか?エルナ」
「正直ちょっと気になるし...危なくなったら帰るって事なら良いかな」
「よーし!それじゃ気を取り直して行くぞー!」
そしてエルナ、アイカ、ミリアの3人は森へと足を踏み入れていった。
森の中は木漏れ日が差し込み、鳥や虫の鳴き声で遠くから聞こえてくる
「なんか、もっとヤバそうな感じかと思ってたけど結構いい感じの森だなここ」
アイカは道に落ちていた気に入った形の木の棒を持ってずんずんと歩いていく
「大人の人達が入るなって言うからてっきり魔物が襲って来るのかと思ったけど、そんな気配もないね」
「そうね、でももしもの事もあるから気をつけましょうね」
そしてしばらくの間3人が森を歩いていると錆びた剣が刺さった台座が見えてきた
「おっ!なんか凄そうなの見つけたぞ!」
アイカは台座を見つけると嬉しそうに駆け出して行く、エルナとミリアもそれに続く
「すごいね!なんだろこれ……」
「なんだろう…って、これ何かに似てない?」
エルナは興味津々で錆びた剣を見つめているとミリアが不思議そうに言う
「えっ?」
エルナはミリアを見る
「ほら、村の中央にある勇者様の像が持ってた武器がこれと同じだったはずよ?」
「あっ……確かにそうだね!」
「そういやこの森って勇者が生まれて死んだ場所なんだよな……なんかそれっぽい」
「アイカ…あなた適当すぎよ」
適当な事を言うアイカをよそにエルナはなんとなしに剣に触れてみる
「うっ!?」
エルナは突如目眩がし頭を押さえる
「大丈夫?」
ミリアはエルナを支えてあげる
「うん……大丈夫だよ」
「ほんとに大丈夫か?何か顔色悪いぞ?」
「早めにここを離れましょうか、エルナも体調が悪そうだし、もし大人達にここに来ているのを見られたら大目玉よ」
「それもそっか、しゃーない帰るかー」
エルナの体調が優れないので3人はすぐに村へと戻っていった
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村へ戻った後、エルナの体調が戻った後は二ムスの作ったお弁当で昼食を摂り、談笑をし、夕方まで遊んだ後に別れた
「ただいまー」
「おかえりなさいエルナ、夕食の準備をするので手伝って頂けますか?」
「はーい!」
エルナは部屋に鞄を置いて台所へと向かう
「それではその野菜をお願いします」
「はーい」
渡されたキャベツをエルナは慣れた手つきで切っていく
ニムスはハムを厚くスライスし、水と野菜を鍋に入れていく、今日は野菜がたっぷり入ったスープのようだ
その隣でエルナはじゃがいもをすり潰し、砕いたきゅうり、細かく刻んだ人参を塩と胡椒で混ぜ、ポテトサラダを作っている
「よし、出来た!」
「では、食べましょうか」
机に出来上がった料理を並べ、祈りを捧げてから食べ始める
「「いただきます」」
エルナと二ムスは食事に舌鼓をうち、朗らかな表情になる
「「ご馳走様でした」」
そして食器を片付けていると二ムスが
「そういえば今日のお弁当、どうでした?足りましたか?」
「うん、たまごサンド美味しかったよ!2人も美味しいって言ってた」
「ふふふ、それは良かった、そういえばエルナ達はどこで遊んでいたのですか?広場では見かけなかったので」
「あっ、えっとミリアの家で遊んでたんだ〜」
「そうでしたか、明日村長さんにはお礼をしに行かねば」
「あー!大丈夫!ミリアも村長さんもお礼は良いって言ってたから…」
「そうですか、なら良いのですが…エルナ、もう一度念の為、外れの森へは行ってはいけませんからね」
「う、うん!わかってるよ」
「なら大丈夫ですね、残りの片付けは私がしますので、お風呂に入って寝ましょう」
「はーい!」
(バレちゃったかと思った……)
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その日の夜のこと
エルナは寝付けずにベッドの上で窓から射す月の光を眺めていた
「……」
エルナは昼間に森であったことを思い出していた
「あれは何だったんだろう」
あの剣に触れた時に見えた光景を思い出す
『これから先、貴方には辛い運命が待っているとしても?』
『...だとしても、僕は─』
夢なのか幻覚なのかわからないが何故か鮮明に覚えている
「男の人と...赤い髪の女の子だったかな」
(あの台座の前で女の子が悲しそうな顔をして男の人に話をしてたな...)
「……ねむい」
眠気に耐えきれずエルナは布団を被って眠りに就くのであった
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