九十五話
それからと言う物、特にミーチェとの接触はせずにノンビリと引き籠り生活をしていた。
いや、生活などと言った表現は間違っているか。
魔族、或いは魔王と言うのは食事も排泄も睡眠も欲が無い。と言うか、摂らなくて良いトンデモな存在だからだ。
魔神からその様に造られたのだから僕にはなにも言える事は無いのだけれども。
何もしなくても存在し続けられるのは楽な事なのかもしれないが、ソレでも何も無さ過ぎるのは心が摩耗して行く。
「と言う訳で、趣味嗜好で行われるって言う食事をしている訳だけど。普通に美味しいよね。」
「お褒めに与り光栄です。魔王様の御口に合いましてホッとしております。」
「いやいやメーニャ、料理凄い上手じゃん。と言うか、本格的な職人みたいだったよ?」
目の前で行われた調理の光景は唖然としても良いモノだった。
だってメーニャが目にも留まらぬ、と言うのは大袈裟な表現だが、そう言って良いと言える様な動きでスパスパ、テキパキと調理を進める光景は娯楽と言っても差し支えないと言える程の鮮やかさだったからだ。
まるで踊っているかの様に、そして一切の無駄の無い動きだった。洗練された動きと言う物はどんな事だって関心を大いに惹き、見惚れてしまう物なのだと言う事を僕は知った。
これらの調理に関する道具も食材もメーニャが用意した物だ。
町に出たメーニャが絡んで来る浮浪者や、ならず者たちを返り討ちにして締め上げて得た金で揃えた物である。
そんな一々細々と金を集める様な事をせずとも、ミーチェからそう言った資金を搾り取ればよかったのではないのか?と言われれば、僕はソレを否定する。
幾ら何でもそんな意地の汚い、醜い真似はしたくはないのが僕の意思である。
気まぐれで、偶々に、只の興味として助けた相手に対して僕はそんな恫喝する様な真似で金を巻き上げる気は無い。
メーニャも町へと情報収集に出掛けたついでに衝動の解消と集金が同時に出来た事で上機嫌で居る事が出来て良い事ずくめなのだ、こちらからすれば。
なので気にしない。町の治安がどうの、メーニャに潰された小悪党がどの様な今後を迎えるか等は気にするつもりも無い。
そう、メーニャは自らに寄って来たそうした小悪党どもを始末する訳でも無く、痛めつけるだけで終わらせて金を奪うにとどめているのだ。
ソレでもメーニャの衝動はかなり抑える事が出来ているのだ。
コレは物凄く魔族にとって重要な事実だと思うのだが。
その事を僕は報告、拡散する気は無い。マードックにも教える気が無い。
何せマードックに僕は閉じ込められかけているのだ前に。だから、そんな義理が無い。
そもそも僕はそれ以前に、魔王と言う自覚が無いと言っても良い。
魔族の頂点に立ち、まとめ役としての役割がある、そんなモノを放棄しているのだ。
今になってどの面下げてマードックの前に出れば良いと言うのか?
「ふー、美味しかったよ。今後は偶にでもこうして食事を楽しんで行きたいね。次のその時にはメーニャも一緒に食べようよ。」
「いえ、ソレは。」
メーニャに断られてしまった。まあコレはしょうがないかもしれない。
僕に「魔王」の自覚が無くても、メーニャからすれば「魔王」であるのは変わらないらしいし。
魔王の中身がこれまでとは全くの「別」なのだけども、そこはメーニャからすると関係無い、さしたる問題では無いと言う事らしいし。
魔王と一緒のテーブルについて食事を摂ると言うのは恐れ多い事であり、勘弁して欲しいのだろう。
そう思いながらメーニャが食器の片づけをする光景を目にして僕は口内に残る料理の余韻に浸ってボーっとするのだった。




