九十一話
ミーチェは至って冷静に対応して来た。とは言え、多分内心は物凄く怯えているんだろう。
固く手を握っているその姿で緊張感に襲われている事が良く分かった。
『別に怯えないでくれ。今日は只単に商会同士の抗争がどんな結末になったかを聞きたくて来ただけなんだ。』
僕の声をメーニャの持つ魔道具を通してミーチェに伝える。
とは言え、ビビるなと言ってもミーチェは肩の力を抜けるはずも無い。僕らの正体を知っているのだから。
これにミーチェは疑う様な声音でこんな事を言って来た。
「・・・最後まで見物していらっしゃったのではないのですか?いえ、余計な事を聞こうとしてしまいました。出来る限り私の知る範囲を全てお答えしましょう。」
その後は素直にミーチェは事の顛末を語ってくれる。静かに、ゆっくりと。時間を掛けて。
この度の件をしっかりとケリを付ける為にケルカムはかなり前から王国に接触していた事。
調査官が来訪し、その権力と物理的な力でブレッツ商会を蹂躙した事。
結果、ブレッツ商会は御取り潰し、財産の全没収、悪行に関わっていた者たちをほぼ全員捕縛、即断罪、即座の刑の執行。電光石火の勢いでカタが付いたと。
コレにより、実質のこの町で一番の商会がケルカム商会となった事。
(まあそうなる流れだよね。一番分かり易い予想の中に納まって良かったよ)
あの調査官が割り込んで来た事で予想外の結末になっていなくて良かった。
(そうは言っても僕らの行動が予定外になっちゃったから、ソコは宜しく無い所だったけども)
悪い予感と言う物をこの時に調査官へと覚えたので即断即決で町から退去したのだ。
この判断を僕は後悔はしていないし、悪手だったとも思っていない。
そうこうしてミーチェが大体の事を話し終えた後にこちらへと問いかけて来た。
「他には何をお求めになられるのでしょうか?金でしょうか?それとも情報でしょうか?物でしょうか?・・・まさか、生贄ですか?」
『何でそうなるの?いや、何も要求なんてしないけど?って、生贄って何?そんなのそれこそ要らないよ?』
以前にも僕は見返りなどを求めないと言っていたはずなのだが。
ミーチェは僕の事を一体なんだと思っているのだろうか?ちょっと問い詰めておきたかったが、止めておく。
ここまでメーニャには黙って貰っている。僕がミーチェと話をするからと言って。
しかしメーニャがここで一つして欲しい事を口にした。
「始末しても何ら心の痛ま無い悪党、外道、が居たらその情報を。」
「・・・え?あの、それは・・・?いえ、分かりました。何も聞いたりしません。その様に。では、連絡方法はどう致しますか?」
どうやらメーニャは魔族特有の衝動を抑える為の「息抜き」が欲しかったらしい。
別に僕はこれを咎めたりはしない。寧ろ推奨したい。
『うん、そうだね。そうしようか。それじゃあ今後も宜しくね。これ以上の介入はしないからこの先も普段通りに過ごしてね。敵対的な事をしないで居ればコッチも別に何も手を出したりはしないからさ。気楽にしてよ。連絡はコッチから偶に顔を出すから、その時にでも情報があったら教えてくれればいい。無理にとは言わないから、無かったら無いって言ってくれたら良いよ。』
この様な事を伝えた所でミーチェ当人は心の底から信じちゃくれないのだろう。
別にそれならそれでどうでも良い事だ。コッチはそこまで気にしたりはしないし、気にも留めない。
「・・・はい、畏まりました。」
『うん、じゃあ今日の所は帰るね。お疲れさんでした。』




