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八十六話

「メーニャ、さっきのが何処まで飛んで行けるか分からないし、いきなり背後から戻って来るとか悪意のある返しをされたりするかもしれないから警戒はしておいて。」


「はい、分かっております。魔王様には傷一つ付けさせませんので御安心を。この命に変えましても。」


「いや、だから、命に変えちゃダメだってば。とは言え、そんな注意をしても聞いちゃくれないんだろうけどもね?」


 そんな妙な漫才とも言え無いやり取りをした後に違和感が足元から伝わって来る。耳にも。


 ソレは飛ばした魔法が爆発した振動なはずだった。


「・・・え?何処かにぶつかって爆発した?どこ?どこ何処ドコどこ何処?」


 てっきり何も反応が起きないと思っていた僕は意表を突かれて驚きで辺りを見回してしまう。


 けれども何処にもそんな爆発が起きた所など目に入って来ない。


 魔法を飛ばした先の先へと意識を向けはしたけれども、そこには何らのおかしな所は見当たらない。


「直ぐに行こう!急ごう!」


 僕は堪らず魔法を飛ばした方向へと走り出す。


 そして見つけたのはいきなり何も無い空間からモクモクと現れている煙が出ている場所。


 ここまで来るのに相当な距離を走っている。


「もしかして、この先に魔法が入り込んで何かに接触して爆発したのかな?」


「魔王様、お気を付けください。何が出て来るか分かりません。」


 暫くはその出て来る煙以外が飛び出してこないかを観察し続けた。


 そして煙が少なくなり始めた所で僕らは意を決してその部分へと踏み込んでみた。すると。


「・・・やっと別の場所に出たねぇ。けど、ここはあれかな?祈りの場かな?正面に立っているのが、その、例の魔神って事?いや、ちょっと待って?これが、魔神?逆じゃない?想像してたのと違うよ?」


 出口も無ければ窓も無い。正面には巨大な美しい女性の像があるだけ。


 部屋は一つの明かりも無いのに明るくて不思議な空気に包まれていた。


「ねえ、恐らくはこの中で僕の放った魔法が爆発してるんだよね?じゃあ、その威力で一切壊れていないこの像は一体何なんだろうね?」


 爆発は相当な物だったはずだ。だけどもその影響など微かにでも受けなかったと言わんばかりに綺麗な女性像。相当に厄介な予感しかしない。


 これに警戒心がギューンと一気に上がったのだが、そこでいきなりその像から声が発せられたのだからビックリしない訳が無かった。


『ここを訪れたる者の名を示せ』


 ソレは男とも、女とも捉えられそうな奇妙な声音だった。


 そしてその問いに答えて良いモノかどうかを僕はメーニャへ視線を向けて目だけで相談する。


 下手に声に出してしまうと勝手に名前と捉えられてしまって話が先に進んでしまう事を恐れたからだ。


 これに少々の沈黙の時間が過ぎる。メーニャもこの事態に困惑して答えが出なさそうだったから。


 なのでここでとうとう僕は覚悟を決めて口を開いた。


「名前は無い。ただ、魔王、と呼ばれている。」


 簡潔に応えたのだ。


 この質問に何かしらの返答が無ければここを脱出する事も出来なさそうだと判断しての事だった。

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