六十三話
ここで女は首を横に振って拒絶を示すだけだった。
恐らくは声バレをしたく無いと言った所なのだろう。
暗闇での事なので顔も良くは見えていない環境だ。そこで自身の情報を一々曝け出す事を避けたんだろう。
まあ僕もメーニャも暗闇を見通せる魔法を使っていたのでその顔をバッチリと見てしまっているけれども。まあそこは教える必要も無い。
声一つだけでもソレは重要な判別材料である。そんな物を助けてくれた相手だからと言って簡単に教える事は出来ないと判断したと。
まあ正体不明の謎の相手にそこまで親切に対応する必要も無い。幾ら危ない場面に助けて貰ったとしてもだ。
相手の思惑がどの様なモノなのかを探る事すら出来ない様な今の状況では会話を成立させるのはかなりの賭けになる。
女は今更に少しでも正体を隠す為に片手で顔を覆っていた。僕らとのコミュニケーションは一切取る気が無い証拠だろう。賭けには出ない、そこは堅実に行く心算の様子だ。
この態度で僕はこの場での交流は諦めた。そう、今この場では。
「撤退しよう。それじゃあまた次に会う時はもっとお喋りの相手をして欲しいな。それじゃ。」
このセリフにメーニャが女へと少々の怒りを滲ませた顔をしているが、ソレも一瞬だけだった。
恐らくは女のその態度に怒ったのだと思うけれども。別にコレを僕は何とも思っていない事を理解してそれ以上強く感情を出すのは控えたのだと思う。メーニャはいつも冷静だ。
さて、こうして僕の思い付きで雑な人助けは一旦終了となる。
だがしかし、僕は質問に答えて貰え無かったからこそ、興味を引きずる事になった訳で。
「メーニャ、彼女を監視して。ソレとそっちの男たちの情報も欲しいかな。まあそこまで即座にとは言わないから、勇者の情報収集の合間くらいで頼むよ。」
「魔王様の御命令とあらば喜んで。」
「いや、そこは喜ぶ所じゃ無いでしょ。メーニャに余計な仕事を振ってる自覚は僕にはあるよ。申し訳無いね。何時もありがとう。」
「御遠慮は為さらずに気軽に何でもお申し付けください。わたくしへの感謝の言葉は勿体のう御座います。」
「いやいや、そこは素直に受け取って欲しい所なんだけどね?まあ、いっか。」
こうして僕らは隠れ家へと戻る。地下へと作った僕のこだわりの部屋である。
何度も地下室づくりをして来たおかげでコツも掴んで、内装やら装飾も抜群に上手くなっている。
暇な時間さえあれば魔力を壁へと流して模様替えなどもしているので熟練になって来た。そこだけは。
そうして戻って来ても別にこれから何をすると言った訳でも無い。
急ぐ様な事も抱えていないし、やらねばならぬ事も無い。
この町には長く滞在する事が決定したのだからそんなに慌てる必要が無いのだ。
この町へと入って来る勇者の情報の収集は必須だけれども、毎日それが更新されると言った事でも無いだろう。
ノンビリと待つ、それだけの事だった。
この町で何やらキナ臭い事が起きているのを知ったとしてもである。
「あの人族の女は一体何だったんだろうねぇ?男たちも何やらどこぞに所属してるみたいだけどさ。」
「ソレ程までにお気になるのであれば、あの場で無理やりにでも締め上げて口を割らせれば宜しかったのではないでしょうか?いえ、過ぎた事を申しました。申し訳ありません。」
「いや、良いよ。寧ろ遠慮無く言ってくれた方が僕は嬉しいね。今後ともジャンジャンとメーニャからの意見も聞かせてよ。僕の言動は、ホラ、ね?何が良くて、悪いか何てまだまだ判断の付かない世の中の事を知らないヤツのものだからね。ヤバいと思ったらすぐにメーニャに止めて貰いたいんだよ。今回の僕のこの気まぐれも何かダメな所が有ったら言って欲しいんだ。で、早速何かある?」
「・・・いえ、わたくしは魔王様の為されたい事に只々従うばかりで御座います。意見があるなどとは、とても。」
「いや、言って欲しいんだけどもね?まあ、いっか。メーニャは今回の事は別段そこまで重要では無いと受け止めてくれてるから言わないでいるって事で。」
「恐れ入ります。」
そんなやり取りをしてその日は終了。そして翌日。
早速メーニャが女の潜伏先を見つけたと報告を上げて来た。




