六話
「んん~・・・そもそも何も解らない僕が悩んだ所で答えなんてで無いんだよねぇ。」
僕には「僕」がそもそも何も解っていないのだ。
どう言う訳か魔王と言う存在の中に居て、この世界の事は全く分からず知らずで、そしてこうして何を為せば良いのかも分からずだ。
どうして?何で?何そう言った事すらも悩める程の感情も一切僕の中に無い。
もっともっと色々な情報を得られ無いと、僕のみの知恵と力じゃこの部屋からの脱出は不可能だ。
「メーニャ、どうか僕に魔法を教えてくれないか?どうにも僕はその「魔力」って言うモノが全く感じられ無いんだ。この部屋を出るにはその魔力が、魔法が絶対に必要だってのが解ったよ。あ、もしかしてこんな御願いは「妙な事」として判断されちゃうかな?」
マードックは僕が妙な事を起こしたら対処しろとメーニャに言っている。
そして手に余る様なら直ぐ様に連絡をしろとも。
「いえ、魔法を習うなどと言った事が「妙」などとはならないでしょう。いえ、妙と言えば妙でしょうが。しかし、魔王様にわたくし如きが魔法を教えるなどと言った事をしても宜しいので?」
「何だか言い回しが良く分かんないけど、うん、教えて。僕はここを出たい。ずっと閉じ込められているのは御免だよ。・・・ねえメーニャ?メーニャは僕の事を何とも思わないの?」
「何とも、とは?どいった意味でしょうか?」
僕は今更にメーニャに問う。そもそも僕は魔王であって、魔王では無い。
だってマードックが言っていたでは無いか。魂が違うと。
この魔王の「身体」の中には魔王の「魂」では無く、僕と言う「別の存在」が入っていると。
「だって僕は魔王じゃないんだよ?でも、メーニャは魔王様なんて呼んでくれて、世話までしてくれるって言うし?マードックが言っていた様に、この体の中に入ってるっていう「魂」はこれまでのその「魔王の魂」じゃ無いんだよ?言うなれば別人って言って良いと思う。」
「・・・わたくしの仕事はあくまでも魔王様の身の回りの御世話です。兄はそうして「魂」を見る事が出来ますが、わたくしはその様な特殊な能力を持っておりませんから。ですので、中身が入れ替わっていようとも、この目に映るのはそんな別人などでは無く「魔王様」であらせられますので。こうしてお仕えする事は当然です。」
マードックが言っている事を確かめる術は無い、続けてメーニャはそんな内容を口にする。
「そもそも兄があれ程に騒いだのですから、言っている事は本当なのでしょう。でも、わたくしにはソレを真実として受け入れた所で出来る事は無いのです。当人がそう言っているだけで確たる客観的な確証が無く、周囲へとソレを示す事が出来ない以上はわたくしには兄の言っている事など関係がありません。」
バッサリと冷たく突き放す様な言葉だ。メーニャはキッチリと「自分は自分だ」と主張すると言う訳だ。
「でも、マードックの言っていた事に逆らったらメーニャは殺されちゃうんじゃない?」
「その様な事を特段気にしておりませんので御心配はせずとも。」
「いや、心配しちゃうよ、そこは。理不尽にメーニャがやられちゃうのを見て見ぬフリは、出来ないかなぁ。」
これ程に短い時間のやり取りだが、この先もメーニャにはお世話になるのだ。
マードックにメーニャが殺されてしまうのはどうしたって避けたいし、そんなのを他人の振りして見過ごす事など出来るはずが無い。
「あー、まあこの件はもうこれ以上深く追求するのは止めておくよ。メーニャ、ありがとう。それじゃあ教えてくれないかな?先ずは魔力ってのを感じられる様にするにはどうしたら良い?」
僕は早速「メーニャ先生」に教えを乞うのだった。