五十五話
ソイツは多分「副隊長」そしてやっぱりと言って良いくらいに屑。
ブレッツ商会と懇意にしていた輩の様だ。
『町中での突然の凶行!しかもよりにもよって我々衛兵の目の前で。言い逃れできると思うな!お前らもハッキリと見たな?遠慮は要らん!全員で斬り掛かるぞ!油断するな!』
こんな特殊な状況で何でここまで愚かな言動をできるのか?
調査官が何者かも確認しようとせず。差し出され、突き出しているその手の中の用紙の内容も見ようともしない。
いや、確かに目の前で素早く剣を抜いて人の首を断つ様な輩を放っては置けないだろうけれども。
今この現場は「異常」なのである。
言ってみればそんな時に冷静になれと言われても簡単に出来ないだろうが。
まあ、ソレが出来ないからこの副隊長(仮)は自身の死が早まってしまった。
『は・・・ぁ?』
無残にもまた一人の首が狩られた。
これには調査官を包囲しようとしていた者たちも絶句。
「そりゃこうなるよ。圧倒的な雰囲気を纏ってるんだもんこの調査官。近づきたく無いね。」
僕と同意見なのだろう衛兵たちが包囲網の作成を放棄してズリズリとすり足で調査官から離れる様に下がっていく。調査官に向けたその視線を逸らす事無く。
統率、或いは方向性、指向性が破壊されてしまった所詮は使われる立場の末端人員だ衛兵たちは。
隊長、それとその代わりをしてくれる副隊長が居なくなった。連続で、一瞬で殺されたのだ。
コレに怯えるなと言うのは酷だろう。自分から積極的に動こうとなどとは思えないだろう。
だって殺されてしまう。この人物に。
そう思ってしまうのは仕方が無い。だって二度も、ソレも即座に、即断で、首を断って来たのだ。誰もが反応できない程に。
ここで下手に動けば自分も同じ目に遭う、そう判断する事は普通だろう。
この末端の衛兵たちに今の剣撃を回避、或いは受け止められる事が出来る実力者が居れば話は変わったかもしれないけれども。
そんな状況に一人でも気づける者が居ればもう少し話が違った。度胸と確信、もしくは視力が良い奴か。
調査官の未だに手に持っている書面を気にしてソレが何かを確認する。
もしくはケルカムに状況説明を求めるか。
或いは書面に何が掛かれているのかをその目で読み取れて、そしてソレをちゃんと理解できた者がこの場に居ればもう少しこの混乱は短い時間で済んだだろう。
けれども残念な事に、誰もが黙って後方に下がって行くだけでこの「恐怖の時間」の打破をしようとする者が出ない。
ここで場を動かしたのはケルカムだった。
『衛兵の諸君、君たちにはブレッツ商会の不正に関わった嫌疑が掛かっている。今の二名は既に調査の上で「重罪」は確定していたので国王陛下直属の特殊調査官殿の判断により断首の刑での処分がこの場で行われた。今の君たちが同じ目に遭う事の可能性は低いが、しかしこの場を突如逃げ出す、或いはこちらを害そうとする、調査を妨害しようとする行動が見られた場合は即座に処分が下される可能性がある事は憶えておいて欲しい。そうならない為にも今は素直に武装放棄して調査官殿の取調に応じる事を薦める。この町に努める衛兵諸君の名簿は既に把握しているので後で脱走などとなったとすれば、即座に指名手配がされる事はこの場で伝えておく。諸君が賢明である事を願う。』
ケルカムのこの説明はどうやらじわじわと時間を掛けて衛兵たちに浸透したらしい。
長い様な、短い様な、そんな間が空いてから一人、また一人とその手から剣が落ちる音が周囲に響いた。




