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五十三話

 調査官は未だに動く気配無し。


 ソレをケルカムはジッと見ているだけ。


 ブレッツは狼狽えるだけで逃げ出そうとも、抵抗しようと言った動きも無い。


 妙な空気のその三人の事など無視で周囲では破壊が進む。店はドンドンとがんがん壊されて行く。


 そんな状況なのにブレッツは調査官から目を離さない。自身の大事な店を壊している者たちへの恫喝もしなくなっている。


「そこまでヤバイ相手なのかね、この調査官。僕らにも影響がでそうかな?」


「恐らくソレは無いかと。しかしミーチェを助けた存在を調べて来る事は確実でしょう。ですがわたくしたちの正体にまでは辿り着く事はないと思われます。」


「それなら安心かな。」


 僕らの正体をバラす気は一切無い。魔族、しかも魔王が直接にこの件に関わっている何て事を。


 ソレがもし知れ渡った時の予測なんて付かない。


 ましてや魔族の情報を人族、それこそ勇者には知られるべきじゃ無いのだ。


 そんな簡単にホイホイと姿を見せる事など有り得ない。


 とは言え、ミーチェを助けた時の事はどうしようも無かった。


 もう少し慎重に動いていたらミーチェは巨大昆虫の一撃を食らって即死していた可能性もあったのだ。一触即発状態。


 そこに「あ、正体を隠さなきゃ」とか思って一拍、間を空けてから踏み込んだらミーチェは殺されていました、何てなっていれば間抜けが過ぎる。


「お?どうやら調査官が動くみたいだ。どれどれ・・・うおッ!?剣を抜いて一瞬でブレッツを袈裟斬りにしたぞ!?」


 無言での抜刀、即・斬。コレには僕だけでは無くミーチェも驚きを見せている。


「え?何?どう言う事?ずっと出しっぱだった用紙を引っ込める事無しにやったよコイツ・・・」


 鮮やかな手並みに周囲の者たちはコレに呆けた顔で動きを止めた。


 だけどもブレッツが事切れて地面へとドサリと倒れた後に悲鳴が上がる。


 ブレッツ商会の従業員、或いは「裏」に関わっていた構成員か。


 その者たちが一気に騒ぎ始めたのだ。そして逃げ出し始める。


「あーあ、コレは酷い。」


 阿鼻叫喚の嵐。逃げる者たちを抑え捕らえるのは店を包囲していたケルカムの雇っている武を行使する者たちで。


 抵抗する者は痛めつけられ、怯える者たちは地面に張り付けられ、隙を見て包囲から出て行こうとする者は脚を斬り付けられて転倒させられる。


「とんでもないなぁ。この調査官、一体何者なんだろう?とは言え、まあ、こんな事をする許可を貰っている相当に凄い立場だって事は分かるね。」


 剣を収める調査官に何らの変化も無い。さも当たり前と言った感じの態度だ。


 流石にケルカムもコレには苦い表情にはなっているが、文句は口にしていない。


 どう言う者であるのかケルカムは知っているのだろう。だからこの「処分」に何も言わないのだ。


「お?調査官が移動するぞ?・・・そっちは町の役人やら衛兵が居る役所じゃないか?」


 どうやらこの場だけでは無く役人やら衛兵の方の「悪党」の処分もこのままやるつもりの様だった。


 何故だかこの後の展開に少々嫌な予感がするも、この調査官の動きに注目しない訳にはいかなかった。

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