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五十二話

『止めんかぁ!?貴様ら一体なにをトチ狂っとるんじゃあ!ブレッツ商会を舐めてやがんのかぁ!』


 とうとうブレッツ本人のご登場になる。叫んで脅しを掛けているけれどもその効果は無い。悲しい程に無い。


 ブレッツ商会に虐げられて来た恨みを持つ者たちはそのギラ付いた目をブレッツに向けつつも店の破壊は止めない。


 寧ろ店を破壊している手により一層の力が籠っている。


『貴様らぁ!こんな事をして只で済むと思っているのか!この私が止めろと言ったら止めるんだ!今直ぐに!うおおおお!店の修理費用が幾らになると思っていやがる!テメエらからその金毟り取ってこの先の一生を奴隷として扱き使ってやるゥ!』


 叫んでいる。物凄く顔を真っ赤にして。必死に。


 これを見ている僕としての感想は。


「うん、無駄だね。これ程の滑稽さは中々見られないよ。」


 僕もメーニャも現場には居ないけれども、魔道具から流れる音と映像で臨場感バッチリにこの騒動を見ている。


 この地下室、隠れ家にやって来る者は居ないだろう。ゆっくりと事態の成り行きを見届ける心算である。


「あ、動いた。」


 ここでケルカムの背後からぴっしりとした制服?を着た何やら知的な印象の男が一人前に出た。


 そして一枚の用紙を肩掛けカバンから取り出してブレッツに差し出す。


『お前は誰だ!?何だこの紙は?・・・はッ!?ケルカム!貴様いつの間に!?』


 ブレッツはどうやら店を破壊される方に意識が持って行かれていてケルカムがこの場の指揮を執っている事に今気づいたらしい。


 ケルカムを忌々しく睨みながら驚いていたが、ふとそこで差し出されている紙と、ソレを持つ人物の服装を何気無く観察し始めた。


『・・・まさか、そんなはずは無い!どうしてこんな所に居るんだ!?』


 ブレッツはゆっくりと驚愕の顔に変わった後に困惑の表情へと変わっている。


『何故!?国王の直属の!?一体どう言う事だ!』


 どうやらケルカムは凄い権力を持つ役職の調査官を召致していたらしい。どう言った伝手を使ったのかは分からない。


 国王直属などと言っているんだから相当な地位だろう。


「コレはどうしようも無いね。恐らくこの町の腐った役人たちも今日でオシマイな様だ。」


 ブレッツの慌て様にそんな所まで想像が出来た。


 と、ここでその調査官が差し出している用紙をブレッツがまだ受け取っていない事に僕は気づく。


 それはずっと同じ姿勢、同じ状態でブレッツが受け取るまでそのままにする気らしい。


 だけども調査官は一言も喋ら無い。早く受け取れとか、コレを読めとか、言えば良いのに、何も口を開かない。


 ジッとブレッツを見続けるだけ。ソレが不気味だ。


『私は!私はまだ!まだまだ!これから何だぞ!?もっともっと商会を大きくして!これから!これからだと言う時にぃ!』


 異常な狼狽え様に僕は何があるのかと気になってメーニャに質問をしてみた。


「ねえ、この怯え様は何だろ?たった調査官一人、何ら変哲も無さそうな用紙一枚でここまで?用紙に書かれている内容が凄いのかな?」


「どうやらこの調査官は普通では無さそうです。」


 メーニャがそう言うので映像をしっかりとよく見てみれば。


「あ、剣を持ってるね。しかも反りがあって独特の形だ。」


 直剣では無い。何やら特殊な立場を示すのだろう紋様がその鞘に刻まれているのが見える。


 この様な妙な空気で睨み合っている二人など知った事かと言った感じで周りではまだ店破壊が続いていた。

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