四十九話
町は大混乱に陥る事も無く、静かに、あるがままに時間が過ぎている。
ケルカムが上手く事を抑え込み、ブレッツ商会との確執、抗争をひた隠ししていたからの様だ。
メーニャは連日ブレッツ商会を「これでもか」と言った具合に端の端から磨り潰すが如くに動いていたので、まあ、影響がそれ程に町中に広がらなかったと言った所も影響はしていると思う。
メーニャが愚かな証拠を残すはずも無い。ブレッツ商会は自分たちを脅かしている犯人を捕らえ、或いは見つけて始末しようと静かに最初は動いていたけれども。
途中からはなりふり構わずに人海戦術などを取って町中を見張るかの如くに人を散らばらせていた。
ソレに掛かる費用は如何ほどになるか。ソレでもこのままでは真剣に不味いと判断を出したからこその結果だろうが。
その程度でメーニャが捕捉されるはずも無かった。
そんな動きを牽制するかの様にケルカム商会も動いている。
ブレッツ商会のこの動きに合わせて商機を広げに掛かったり、いわゆる縄張り、そう言ったモノを拡大する動きをしたのだ。
ブレッツ商会と契約を交わしている、しかし真っ当な商売をしていた別の商人へと話を持ち掛けてケルカム商会へと移って来ないかと勧誘を掛けていた。
ブレッツ商会のこの混乱に対して「沈む船の前兆だ」とばかりに「不正の証拠」をチラ見せ、或いは臭わせをしてそう言った勧誘を仕掛けていた。
この証拠やらは当然にメーニャからの提供だ。
混乱が激しくなればブレッツ商会の隙も大いに生まれる。
そこを突く為の作戦の一つとしてメーニャが取って来ていたその犯罪の証拠をケルカムへと大胆にも与えたのだ。
その際には脅しも掛けるのをメーニャは忘れていない。
『約束を破ればお前たちの未来も無いモノと思え』
この脅しは随分とケルカムを震え上がらせたらしく、メーニャの邪魔になる様な動きなどをケルカムは起こさなかった。
「まあ普通はそんな物を突き付けられたら背筋が凍るよね。どうやってこんな物を?って。完全に常軌を逸してるだろうから。」
僕はそんなつぶやきを溢す。
だってケルカムもブレッツ商会のそう言った犯罪行為の証拠を掴もうと色々と動いていたはずだから。
ソレでも直ぐにブレッツ商会を潰せ無かったのはその証拠が余りにも集められ無かったからだろう。
役人が証拠をもみ消していたり、握り潰していたりとこれまでにやって来ていたはずだ。ブレッツ商会は相当な上の方の役人とズブズブの関係。
そんな事になっていれば犯罪の捜査なんてマトモじゃない。やりたい放題になるだろう。
こうなってしまっていたらどんなに頑張ってもケルカムに勝ち目が薄い。これまでのそう言った苦労がケルカムにはあったはずだ。
しかしソレを簡単に、しかもその証拠をさも「つまらない物」「要らない物」とばかりにケルカムへとメーニャは与えたのだ。
コレに戦慄するなと言う方がオカシイ。この事態を難無く呑み込めるのはどれだけの胆力が必要になるか。そんなのは想像も出来ない。
ケルカムもこれでは「証拠を得たからハイ!ブレッツ商会を今直ぐ潰す!」などと言った動きなどできやしないだろう。
勝手な真似をするな、報せを受けるまでは邪魔をするな、そう言った約束を不平不満は抱えていても交わしたケルカムではあるが。
この脅しでケルカムも完全にこちらが「脅しは冗談でも何でも無い」と。「強大な力を持っている」と信じた事だろう。
自らのこれまでの苦労と労力がアッサリと達成されたのだ。それをこうも容易く持ち込んだ、与えて来た相手に対して「逆らってはならない」と理解した事だろう。
「そこで僕らの正体が魔族、魔王だって所まで察したりできるかな?まあ高い率でそんな結論にまでは辿り着け無いだろうと思うけど。」
この世界の人族の、魔族への印象と言う物がある。
ソレを根拠にすれば「魔族が人族を助けて、しかも犯罪組織を潰す事に協力する」などと言った所にまでは思考が及ばないだろう。
「魔王様、只今戻りました。報せも出しましたので後は町の様子を見届けるだけになるかと。」
「じゃあゆっくりとこの魔道具で町の観察を続けようか。」




