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四十四話

 さて、ここでそのケルカムの怒りを抑え込むには何をどうすれば良いだろうか?


 怒りが吹き飛ぶだけの衝撃を伴う事実が必要か。もしくはその怒りを薄めるだけの利益を示すか。


 一応この場は商会の建屋内だ。人払いも済ませてあってケルカムとその付き人が二人だけ。


 ブレッツ商会にミーチェが生きて帰還している事を悟られない様にする為だ。


 この事を知る者は少ない方が良い。ブレッツ商会を油断させておく為にも隠しておく方が有効だ。


「ただ待つ事も難しい程に怒りを抱えているのはどうしようもないだろう。だが、それすらも出来ないのならば仕方が無い。忘恩の輩としてこれからは一切の関わらずにいよう。せめてもの情けで少しくらいは残しておいてやっても良かったが、全てこちらで始末を付けさせて貰う。」


「ああ!待ってください!お父様!要求を全面的に呑んでください!でなければ私はここを出て行きます!」


「な!?何を言っているミーチェ!?」


 メーニャが交渉決裂だと突き付ければ、ミーチェは待ってくれと引き留めて父親へと家出宣言の脅迫だ。


 これにはケルカムも盛大に驚愕するしか無いだろう。予想外と言う訳だ。


(いや、そこまでするか?僕も予想外なんですけど?ミーチェは大胆なんだなぁ)


 幾ら父親を説得するためとは言え、家出するとまで言うのは少々行き過ぎていると僕が思っていれば、ミーチェは父親の側からメーニャの方へと下がっていく。


 本気だと示しているのだろう。別に僕としてはまたあの地下の隠れ家へとミーチェを連れて戻るのは構わない。


「お父様、恩人の方は強大な御力を持っているのです。そんな方の機嫌を損ねる様な交渉は止めてください。私は条件を只々に呑んで欲しいとお願いしました。親としての怒りもそこは一緒に呑み込んでください。そうでなければ私は戻って来た意味が無くなります。」


 娘の覚悟をぶつけられたケルカムは非常に不服と言った表情でメーニャを睨む。


 娘の言った「強大な力を持っている」の部分、ソレを疑っているのだろう。


 商人としてはその点に疑問を持つのは正しいかもしれない。


 幾ら娘の言う事であろうが、そこを素直に何も疑わずに即座に受け入れると言うのは難しい。


 だって目の前にはその顔すらも未だに見せない怪しい相手が微動だにしないのだから。


(まあ顔を見せないのはメーニャとしても視線を合わせない、人族の顔をなるべく見ない様にする為なんだけどもね)


 メーニャの魔族としての人族への衝動を抑える、なるべく発症させない為にこの様な状態になっているのだ。


 顔を突き合わせるなどと言ったやり取りをメーニャにさせるのは無駄な我慢を強いる事になる。ソレは大きな負担になる。させるべきでは無い。


 そしてそもそもに人族を視界に入れさえしなければ、衝動も発現、或いは抑える事が出来るのはこれまでの実験で証明されているのだ。


 ミーチェにはその代わりに少々の恐怖体験となったが。


 そう、あの地下室で実験相手としてミーチェに協力をして貰っているのだ。


 その実験の結果アレコレと細かい事ではあるが、幾らか分かった事も多い。


 その中で一番大きい所は、人族と認識していても顔を視界に入れなければ抑制が可能と言う事だ。しかも大幅に。


 これでメーニャは色々と魔族の持つ人族への衝動をかなりの範囲でコントロール可能になった。


 相手の顔さえ目に入らない様にしていれば「ちょっと不機嫌」くらいにまでは抑える事が出来ているとの本人談である。


 これがあったからこそ、今メーニャにこうしてミーチェを送り届けた者役を担当して貰えているのである。


(これが無かったらミーチェを一人で帰らせていたよね。一応は陰から見張って安全を確保しつつだろうけどその際は)


 そうなっていればケルカムがどの様な対応になっていたかは定かでは無い。


(その時にはコチラの要求をもしかしてそのまま呑んでいてくれたかもしれない。いや、それは無いか)


 未だに唸るケルカムを見て僕は「親って大変なんだなぁ」などと他人事な感想を浮かべていた。

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