三十八話
ここでやっと女性は言葉を発した。
「私を、殺すの?」
「いや、だから、話聞いてくれて無かったの?僕は最初から貴女に危害を加える気は一切持っていなかったよ?ちゃんと言葉にして説明したよね?」
「なら、何で魔族なんかが私を助けたの?」
「ねえ?話、ちゃんと聞けて無かったっポイね?もう一回最初っから説明するから、どうかちゃんと聞いておいてね?」
気が動転していて僕の言葉を所々でしか認識できていなかったらしい。
なので僕はまた最初から説明を始める。
悲鳴が聞こえた、興味本位で現場に到着。人族の女性が巨大昆虫に襲われていた。
虫、勝手に逃げた。どうしてこんな状況になっているのか気になった。話が聞きたい。今ここ。
「で、事情説明をしてくれたら町まで送ってあげるよ。・・・いや、死体でとか言わないから。一切危害なんて加えないから。やっと納得できましたかね?」
女性はこちらを睨みつつも頷いて理解を示してくる。
けれどもその後はジッと僕を見続けるだけでまた喋らなくなった。
「ねえ、話す気が無いならもう僕らは行くよ。このままじゃ無駄に時間を捨ててるだけだ。別に無理して聞き出そうとも思ってないし、喋りたくないのであればこれまでだ。」
「待って!話すわ。けれど、町には戻れない。それ以外の方法で私の身柄の安全を。」
「えぇ・・・?何か物凄く面倒な事になりそう?しかも要求がちょっと図々しい。まあ、生きる為と考えたらなりふり構ってられないか。それじゃあ聞かせて?事情を。」
「私は、マルートの町のケルカム商会の商会長の娘、ミーチェと言います。」
「うん、自己紹介ありがとう。僕は魔王。名前はまだ無い。」
「・・・あの、どこからツッコんで良いんですか?」
「え?正真正銘、僕はどうやら魔王らしいよ?ね、メーニャ?」
「はい、魔王様。御尊名はわたくしも存じ上げません。兄も恐らくは知らないと思われます。」
「ね?」
「いえ、ね、じゃ無くて・・・あの、事情を話す前にそっちの方が気になるのですけども?そもそも何でこんな所に魔王なんて・・・只でさえ魔族がこんな場所にやって来て、襲われていた私を救っている何て信じられるはずも無いのに・・・そこにこうして会話も成立している何てあり得ない・・・それこそ魔王?何の冗談なんでしょうか?」
「いきなり盛大に躓いたねぇ・・・全然話が先に進まないや。脱線したのは僕のせいなのコレ?」
僕はミーチェに「ソレは横に置いといて」と告げて話の続きを促した。
これには不満顔になりつつもミーチェは続きを話し始めた。
「ウチの商会を以前から目の敵にしていた、近年大きくなってきた敵対商会があります。ブレッツ商会と言います。そいつらは裏であくどい商売や、暴力組織と繋がって犯罪をしてのし上がっていました。町の上役とも賄賂で繋がっていて奴等の取り締まりなどは行われずで。」
「ああ、何と無く解って来た。と言うか、何だろ?ベタ過ぎないかなあ。」
「今回私がこんな森の奥に居たのは、そのブレッツ商会の手の物に誘拐されて解放されたのがここだったから、と言う単純な話なんです。奴らが娘の私を利用して父を脅迫して言いなりにさせる為だと思います。死んでいるのか、生きているのかも分からない状態、こうして私を森に捨て置けば手を掛けずに実行できるとでも思ったに違いありません。手を汚す事無く「行方知れず」と言う始末が付けられるのです。父に私の存在が何処に居るのかを調べられてもバレない。それこそ父は私が町の何処かにでも監禁されているのではと思って捜索はするでしょう。ですが見つかるはずも無い。私は森にこの様に捨てられたのだから。生きていようが、死んでいようがブレッツ商会にはどちらでも構わない。私が居ない間に父を脅して一気に商会を潰しにかかる心づもりなのでしょう。ここで私が生きて町に戻れたとしてもまた奴等に命を狙われるだけです。そうなれば父の抱える負担は一層に増えます。父に無事を知らせたい所ではありますが、私が人質になってしまって父に迷惑が掛かると言うくらいなら、町には戻らぬ方が良い。父には私が死んだものと思って奴らの思惑を跳ね返して欲しいのです。」
「いや、立派だねその考えは。でも、浅はかでもあるね。」
どうにもミーチェはこれまでに溜め込んでいた思いのたけを我慢ならずに早口でぶちまけたけれども。
これに僕の感想はそんな程度のものだった。




