三十七話
「さて、僕の名前は別に後で良いとして、今のこの状況だね。貴女はどうしてこんな森の深い所で魔物に襲われていたの?」
今回の大事な問題はそこだ。だけども女性はまだまだ僕らへの恐怖が完全には克服できていない。
口をガチガチと震わせる事は無いのだけれども、一言も喋ろうとはしない。
しっかりと僕の事を見ているし、意思の乗った目をこちらに向けているのでそろそろ冷静には為れたと思っているのだけれども。
「うーん?交流が持てないと今後の対応に苦慮するから何かしら喋って欲しいんだけどなぁ。言葉を交わす事すらも汚らわしいと思われてる?まあ、魔族と人族は仲が良い訳じゃ無いから、そう思われててもしょうがないね。」
このまま何も言葉が交わせないのであればソレは無為な時間だ。
そこまで必死にこの女性と仲良くなるつもりも無い。
「選択肢は幾つかあるよ。先ず一つ。僕らがこの場から只々去る。この場合は貴女はこの場に取り残され、また森を彷徨う事になるね。次に何かに襲われたらそこで貴女の命は尽きるんじゃないかな。今度は助けなど来ないだろうから。今回僕らが現れたのは本当に偶然でね。いやー、運が良かったですね、貴女は。取り合えず今以上に進展が見込めないと思ったら僕らは帰りますので、その後はご自由にどうぞって感じですね。」
この様な森の中で巨大な虫に襲われていたのだからソレそのものが運が悪い訳だけども。
普通ならそこに誰も助けなど来ないハズの所に僕らが現れたのだからソコは運が良かったと言える。
「二つ目、僕と会話をして何とか交渉をする。貴女が僕の質問にしっかりと答えてくれたら、身の安全を保障して町まで送ってあげましょう。別に取って食おうとしてる訳じゃ無いからそんなに怯えないで欲しいんだけどねぇ。只単に貴女の今の境遇がどの様な経緯でこんな目に合っているのか聞かせて貰いたいだけなんだ。只の興味本位なんだよね、これぶっちゃけ。」
僕はこの女性へと暴力を振るう気は一切無い。
メーニャはどうやら視界に人族を入れなければ抑制は利くらしいのでいきなり彼女を殺そうとする事は無い。
安心して、とは言えないが、今の現状を打破する為にもこの女性には口を開いて欲しいのだが。
「三つ目、貴女が僕らの目の前から消える。ああいや、別に殺そうって事じゃない。どうやら足腰には力が入る様になっているらしいし、僕らに一切何も喋る気は無いのなら、このまま去って行ってくれても構わない。町の方角をその際には教えてあげましょう。まあ、一つ目の場合と結構似た状況になるだろうからお勧めはしないな。けれども町の方角を知れるだけでも希望はあるね。でも、歩いて行くには少々絶望的な距離だけどもね。」
これは脅しじゃない。事実だ。女性はソレでもグッと表情を引き締めてジッとこちらの顔色を窺い続けている。
そこには恐怖も抱えている、怯えもしている。けれども、その目にはしっかりと「生き残る」と意思を宿している。
この女性はどうやら芯の強い女性らしい。
僕らが少しでも隙を見せればこの場から逃げ出そうとしてもおかしくは無い。
とは言え、彼女は自身を守る為の力を持っていない様子。
この場では二番目の選択肢を取る以外はどう転んでも未来に危険が手ぐすね引いて待っている状態だ。
まあ、今の彼女にとってはその僕が提示した二番目の選択肢も危険だと思っているのだろうけども。
「これ以外にも条件を細かくして行けばもっと色々と案は出るだろうけど、ザッとこんな所だね。何か他に思い付いた事があれば言ってみてくれて良いよ。いや、別に言われたからっていきなり怒ったりしないよ?そんなに警戒しないでも・・・」
ここでようやっと心に余裕か、ゆとりが取れたのか、女性が僕の事をジッと睨んで来たのだった。




