三十五話
「ああ、ちょっとここで今更の疑問なんだけどさ。メーニャって、町の中に潜入して情報やらを仕入れて来てるよね?・・・殺人衝動をどうやって抑え込んで来てたの今まで?」
そう、ここで魔族とやらがもつその厄介な衝動とやらを目にして僕はやっとソレをしっかりと認識した。
説明はされていたが、言葉と頭で理解しているよりもよっぽどこの目で見て、経験した方が納得がいく。
だからこれまで疑問に思っていなかった。メーニャが町に行ってどうしてこの衝動を爆発させずにそんな情報収集やら買い物やらを出来ていたのか。
「はい、町に入る前に入念に、念入りに、徹底的に、精神の制御をしてから町へと入っておりましたので。魔族の中でも階位が高い者たちはこうして事前に精神統一をしておけばある程度の抑え込みは可能です。わたくしも高位魔族の端には掛かる程度の実力はあると自負しておりますので。それなりに時間は必要ですが衝動を最小限に抑え込む事は可能です。その様に事前準備をしてから町には入っておりました。」
「・・・それって、何かしらの問題事やら火の粉が降りかかって我慢が出来なくなったらどうなるの?」
これまでメーニャが僕へとその様な失敗をしたと言った報告をしていないので大丈夫だとは思っているのだが。
しかし心配なモノは心配だ。抑え込んでいた物が思わず爆発、などとなったらその被害はどれ程になるのかと言った感じだ。
それこそ今、メーニャは突然の事で抑えきれなかった黒い靄をその体から発していたのだ先程は。この人族の女性を目の前にして。
「はい、その様な事になる前に、消してしまっても構わないだろう人族を見つけ出して・・・始末して衝動の解消を致します。」
「・・・え”ッ!?」
僕は非常に驚いた。驚き過ぎて思考が一時停止する程だ。
「それって、問題だよね?」
「いえ、しっかりと確認作業、及び、証拠の隠滅等はして目撃者等も出さない様に周囲の警戒をして慎重に事を為しておりますので心配は今の所は無いかと。」
「・・・いやいやいやいやいや?待って待って?ちょっとその流れ、僕、しっかりと聞いておきたいなぁ~?」
僕とメーニャとの間にはかなりの齟齬が発生している。町でそんな事をしているのは問題だ。問題なはずなのだ。
しかしメーニャはこの抑え込んだ衝動の解消方法を「問題では無い」と認識している。
メーニャが町でそんな物騒な事をして衝動のやりくりしていたとは思わなかった。僕、ドン引き。
とは言え、そんな事に衝撃を受ける資格など僕は持ってい無いんだろう。
魔族の持つ衝動の事を話で聞いていたにも関わらず、今の今までその事なんて気にも留めず、気にもせずにメーニャが町へと出かけて行っていたのを見送っていたのだ僕は。
そんな奴にこのメーニャがしている事を否定できる訳が無い。
言いたい事があったのなら最初っから気付いてその件の報連相をしておけと言うヤツだ。
「先ず人の多い通りに出てなるべく周囲へと意識を広げない様にしつつ普通を装い歩き続けます。情報収集などはその際に周囲の会話に集中して集めておりました。買い物等はなるべく短時間で済ませて人族との接触を最小限の時間に抑える様にして、その為に先に計画などを立てて回る店を増やさない様にと無駄をなるべく省いて行動しておりました。その後はそのまま人気の無い通り、暗く寂れていてそれこそ、裏、汚い仕事をしている輩が溜まって居そうな場所へと移動します。」
ここでメーニャが俺の要望に応えてその「解消方法」の説明をし始めた。
「そこでわたくしに釣られて出て来た者たちを適当にあしらい、ソレでもなおもしつこく迫って来てこちらを恫喝、脅迫、暴力等で相手を慮らず、悪意を持って危害を加えようとしてくる者たちを処分して解消致します。」
「ああ、そこは問答無用で即殺はしないんだ・・・一応は超えちゃならない基準をメーニャは設けてるのね。あくまでもソレを越えて来る奴らだけ、その、まあ、何だ・・・「処分」な訳ね。」
それもそれで問題だよ、などと僕は心の中でツッコミを入れた。




