三話
目の前の、肌の色が少し紫の混じった青い、頭部に角の生えた、メイドさんが説明を終えた。
「・・・うん、そっかぁ。魔族で、魔王が、勇者で、神が、うーん、この。」
理解したくはないが、僕はしっかりと自分の今の現状を把握する事に努めた。
何から纏めて、何から整理して、何からそれらを呑み込んで行けば良いのか必死に頭を回転させる。
そしてそれらを再確認の為に独り言の様に口から出して行く。
「えー、僕は、何やら魔王ってのになってしまっている、と。うん、そこは、まあ、自分の今の状態を鏡も用意して貰って確認できたから良いよ。こんな身体がデカくて滅茶苦茶コワイ顔してるのは不満だけど。」
魔族の頂点に立つ存在、ソレが魔王と言うモノらしい。
そしてこの見た目は紛れも無くその「魔王」の物らしい。
「うん、ソレで、何だっけ?あー、魔王が復活すると?人族の中に勇者が現れて魔王を殺しに来るんだっけ?・・・何で?そこが納得いかないんだよなぁ。・・・ああ、その理由も説明されたっけ?」
どうやら魔族、人を見ると殺さずにはいられないらしい。そんな習性を持ってる何てご愁傷様だ。
そしてその衝動は魔王が復活すると二割増し程度だが上がるのだとか。
「魔王が居ない間は人の暮らしている領域から物凄く離れた土地で隠れ住んで、復活後は人の土地に攻め入って領土拡大?・・・馬鹿げて無い?」
どうにも魔王は復活する度に人族へと戦争を仕掛けていたそうだ。
別にそんな事をする必要は無いと思う僕である。
だって人とやらと接触しないでずっと平和に、それぞれ別々に暮らしていれば良いだけじゃない?と思ってしまうから。
それこそ魔族と言うのが人を見ると殺人衝動に駆られるのならば、一々そう言った人の住む場所に行かなければ良いだけだ。
だけどもどうやら魔王と言うのは復活する度にそうした戦争をおっぱじめていた様で、ソレで人の陣営から出る勇者に最終的には毎度の事に殺されていたらしい。
「え?おかしくない?殺されてもこうしてまた復活するんでしょ?どんな理屈なのそれ?んで復活するその度に戦争?魔王の目的って一体何?世界統一?世界征服?人の根絶?何がしたかったの?」
僕は訳が解らなかった。その魔王の行動が。ソレに従う魔族の心理が。
「・・・ソレにしたって、魔族の価値観が僕にはそもそもに理解できないよ。その、なに?魔力?ってのが一番多い奴が一番偉くて、そいつの言う事には絶対に従わなくちゃいけない?信じられ無いんだけど。それで、魔王がそもそも魔族の中で一番魔力が多い?うん、もう何だこの構図?」
僕は自分で自分の言ってる事が訳分らなくなってくる。
じゃあ今は何なんだ?って事である。
どうやら僕はその「魔王」ってのになってる訳で。じゃあ僕は今、魔族の中で一番の魔力持ちって事になるのだろうか?
そうすると僕の言った事に全ての魔族が従う事になるのだろうか?
僕はそもそもに、その「魔力」ってのが全く意味不明で、何も感じ取れないで居るのだが。
何がどうなっているのやら僕にも、マードックにも、このメイドさんにもサッパリ解らない訳で。
「ねぇ?僕がもしこのまま戦争を起こさなかったら、人族ってのは、勇者ってのは殺しに来なくなる?」
「・・・いえ、ソレは恐らくは無いかと。人族には、その、魔王様が復活した際にソレを知らせる神具なる物が存在しまして。」
「え・・・それって今、もう僕の事を殺す為の準備をし始めちゃってる、って事なの?マジで?じゃあ、逃げよう。直ぐにここからもっと別の、もっともっと遠い所、勇者が来ない所まで逃げちゃおう。」
「・・・え?」
僕のこの発言にメイドさんは驚き固まってしまった。
ここで僕は説明する。
「えー?だって僕、戦争をするつもりなんてこれっぽっちも持って無いんだけど。それなのに命を狙われなくちゃいけないとか、どんな理不尽?戦争したから、敵の首領を倒す、うん、そりゃ解るよ?けど、じゃあそもそも戦争なんてしなければ殺される謂れなんて無いでしょ?けど、人族ってのはそんなの関係無しに僕の事を殺しに来るって、そんなの逃げる以外に助かる方法無くない?だって毎回にどうしてか魔王って勇者に殺されてたんでしょ?魔力を物凄く持ってるって、凄く強いって事なんだよね?でも、その物凄く強いハズの魔王が毎回欠かさずに勇者ってのに殺されてるって、何か裏が有りそうじゃん。勇者を返り討ちにした事って無かったんでしょ?だったら僕はその勇者とは顔を合わせたり絶対にしないよ。会った日には僕、絶対に殺されるって事じゃんソレ?馬鹿じゃん、そんなのやってらんないよ。誰が勇者何かと正面衝突してやるかってんだ。」