十九話
僕らはあの人面牛がやって来た方向に向けて歩き続けている。
別に走ってみても良かったし、空を飛んでピューッと一気に進んでしまっても良かったけれども。
「魔石から力を得るのに凄い時間が掛かるねぇ。こんなに小さいのにね。これも仕組まれた狙いってヤツなのかね?」
僕とメーニャで魔石を半分にしてソレを一個一個確実に吸収していきながら歩いていた。魔石から力を得るのには結構集中力が要るからだ。
魔石へと自分の魔力を浸透させてソレをまた自身の中へと戻す。
そう言った単純な方法でこの魔石から力を吸収するのだが。
「本当に僅かだねぇ。純粋に吸収できるのはホンのちょっとで、他のは全部ダメか。魔力に取り込め無い粗雑な何かが紛れ込んでる。これらも一緒に勇者は取り込めるから、一気に強くなるって事なのかね?」
どうやら魔王と言えども吸収できる力の量は少ない。例外と言った事にはならなかった。
「さて、それでも塵も積もれば山となる、って事で、出て来た魔物は全部倒して魔石を吸収しよう。別に無理して探し出すとか言った事はせずに最奥へとこのまま目指しつつ、攻略後に支配したらそのまま出口を作って外に出ようか。」
ここには最初から様子見の目的で入ったのだから、長居する気は無い。
「このまま行けばあるっぽいんだよね?ここのダンジョンのボス?的なヤツが居るだろう空間が。」
「はい、先程に広げたわたくしの魔力索敵範囲に怪しい場所がある事は確かですが、確実な事はまだこの距離では確信が持てず。申し訳ありません。」
「いやいや、メーニャが居なかったら僕絶対にここで遭難して彷徨い続けてたから。助かるよ、ホント。まだ僕この魔法ってのが使いこなせてないからさ。索敵とか良く分かんないんだよねコツ。」
得手不得手、僕はどうにもメーニャの今使っている索敵魔法と言ったモノが苦手の様だ。
メーニャの説明だと、意思を乗せた魔力を体外へと薄く広く伸ばして行くと言う事らしいのだけれども。
ソレを聞いて僕もやってみたらメーニャから「駄々洩れです」と指摘されて中止を指示されてしまった。
「魔王様なら幾度か練習すれば直ぐにでも会得されるでしょう。しかし、今は止めておきましょう。魔王様の魔力が強力過ぎてわたくしの魔法の精度が非常にブレてしまいますので。今はここを出る事を優先にしましょう。」
多少は急いでいるが、焦っている程でも無い。
けれどもなるべくならダンジョンから出るのに邪魔になる事は避ける。
無理や無茶を言って僕はメーニャを困らせる気は無い。
今直ぐにこの索敵魔法とやらを使える様にならないといけない訳でも無いのだ。
メーニャが使えるのだったら任せてしまえば良い場面である。
「魔王様、魔物が空からやって来ます。魔王様自ら迎撃なされますか?」
「え?空?・・・ん?デカくね?多くね?」
ここで索敵が魔物を捉えたらしく、メーニャが遠方を指差して僕へと知らせてくれたけれども。
ソレは大群と言っても差し支えない数と言える。大きく翼を広げた鳥がこちらにやってきているのが視界に入った。
しかも一匹一匹がどうにもまだまだ離れているのにもかかわらず「デカい」と判断できる程で。
「え?マジで?えー、あー、普段からこういう時になったら放つ魔法、ってのを決めておくべきだったね。どうしよ?思いつかんのだけども?うーん?空を飛んでる訳だし?風を起こしてソレを乱せば地面に墜落させられるかね?」
何の捻りも無い思い付き、そう僕は自分にツッコミを密かに入れたが、単純故に使おうと思う魔法のイメージがしっかりと作れた。
その魔法を放つべく僕は魔力を集中する準備に入った。