十八話
空へと飛んでこの人面牛たちをやり過ごすと言った事も、出来たかもしれない。ソレが危機を脱するに一番簡単だったはずだ。
けれどもあの状況での僕は流石に冷静ではいられ無かったのでそんなアイデアも捻りだす事はできず。
しかもメーニャが「ヤってしまえば良い」と言った内容の発言をしていて僕の思考はソレに引きずられた感がある。
だけども敵を、しかも広範囲で百もの数が居るソレを殲滅出来る攻撃を直ぐに想像でき無かったからこの様な妙ちくりんな作戦で目の前に地獄絵図が完成した訳だ。
「・・・この綺麗な石ってどうするの?」
「はい、魔石で御座いますね。神の創り出したダンジョンではこの様に敵を倒せば出現します。コレは様々な物に力を与える、いわば神の力の残滓です。勇者はこれらから絞り出せる「奇跡」を用いて自身の力を上げるのです。我々魔族もこの魔石から力を抽出して得る事は可能ですが、勇者が得られる量と比べれば僅か過ぎてわざわざソレを得ようと言う事は余りありませんね。勇者へと与える為に用意された神の創りしダンジョンですので、我々魔族はこの魔石からは力を得るのに効率は悪いのです。簡単に神が我々魔族を強化できる様にはしていないと言う事ですね。」
「あー、そっか。その代わりにダンジョンを最奥まで攻略すると、ここを支配できるって形にしてバランスを取ってるんだね。うーん?それでもまだまだ魔族が有利になると言った所まではいかないよねぇソレでも。」
一応はこの神と魔神のゲームとやらは多少はそこら辺の天秤が考えられていると。
だけどもソレでもこれまで魔族側が勝利した事は無いと言うのだからお察しだ。
「じゃあこの魔石、俺が使ったらどうだろうか?やっぱ力ってのは僅かにしか得られないのかな?」
「ソレは・・・分かりません。その様な前例は聞いた事がありませんでした。」
「じゃあ試してみよう。・・・で、どうやってコレから力を絞って吸収すれば良いの?」
「お手に取って見れば恐らくは本能で御理解頂けるかと。わたくしも初めてコレに触れた時にはそうして理解致しましたので。」
「ふーん。それじゃあやってみようか。」
僕は地面に転がるその魔石をメーニャに拾い集めて貰った。
自分でも拾い集めようとしたらメーニャにはソレを止められてしまった。魔王がその様な事をするべきじゃない。部下に命令してやらせる事であると説かれて。
僕は別にその様な事を気にはしないけれども、メーニャが気にすると言う事で、仕方が無いから一つだけ足元に落ちていた魔石を拾うのみにした。
けれどもその瞬間に僕はこの魔石の事を理解する。一番初めに手に取ったその魔石を見つめて意識した瞬間に頭の中にその力を吸収する方法が浮かんだのだ。
「魔王様、全部で八十七ありました。御収めください。」
メーニャが集めた魔石をそのメイド服のエプロンに纏めてこちらに差し出してくる。
今僕の手元にある一個を足せば八十八だ。
「うん、二人で半分こして、これを吸収してみようか。」
僕はそう提案したけれども。
「このダンジョンを支配すると、その改造の為に魔石の力を使用する事になります。残しておかずとも良いのですか?」
「あー、そうなの?でも、別にここには本格的にこのダンジョンを支配する為に入った訳じゃ無いし?様子見の為だけに入ったからねぇ。別に良いんじゃないかな?ここに留まるつもりはサラサラ無かった訳だし?後で気が向いたらそこで再び集め直せば良いんじゃない?」
どうにもダンジョンを支配した後に改造する為には魔石が必要らしいが。
「最奥に着くまでに集めた魔石の力だけでしか、改造ができぬらしいのです。わたくしは実際にはやったことがありませんので話だけでしか知識に在りませんでした。その事で直ぐに思い出せず説明が遅れてしまい、申し訳ありません。」
「へぇ~、そうか。だから効率の悪い魔石の吸収よりも、コレを集めて後で改造に使って勇者を追い詰める改造をした方が良いって事なのかな。納得したよ。でも、それ、やっぱり魔族には厳しいルールだよねぇ。」
結局はこれまでどの様な事があろうとも、勇者側が勝てなかった事など無いから、魔族は負け続きだった訳で。
「じゃあ徹底的に魔石を集めてソレを全部自身の強化に使ってみるべきかな?」
どうせこれまでと同じにしても勇者に負けるのならば、違う方面から攻めてみるのもまた一興だ。
僕は勇者に殺されない為に、自らを強くする方面で行く事にした。