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十七話

「うわぁ・・・気色悪いなぁ・・・」


 迫って来るのは百頭近い、人面牛。


 そう、人の顔に近いソレに頭部側面に反り返って正面向いた鋭い角が生えている。


「うん、僕の体の大きさに近いねドレもコレもさ。」


 まだまだ距離はあるが、その見た目が何となく分かる所まで来ている。


 もう少ししたらその走って来る勢いのままに僕らの所へと突っ込んでくる。


 速度が落ちる様子も無いので律儀に僕らの前で止まってくれるとは思えない。


「アレが衝突したら角で体を貫かれるし、吹き飛ばされるし、地面に倒れたら踏み潰されるよネ。どうしろって言うんだろ?」


「魔王様の魔法で一網打尽にしてしまえば宜しいかと存じますが。」


 メーニャはそう言ってくれるのだが、こんな事にリハーサルも無しに一発本番とかあり得ない。


「何の魔法を使っても上手く行く様に思え無いんだよね。まだ魔法を熟練できてるとは言え無いし。」


「ならばわたくしがその魔法を補助致しますので魔王様が思い描かれる敵を殲滅する魔法をお使いになられてください。」


「え?いや、アレ全部を殲滅とか・・・うーん?時間も無いのにどうしよう?そんな直ぐに想像できないぞ?」


 それもそうだ。この人面牛、巨体だ。しかもソレがざっと見で百頭近いのだから。


 これらを一網打尽なんて相当な威力と範囲が必要で、そんなモノをいきなり魔法で発動しろなどとは、魔法初心者の「僕」には難易度が高過ぎる。


 メーニャはどうにも時々「僕」の基準で話を進めずに「魔王」の基準で話すからちょっと厄介だ。


 そりゃ魔法を自在に操れたのであろう以前の魔王ならいざ知らず、今の何も解っちゃいない僕でそんな凄いヤバイ魔法を放てなどと言われても困難だ。


「魔王様、放つ際には合図をお願いいたします。ソレに合わせてわたくしの魔力を加えて強度を上げますので。」


「いや、まあ、うん、逃げるって事もどうにもできなさそうだから自棄だけど。じゃあ、行くよ?何でも良いんだよね?それじゃあ・・・安全第一で行こう。三つ数えたら行くよ・・・いち・・・に・・・さん!」


 僕は人面牛がもう後10mと迫った時にソレを発動させた。


 魔力を地面に流して操り、ソレを操作して土を盛り上げて上り坂を作る。


 横の幅も相当に長く広く取って一気にソレを展開した。


 僕らの頭の上を覆う程に長さを取って作っておいたので人面牛が落下してくる事も防止できる。


 その先少し行った所でその作った坂はいきなりプツンと途切れさせている。何処までも続く訳じゃ無い。


 そうするとどうなるか?


 ここまでを怒涛の勢いで、それを少しも緩めずに走って来ている訳だから、その人面牛は止まれもせずにその坂を上る訳で。


 止まる事無い勢いに任せてその道の途切れた部分に飛び込む訳である。


「あいきゃんふらい」


 後続の人面牛も前方がどうなっているかも分からずにその坂をそのままの勢いで上り、そして途切れた道を飛んで行く。


「あいきゃんふらい」


 僕のこの魔王の体、その身長を越える高さの坂ではあるけれども、人面牛の馬力は相当なモノであるらしく、上る際に勢いが衰えると言う事も無く。


「あいきゃんふらい」


 幅も相当に広く作った物だから人面牛の集団は漏れ無くその坂へと目指して走り上って行く。


「あいきゃんふらい」


 飛んだは良いが、着地に失敗した人面牛は地面と熱い抱擁と、相成る訳で。


 それは下手しなくても重傷、もしくは致命傷、或いは即死。


 そんな着地失敗した仲間の上に飛んでしまった人面牛は当然に連鎖して着地に失敗100パーセント。


 上手く着地したヤツは小回りが利かないらしく、そのまま旋回してこちらへと迫ると言った事も無くて真っすぐ走り去っていく。


「・・・自分でやっておいて何だけど、地獄絵図・・・」


 着地失敗したヤツは悲惨だ。その上から仲間が墜落して来てその衝撃で絶命である。


 その人面牛の重さがどの程度かは知らないが、相当な重量のソレが自分へと突っ込んで来て、そして圧し掛かって来るのだからその威力は計り知れない。


 着地を失敗、しかしそれでもまだ死んでいなかったとしても、その事に因って息の根を止められてしまう。


 そしてまたその上からドンドンと同じ運命を辿る奴等が次々に重なり合い続けるのだ。これを地獄絵図と言わずして何と言おうか?


 しかもだ。このダンジョンの魔物とやらは死亡すると光と消えて透明度の高い青い石になってしまうらしい。


 そう、死んでは消えて、死んでは消えてと、そこには山が出来上がる事も無く上から振って来る人面牛たちがドンドンと消え去っていく状況となってしまう。


 もしもコレが消えずに居れば、そこには仲間の死体の山を足場にそのまま地面へと無難に降りる事も出来る状態になっていたはずだ。


 けれどもソレは叶わなかった訳で。次々に人面牛は哀れな最後を迎え続けた。

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