十六話
中へと入ったは良いが、まだ目が回復していない。
もう魔力視の方はとっくに解除しているのだけれども。
やられた目はそこまで早くは元に戻ってはくれなかった。
「で、どんなダンジョン?まだ全然視界がぼやけたままでヤバいんだけども。」
「草原、で御座いますね。何処まで行っても果てが見えない程です。」
「え?ナニソレ・・・じゃあ最奥ってどうなってんだろ?神が創った別空間って事だったはずだよね?周囲ぐるっと見渡しても何処にも目印っぽい物すらないの?」
僕は自分の目でこの状況を見る事が出来ない状態なのでメーニャに質問をするしかない。
「はい、どうやら入って来た際の扉も消えました。最奥に辿り着いてこのダンジョンを支配しない限りは外には出られ無くなってしまった様です。」
「不味いじゃん・・・様子見どころか、本格的に攻略しないとダメって事だもんね。その間に、まあ、勇者がこのダンジョンに入って来る事は無いかもしれないけど、マードックは・・・分からないよねぇ。」
勇者が動き出すのはどうやら魔王が復活してからと言った事らしいので、今直ぐにこのダンジョンへとやって来る事は無いだろう。それ程に時間が経っていないのだから。
しかしマードックは違う。あの城にマードックが戻って来て玉座の間に僕が居ない事を知ったらどの様な対処をしてくるかは分からない。
直ぐに人海戦術でも使ってここまで捜索の手を広げて来るかもしれない。その可能性を否定できない。
「直ぐにでもここを脱出したいけど、ソレは確実に・・・無理だね。あー、やっと見えて来た。・・・うん、外は夜で真っ暗だったのに、ここは明るいねぇ。ずっとこうなのかな?もしくは時間経過で暗くなったりするのかな?」
そう、やっとの事で見えて来た僕の視界に入ったのは青い空、白い雲、大地には草原の緑だった。
ぐるっと首を回して周辺確認をしても、何らかの目印になりそうな物が一切無し。これら以外が何も見えない。
地平線の彼方まで緑と青と白だけ。何らのヒントも見当たらない。
「ねえコレ、入った瞬間に遭難してるって事じゃない?流石にこれは酷いと思うんだよね。これ、僕じゃ無くて勇者が入った場合も同じ様な状況に放り出されていたのかな?」
「そこまでは分かりません。今はその様な事に意識を割くよりも先ずこの先をどうやって進むかだと思われます。」
メーニャは冷静に僕の現実逃避にツッコミを入れてくれる。
コレに僕も思考を切り替えて次にどうするかを思案した。
「ねえ、ダンジョンは勇者が強くなる為の試練として神が用意した物なんだったよね?じゃあ、魔族が入って最奥を目指そうとすると、その邪魔をされる、よね?ダンジョンを支配されて改造なんてのは神にとってはせっかく勇者の為に用意した物なんだから、そんな真似されれば業腹だろうし。それで、まあ、今こっちに向かって来ているだろうあれは、僕らの事を排除しようとして近づいて来てるのかな?」
未だに遠くに見えてその全貌が分からないけれども、確実に何かがこちらに接近してくる角度。
ソレは複数、かなりの数が真っすぐにこちらに向かって来ていた。
「はい、恐らくは。」
メーニャは短く、しかし鋭く、警戒心をふんだんに込めてそう答える。
コレに僕はちょっとだけ迷ってから再び質問をした。
「それじゃあ、逃げた方が良いか、迎え撃てば良いか、どちらがより安全かなぁ。」
「何処にも隠れられる場所はありません。逃げるにしても振り切れはしないでしょう。迎撃して全て消すのが宜しいかと。」
過激ではあるが、メーニャの言う通りだった。逃げるなどと言った選択肢は初めから潰されている。
こんな何も無い平原で見晴らし最高なのだ。相手の視界を遮って姿を晦ませられそうな障害物なんて無い。
「うーん、コレが僕の初めての実戦、って事にするのね。メーニャ、僕、勝てるかなぁ?」
「魔王様の御力であれば負ける要素は一切無いかと。」
「じゃあ腹を括ろうか。」