十五話
僕はそのダンジョンの入り口、扉の前でメーニャを一旦下ろした。
そしてまじまじと、ぐるりと一周を回る様にしてその扉を観察していく。
「宙に浮いてるね。これ、どっちが表で、裏?どっちからでも入れる?」
「手を触れると勝手に開いて行くと聞きました。魔王様、このダンジョンを攻略するおつもりですか?」
「いや、放っておいても良いんじゃないかと思う。入らないし、最奥に行く気も無い。このダンジョンの奥に隠れ続けるのは、あの城で閉じ込められていた時と何ら変わらないからね。まあでも、支配出来たらこの中を自分の好きな様に弄れるんでしょ?弄れるんだよね?そこはちょっと魅力かなぁ。・・・いや、でも、別にここを攻略しちゃって支配しても良いのかな?こんな所に勇者が来るとは思えないし、偶然でもこのダンジョンを発見するとかあり得なくない?あの城の配置でその正門と真逆の位置にあるって事でしょこのダンジョン。・・・何か引っ掛かるなぁ。」
ここを僕の支配下に置いて中を自由に出来るのであれば、自身の思う快適空間に変えてノンビリと過ごすと言った事も魅力を感じる。
けれども、どうしてもこの様な場所、配置、立地にダンジョンがある事が気になる。
「・・・神は勇者に魔王を倒させるのに、強くさせる為に、このダンジョンを修練の場にしてるんだったよね?そしてソレを見つけるまでの旅もまた、勇者が強くなる為の必要な経路と。・・・じゃあ多分このダンジョンの位置を示す何かを神は用意していて、ソレを勇者が見つける様な、そんな采配をしてるんじゃないかな。魔王の僕がこれを真っ先に発見した事は、きっと神の考えの外なんじゃ無いかと思うんだよねぇ。裏が掻けるかも?ま、コレは只の僕の勘でしかないんだけどね。どうだろメーニャ?」
「分かりません。この様な事に経験が無いですし、神の意図となると、わたくしには量りかねます。」
「うーん、そっかぁ。どうしようかなあ。・・・良し!何事も経験だよね!ちょっと中に入ろうか。損で以て最奥に辿り着けたら支配?してちょっと実験してみたい事がある。」
僕はダンジョン、その扉へと掌を当てる。
すると扉は真っ白に一瞬だけ光ってゆっくりと扉が開き始めた。
「目がァ!?目がァァァァ!?」
ダメだった。僕は今「魔力視」の魔法を使用中だった。
メーニャからの注意があったのにも関わらず僕はこの扉の放つ光量の高い「魔力光」で目が暫く使い物にならなくなった。
と言うか、こんなの知らなかったのだから当然の不意打ちであり、初見殺しだ。
目元を手や腕で覆って光を見ない様に防ぐ行動すら、一瞬過ぎて取れなかったのだ。
間抜け過ぎると言えばそうだし、初めてだからしょうがないとも言えるし。
目が正常になるまで相当な時間を要した。その間はずっと周囲をメーニャが警戒して僕を守ってくれていた。
メーニャも魔力視を使っていたけれども、僕が扉に手を掛けた際には何かの危険が周囲から迫って来てい無いか確認の為に視線は扉に向いていなかったので目をやられずに済んでいた。
「大丈夫で御座いますか魔王様。わたくしの顔がハッキリと見えますか?」
「いや、まだ見えない・・・かなりぼやけてるよ。いや、本当にコレあかんヤツや・・・」
まるで靄をずっと目に張り付けているかの様な視界で僕はメーニャの顔を見ながら質問した。
「さっきの光でマードックが僕がここに居る事を感知やら察知したりはするかな?」
「いえ、城からこれ程に離れた位置ではその様な事はあり得無いかと思われます。」
魔力の感知でも、物理的な光の確認でも、どちらにしろ常識的にはあり得ないと言った距離まで城からは遠ざかっているのだ。
なので大丈夫だとメーニャは言ってくれるけれど。
「こうして逃げ出した事に後悔は無いけど、もし追跡されて追い付かれたら?って思うと不安になっちゃう。早く安心できる拠点とか造れたら良いんだけどなぁ。まあ、先ずはこのダンジョンを様子見だ。」
まだ回復しない視界はそのままで僕はメーニャに頼んでダンジョンへと手を引いて入れてくれる様に頼んだ。
ダンジョン内を歩いている内に目は元に戻るだろうと思って。