十四話
森の中は真っ暗だ。既に夜である。だけどもメーニャも僕も別にこの暗闇で何も見え無いと言った事も無い。
「ねえ、本当にズルくない?こんな光の一つも無い真っ暗闇でもまるで昼間みたいに視界が確保できちゃうって。」
「魔力視は万能ではありますが、油断をすると一瞬で出力と圧力を上げた魔力の光で目潰しを受けてしまいますので使い所は難しい部類ではあります。」
またしてもここで魔法なのだけれども、コレは闇の中を見通せる「魔力視」というらしい。
この世界の全ての存在に宿る魔力をこうして見れる様にする事で周囲を把握する方法なのだとか。
眼に魔力を集中してレンズの様な形にして、ソレを通して世の中を見ると言った感じだ。
メーニャから教わって夜に入る前に練習したのだが、十分ほどでその調整も完了。
そのまま暗闇の中をまだまだひたすらに逃亡を続けている最中である。
この逃亡に終わりと言えるモノも、目的地と言えるモノも無い。
だけども今僕はちょっとした「ランナーズハイ」と言った症状を発症している。
このままのペースで何処まで行けるのか?終わりを決めていなかったからこそ、その限界はいつ来るか?と言った感じで思考停止して脳内がアッパラパーと化していた。
メーニャもそんな状態に僕がなっているとは思ってもいないだろう。
もう充分なのでは?と止める言葉も口にせずにずっと僕に抱え続けられて大人しくしていた。
もう城なんて見えなくなってどれ程に経ったか分からない。
それでもこの森はずっと続き、目の前の光景は何らの変化すら起こさない。
いや、同じ様に見えて、一つとして同じなどでは無いハズだ。
そこら中に生えている木々だって、草花だって、土だって、なんだって、それぞれが同じ様でいて一つとして同じ物は無い。
そんなしょうも無い事が思考の中に混じった時に、ソレが見つかった。
「・・・え?何アレ?メーニャ、ちょっと良い?あれ、何?」
「ああ、あれはダンジョンですね。」
「いや、そんな事言われても分からないんだけど。何で突然にこの森の中にあんなそぐわない「扉」だけがいきなりあるの?ヤバいじゃん?確実におかしいよね?」
思わず止まってしまってソレを僕はまじまじと観察してしまった。
それ程までに強烈なインパクトと存在感なのだ。
「アレは神が用意した勇者を鍛える為の疑似世界です。この様な所に発生するとはおかしな話ですね。」
「メーニャの説明、ちょっと分かんない僕。もうちょっと詳しく、解り易く砕いて御教授願いたいんだけども。」
僕はメーニャを抱えたままにその「扉」へと近づいて行く。
別段近づくだけでは危ないと言った事も無いんだろう。メーニャは何らの反応もしないし、リアクションも無い。
そのまま坦々と説明を続けてくれた。
「勇者は最初から強力な訳では無いのです。少しづつ戦闘経験を重ねて神からの加護を強化していくのですが。その舞台となるのが、このダンジョンとなりますね。世界の、それこそ、そこら中に、偶発的に発生するモノとされています。それらを見つけ、ダンジョンへと挑戦し攻略して力を得るのもまた勇者の背負う使命の一つと言う事だったはずです。魔族側もコレに干渉する事ができ、先にこのダンジョンの中へと入って最奥に辿り着ければそのダンジョンの支配、制御が可能となります。こうする事で勇者にダンジョンを攻略させない、或いはそこで勇者を討つ、などと言った試みがされてきましたが、まあ、勇者の特性の通りでございまして。」
「あー、危機に陥るとソレを越える為に覚醒するんだっけその度に。」
「はい、これまでに勇者をこの作戦で倒す事が出来た試しがありません。ですが、やらずにはいられず、みすみすと勇者を強化させまいと魔族たちはダンジョンを発見しだい侵入してその支配を目指します。まあ、わたくしは入った事はこれまでに一度も無いのですが。」
ここで僕は単純な疑問をメーニャにする。
「コレって壊す事は出来ないの?」
「破壊・・・ですか?可能だと聞いた事はありますが、しかし・・・」
「しかし?」
壊して入れなくしてしまえば、当然にこれに勇者も入れなくなる。そうなれば強くなれる機会が失われる訳で。
「その場合は他の場所に、しかも勇者の行く手に直ぐ目の前に現れるらしいですね。」
どうやらそう上手くはいかない模様で。
「あー、ソレは駄目だね。人族に断然有利になるのね。うん、神も勇者もズルい。」