十三話
メーニャが言うにはこの森、物凄く広大でこのまま何処まで進んだ所で開けた場所には出ないとの事。
こんな所に魔王の城を建てたのは勇者に簡単にここまで辿り着かせない為らしい。
そこに僕は疑問に思って一つの質問をしている。
人にも魔法が使えるのならば飛行の魔法でこんな森など空から一っ飛びで来れちゃうのではないのか?と。
するとメーニャからは驚きの答えが。
「どうやら人族はそう言った魔法を得意としておらず、自在に扱える者は極少数であるらしいです。」
「変な所にそう言った差があるよね、魔族と人って。でもそう言った部分が無いと余計に魔族に不利になるからソコはソレで調整って言うのかな?うーん、神ってのも魔神ってのも、変な所に拘りがあるのかねぇ?」
確かに勇者が飛行の魔法を使えてしまえば、あっという間に魔王の元に辿り着いて「はい、撃破」が出来てしまいかねない。
「魔王様が倒される度に城を別の場所に建設し続けて、今はこうした容易に勇者が入って来れぬ場所を選定していると聞いた事があります。」
「おおぅ・・・世知辛いね。結局は負け続けてこうして労力と苦労と工夫と努力を重ねてきていても、結局は魔王ってやられちゃってたんだよね。毎度の事に。嫌だなぁ。想像を絶するよ、そんなの。悔しいを通り越して悟りの境地になりそう。いや、その前に諦めの境地だよね、先に辿り着くのって。」
魔王が勇者にやられる度に次こそはと城を別の場所に移していたらしいが、ソレも虚しい抵抗と言った感じだったんだろう。
これまでに一度も魔族側の勝利が無いと言う事なのだ。それでも今まで良くも諦めずにこうして城を建ててきたモノである。
「・・・これまでの建ててきた城って、因みに今はどんな事になってるの?」
「城を徹底的に破壊し人族に利用されない様に瓦礫にしております。」
「勿体無いねぇ色々と。でも、しょうがない事かな。折角建てた城を人族に奪われて利用されるとか、業腹だろうしね。だったら壊しちゃう方がよっぽど良いか。」
確かに城を再利用されて人族にもっと有利な環境、状況になってしまうのは避けたい話だ。
ならばソレをさせないために壊してしまえ、と言った理屈は納得できる。ソレが方法として一番簡単だから。
けれどもそこに僕としては「勿体無い」と言った気持ちが混ざってしまうのは、コレを他人事として見てしまっている所があるからだろう。
「さて、このまま進んでいても森が続いて何処かしらに抜けるって事が無いのは分かったけど、それでもこのまま進もう。徹底的に。」
僕はまだメーニャを抱えたままで木から木へと跳び移って移動している。
どうせなら徹底的に行こうと決めた。
マードックに追跡される可能性を徹底的に排除、これである。
でも心配な点がまだまだ幾つかある。その内の一つに。
「ねえメーニャ、マードックは魂を見る事ができるとか何とかだったっけ?僕の逃亡をその「魂」を見る能力で追跡してくるとかはあるかな?」
「分かりません。兄の能力の全貌をわたくしは知らぬのです。申し訳ありません。」
「いや、謝る事は無いかな。もしそんな追跡が出来るって分かっていても、それの対処をどうすれば良いか何て僕らには思いつけなかっただろうしね。対処法が無いならもうしょうがないって諦められるよ。今は魔法を使わないで逃げる事しかできそうな事って無いしね。」
僕が出来るのは魔法を使わない事だけ。使った時に出ると言う残滓を追跡される事の無い様に。
「よし、このまま行って何処に辿り着けるかも分からないけど、日没前までずっとこのままの調子で行こう。」
もう既に城は地平の彼方と言って良い程に離れた。この目に入る大きさは豆粒以下になっている。
だけども僕は油断せずに調子や速度を変えずに一定の間隔を保って木から木へと跳び、移動し続けた。