百二十四話
僕の所に連れて来られたガムラクがあれ程に怯えきっていた事に納得した。
こんな蹂躙劇をその目に、頭の中に焼き付けられたのだから、そりゃ当然か。
この世の中には逆らっちゃいけない、関係しちゃいけない存在と言うのがいる。
ソレがガムラクにしてみればメーニャな訳であり、そしてそんな危険な存在が「主」と呼ぶ者を前にして気が気で無くなってしまうのはしょうがない事だろう。
「あー、楽にしてくれないかな?別に僕はアナタが何を口にした所で機嫌を悪くする様な事は無いし、危害も加えないから。メーニャ、彼を責めたり脅したりしないでね?」
「畏まりました。」
こうしたやり取りを聞いてもガムラクは僕の事を見ようと顔を上げてはくれない。
「まあ、僕も自分の顔はまともじゃ無いと思ってるから見たく無ければ顔は上げなくても良いけど。会話はして欲しい所だね。さてじゃあ、メーニャ、もう抗争は終わったって事で良いんだよね?」
「ハイ、この先は各組織の残存している戦力や部署を「マリウレス」に解体吸収させて一気に巨大組織に造り直します。」
メーニャの今後の展望を耳にしたガムラクが大きく体をビクリと震わせている。
(聞いて無い、って感じだなぁ。多分メーニャも当然の如くに伝えて無いんだろうね)
「うん、メーニャの思う様に好きなだけ弄って良いんじゃないかな。いやー、でも、そんなに大きくして何か狙ってる事でもあるの?」
「この町は交易が盛んであり、そしてその分の「裏側」も巨大な市場が形成されています。ソレを一手に牛耳ってしまおうかと考えております。」
「何その目標・・・僕には想像も出来ないやぁ・・・まあ、もう少しだけ突っ込んだ所を聞かせて貰うと、牛耳るって言っても、具体的には?」
「合法、非合法何でも扱う、この町の者たちの誰もが逆らう事の出来無い、そんな組織を目指そうかと。」
「目指す所が無茶苦茶過ぎるね・・・ああ、ソレはいつかこの町にも来るだろう勇者を見越してって事?」
「はい、お察しの通りです。流石魔王様です。」
「勇者がこの町に来て誰かに頼るとしたら、一番でっかい力を持つ相手だろうからねぇ。表も裏も支配してれば、勇者の動きを幾らでも操作出来ちゃいそうだ。ダンジョン攻略に協力するも良し、一切の協力を拒んで嫌がらせを掛けるのも良し、って感じかな?ああ、信頼させておいて裏切る、何て事もこっちの都合で出来ちゃうだろうね。国の権力が通じ無い組織ってのが有れば色々と面白い事が沢山出来そうだねぇ。」
ここで僕は気づく。ガムラクの震えが止まっている事に。
しかし代わりに床に染みが出来ていた。滅茶苦茶大量に。
どうやら噴出した汗を拭わずにいてそのまま流れ落ちてしまうに任せている様だった。
(いや、これって多分、アレだよね?)
極度の緊張に因る脂汗や、僕が魔王だと知ってしまって流した冷や汗か。
メーニャと何時もの感じで今後の事を話していたけれども、それはちょっと早まってしまっていた様だ。
ガムラクはここに来た時にはまだ僕の正体を知らなかったはず。
しかしこうして聞いてしまったからには後戻りはできない訳で。
(まだその覚悟なんてこれっぽっちも、指の爪の先程も生まれちゃいないのに、いきなり聞かせられたって感じだもんなぁ)
少しコレには僕も同情したが、ここまで来てしまったらもうしょうがないから諦めて欲しいと心の中だけで謝った。