十二話
さて、とうとう僕は自由の身になった。とは言え、ソレは短い時間だろうけども。
僕が逃げ出した事をマードックが知ればソレを必ず追って来るはず。
そうなると僕は自由の身からひっくり返って逃亡の身に転身だ。
「さて、物凄く単純で、ソレでいて手の掛かる方法で城から出てこんな深い森を進んでいる訳だけども。」
「余りにも驚きです魔王様。あの様な真似をせずとも飛行の魔法を御使用になられれば宜しかったのではないでしょうか?それに森を抜けるにしても何故木々の間を跳んでなのでしょう?そこはどう言った意図なのでしょうか?」
「だって空を飛べるって言ってもソレって僅かにでも痕跡が残るって言ってたでしょ?まあ、その残滓も直ぐに空気中に霧散して消えるって言ってはいたけどさ。それでも僅かにでも追跡される可能性を残したく無かったって言うのが一つあるね。それと、まあ、やったら簡単に出来ちゃったのがあるかな。」
「身体強化などもせず、城の外壁を登って裏手側の敷地から脱出すると言うのは・・・余りにも、その。」
どうやら魔法で体を強化できるらしいけども、この魔王の身体はそんな事をせずに城の壁をホイホイと登る事が出来てしまったのだ。
身体強化の魔法もやはり使用した残滓と言うのが出るらしく、ソレを抑えたかった僕は何とか出来ないかと考えた結果。
「いやー、この魔王の体ってムキムキじゃん?もしかしたらそんな魔法を使わなくてもこのくらい簡単に登って行けるんじゃね?とか思ったんだよね。」
しかもメーニャにしがみついて貰いながらであった。これは魔法を使った跡を徹底的に残したく無かったのでメーニャにも使わない様に頼んだ結果だ。
でもそんな負担があったにも関わらず僕は外壁をスイスイと天辺まで登れてしまっている。恐るべき身体能力の高さだ。魔王のこの体は何処までズルいのだろうか?
そこからそのまま敷地裏手側から森へと入り込んで、そのまま地上に立つ事無く木の枝から別の木へと跳んで進んでいた。
これは足跡などを残さない様にする為だ。ここでもやはり徹底的に魔法を使った痕跡を残さない様にする為である。
「お城に控えている魔族の数は少ない、誰にも見られていないってメーニャも言ってたよね?うん、コレは脱出成功と言って良いと思うんだ。」
捻くれていると自分でも思う。あのまま外に出た後に見えた景色、そこへと真っすぐに進むのが不安だったからこの様な手に走った。
飛行の魔法で移動していたら、何処かで誰かが僕を見ていたかもしれない。空には自身を隠す様なモノは無く、その身を曝す事になっていた。
メーニャはそこでも姿を消せる魔法があると教えてくれたけれども、ソレもやはり使用した魔力の残滓が残るとも説明を受けている。
魔法はどんな些細な物であろうが使えばそこに残滓が残る。
ソレが直ぐに霧散して分からなくなるモノであろうとも、そう言った事があるからこそ、僕はこの城から出た時点で直ぐに魔法を使うと言った気にはなれなかった。
なので出来るだけ魔法を使わない方法で移動したかったと言うのがある。
まあ今の時点でもしかしたら僕に分からない様に魔法をメーニャに使われているかもしれないと言う可能性が残っているが。
そう、メーニャが僕の完全な味方だとは、まだこの時点では言えない。
もしかしたらマードックと裏で繋がっていて僕の監視をしていると言った事もあるかもしれないから。
(まあその可能性は随分と低いとは思うんだけども。それでもね)
そう言った消せ無い微かな懸念を抱えていても、メーニャを連れて行く事には利がある。
この先もメーニャはきっと色々と僕の知らない事を教えてくれるだろう。この逃亡には彼女が絶対に必要なのだ。
僕はメーニャを抱えたままで木から木へと跳んで移動しながら質問をする。
「ねえ?このままの速度で真っすぐに進んで、後どれ位で森を抜けるかな?」
「・・・魔王様、その点を何も考えずに今も直進していらっしゃったのですね・・・」
メーニャから物凄く微妙な顔してそんな事を言われてしまった。