百話
バークの町を出た僕らの次の目指した場所は「レームル」と言う村だ。そして直ぐにそこには到着した。
とは言え、相変わらず地下トンネルでの移動なので地上に僕は一切出ていないが。
ここは特にこれと言った特徴も特色も無い村で、しかしかなり広い農地を持っている。
食料生産量が高く、これらを周辺の他の町や村へと出荷している様で村の経済も安定していて豊かな暮らしをしている模様。
住人達もしっかりと食べれているらしく、農業に従事している者たちの体格はかなり大きく顔色も良い。
気候も長閑で暮らし易く、周辺も平地で水源も近場にあると言う。
「あー、僕、ここに住みたい。なんだろう、この圧倒的好条件は。」
僕のこの感想はどうやら人族にも当てはまるらしい。
この村の住民の数は他と比較にならない程、と言うには大げさかもしれないが、それ程に居るそうな。
広い農地を管理するには人手が必要だ。ソレに見合った村民の数が充分に確保されている訳だ。
しかもどうやら子供たちに勉学を受けさせる施設もあるらしい。
農事終わりにその汚れを落とす為の共有風呂も管理されていると言う徹底ぶり。
労働力を逃がさ無い為の工夫がしっかりと為されていると言う訳。
「魔王様、今この村は魔族との戦いの為の食料増産に取り掛かっている様です。」
「うん、別に何もしないけどね。あー、食材を少し分けて貰って、メーニャに料理して貰うって言うのはアリかなぁ。美味しいからね、メーニャの作る食事は。」
ここでひと暴れして問題を起こし、人族側の食料面へと打撃を与える、何て事も出来ると言えば出来てしまうのだが。
「僕は魔族と人族の戦争に一切関わる気は無いからねぇ。それに、ここが人族の持つ一大食料生産地だって言うのは、マードックだってもうとっくに調べを付けていてその内に攻め入る気は持っているんじゃないか?」
ここを攻めない手は無い。だけどもまだ魔族が攻め込んだと言った話も聞いてはいない。
人族だってここを狙われては大打撃になるだろうから警戒はするだろうし、魔族を入り込ませない様にする態勢やら体制も整えていたりするだろう。
人族は馬鹿じゃ無いはずだ。これまでにも幾度もの、それこそ数えるのが馬鹿らしい程の魔族との戦争の歴史があるのだから。
そこから魔族への対応の答えを導き出しているはずで、ソレに従って動いているだろう。
「それに魔族側だってこれまでの積み重ねがあるはずじゃない?ここをまだ攻めていないのはそれなりの理由があるのかもね。僕は戦争なんて全く分から無いし、一切関わりたくは無いよ。」
そんな面倒な事などやりたい訳が無い。争うだけ損な、そんなモノの指揮を執りたい訳が無い。
どうやら僕がこうなる前の「魔王」はソレをやっていたらしいが。
「さて、メーニャ。ここを通過するか、それとも滞在するか決めよう。」
「魔王様はここを蹂躙される気が無いと言う事で?」
「え?何でそんな面倒な事をするって思ったの?そんなのを此処でする気だったら前の二つの町でもソレをとっくにやっていてもおかしく無いよね?やらないよ?もう一回言うけど、大事な事だからね?やらないよ?」
「畏まりました。」
メーニャのその一言には何も感じられない。残念とか、未練があるとか、そう言った事は一切含まれていない響きだ。
(表情も一切の動きが無いから本心が読め無いんだよねぇメーニャの。もし何かしら願う所があるなら、普段世話になっている分のお返しなんかをしてあげたいと思うんだけどなぁ)
メーニャがもし、本心からこの村を滅茶苦茶にして欲しいと訴えて来るなら、これまでのメーニャの僕への奉仕へと報いる為に動いても良いと思っているのだけれども。
そう言った感情やら微細な動きすらメーニャからは読み取れ無いので、僕から何かしら積極的に動いてメーニャの仕事ぶりに報いると言う事が難しいのである。
(その内にちゃんとメーニャには恩返しがしたいと思うんだけどなぁ。今はまだ到底無理だな)
こうして僕らはこの村での今後の方針を決める為の話し合いをするのだった。