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十話

「その様なせいで、と迄は言いませんが、魔族は全体的に人族を侮っている傾向にありますね。人族よりも魔力は数倍は持ち、そのせいで相手を下等と見下していたりします。そこに絡んで個人で動く者たちが多く、徒党を組んで作戦などを立てる者は少ないです。そう言った種族の性質と言いますか、馬鹿な部分と言いますか。そこを人族に大抵突かれて敗退させられる者たちが後を絶ちません。」


「うわぁ・・・学習能力低いの?いや、プライドが高いのかな?あ、それでも勇者が神の加護ってので毎度に危機を乗り越えちゃうから質が悪いって感じなのかぁ。」


 魔族はどの様な事を、何をしても勇者に負ける。それがどうやら毎度の事らしい。


 メーニャから説明を受けた僕からの魔族への印象は「憐れ」だった。


「これじゃあ魔族が必ず負ける様に仕向けられてると考えてもおかしく無いよねぇ。神も魔神も本当に何考えてんだか解らないや。」


 僕がこのマードックの設置した結界から脱出した後の生命維持に関しての問題は解消出来た。


 だけども只逃げ続けるだけの日々と言うのは、きっと面白くも何とも無いだろうとの想像は付く。


 きっとここから消えればマードックは僕の事を連れ戻す為に刺客を放ってくるに違いない。


 そんなマードックから、そして、僕を狙う勇者から逃げ続ける日々になるのは目に見えていた。


 陰鬱になりそうなそんな逃亡の日々の中に何かしらの張り合いが欲しい。ソレが僕の楽しめる何かならば余計に。


「ああ、それなら世界を見て回れば良いだけだね。だって僕は何も知らないんだ。死ぬまでの間に出来るだけこの世界を見て回ろう。」


 僕はここから出て行く覚悟が出来た。少しづつ結界へと魔力を流し込み、ソレを操作する。


 見つけた「ツボ」に無理やりに魔力をドンドンと流す。


「あともうちょっと・・・うん、ここだ。」


 もう入らない、そんな抵抗を感じた瞬間に僕は流す魔力量を上げてグッと強く止めを刺す様に大量に「ツボ」へと魔力を押し込んだ。


 (何だか幾ら魔力を流し込んでも僕の中のその魔力が減った感じはしないなぁ。限界はどれ位なんだろう?)


 その結果。


「・・・お?壊れた・・・かな?」


 ソレは音も無い。結界が壊れたと言った感触も無い。けれども操作していた魔力の抵抗感が無くなった。


 そこで僕は再び扉へと近づく。そして触れてみれば。


「・・・おお?開いた開いた!ふむゥ~、成功だねぇ。」


 喜ぶ僕へとメーニャが祝辞を述べてくれる。


「魔王様、おめでとうございます。」


「うん、ありがとうメーニャ。君のおかげだね!それじゃあ早速・・・マードックに見つからない様にさっさとここから出て行くね。」


 僕はこうしてやっと自由の一歩を踏み出した。けれども。


「うん?メーニャ?何でついて来ているのかな?」


 メーニャは残ると思っていたのだが、僕の斜め後ろにずっと付いて来ていた。


「はい、わたくしは魔王様の御世話係ですので。魔王様の行かれる所にはわたくしも同行させて頂きたく。それに、ここに残っていても戻って来た兄に殺される可能性が高いので。わたくしも逃げようと思います。」


「あー、そうだね、うん。分った。メーニャにはもっともっと教えて貰いたい事とか沢山残っていたし、こちらこそ頼むよ。」


 どうにもメーニャには未練と言ったモノは感じられない。


 ここに残っていても確かにあの正気から一周以上回って狂気がくるくる状態のマードックに殺されるのが目に見えている。


 あの時に発していた殺気ならば、実の妹だろうが躊躇い無く殺害をしようとする事だろう。


(僕にとっても有難いことだしな。メーニャに今後もこの世界の事を教えて貰えれば楽だしね)


 何かわからない事があっても教えてくれたり、相談に乗ってくれたりする相手が居るだけで僕の逃亡は楽なモノになる。


 こうしてメーニャが付いて来てくれる事には感謝しかないが。


(でも、僕の見張り、監視の為に付いて来るって事も、やっぱり疑っておかないといけないのが寂しいけどネ)


 メーニャが僕の動向をマードックに何かしらの方法を使って報告している、そんな想定もしておかねばならない。


 味方と思わせて敵、敵を騙すには先ず味方から、そんな言葉を頭の片隅に置いておかないといけないだろう。


 メーニャには世話になっているけど、だからと言って心の底から信用しても良いモノかどうかは、今の時点では別だ。


 ここまでは別段僕の損となる事は何もされてはいないが、今後は分からない。


 些細でも、僕の意識を誘導する様な事をされるかもしれないのだ今後に。


 その小さな積み重ねで僕の迎える結末を絶望へと導いていないとも限らない。


 何せ僕はこの世界の事を一切、何もかも知らないのだ。


 無知な僕へとメーニャが何を吹き込んで来るか分かったものじゃない。


 そうして僕の事を洗脳してくる事もすら考えておかねばならないのだ。


(慎重に過ぎる、疑いが過ぎるとか、そう言った事も考えちゃうけど、こればっかりはしょうがないよ)

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