第一話 ジル再び登場
伝説の西部劇、ガンマンジルの続編がついに登場です。
1800年代後半 西部開拓時代
マックス・マグワイアは、ホーミーバレーと言う谷にある集落の出身だった。谷では金の鉱脈が見つかり莫大な収益があったが、集落の人間はその一切を隠して細々と暮らしていた、娯楽が何も無い田舎の集落に嫌気がさしマックスは3年前に町を飛び出した。金なんかに頼らなくても谷から少し離れれば大きな町もある。マックスマグワイアは賞金首を捕まえたり金持ちの用心棒をしながらガンマンとしての腕を磨いた。しかし羽振りのいい仕事はそう毎日あるわけでは無い、普段は牛飼いの手伝いをしながらなんとか暮らしている、いわゆるカウボーイである。
そんなマックスの元に今日は久しぶりにホーミーバレーから古い友人がたずねて来てくれた。炭鉱夫のシルダン・ユーゴーと幼なじみの娘クレバース・ビーンズの2人だ。マックスはシルダンとクレバースを町の酒場へ誘った。今日は昔話を肴に酒が飲めるのだ。ところがシルダン達の話は深刻そのものだった。2人が言うには、谷は【タートルヘッド】と言う大物ギャングに目を付けられた。彼等は法的に辺り一帯の土地を買い、集落の人間を労働力として監禁しているらしい。シルダンとクレバースは命からがら逃げてきたというのだ。
「あはははははは、ついにあそこも目を付けられたか、しかも、よりにもよってあのタートルヘッドが、んまあ確かに谷の連中だけで戦うのは無理があるな、なるほどね、それで用心棒を探して俺んとこに来たって訳か?」
マックスの乾いた笑いがカンに障ったシルダンは大きな声を出す
「こっちは真剣なんだ!」
「あー、この辺の連中はダメだ、やつの名前を聞くだけでびびっちまうって」
「もうおまえしかいないんだ、うちの谷でおまえほど銃の腕が立つガンマンはいない、頼むよカネはこの通り」
そう言うとシルダンは革袋をテーブルの上に置いた。縛ってあるひもを解き中身をマックスの方へ向ける
「谷の連中で出し合って、これだけある」
「……はしたガネだな」
「みんなで必死に集めたカネだ、我慢してくれ……それにこのままじゃ、俺たちの生まれ故郷がなくなっちまうんだぞ」
「放っておいたって無くなってたさ、たまたま金がとれるようになって、にわか景気に沸いただけだろ」
二人のやりとりを黙って聞いていたクレバース・ビーンズだがマックスの人を小馬鹿にしたような態度に我慢ができなかった
「最低だね!最低のクソやろうだよおまえは!ちょっと腕が立つからって勝手に谷を出て行きやがって」
「何とでも言ってくれ、とにかく俺はやらない。だいたい一人でタートルヘッドたちとやり合うなんて自殺と変わらんよ」
そのとき、隣のテーブルにいた黒シャツの男が立ち上がり話しかけてきた
「タートルヘッドがなんだって?」
話しかけてきたのはタートルヘッドの部下の一人、オースティン・コバーンだった。脱走者を探して連れ戻すのが彼の仕事だ、シルダンは見覚えのある顔に思わず声を上げる
「お前は!」
「やっと見つけたぜ、脱走は重罪だ」
オースティンは有無を言わさず銃を抜き、テーブルに向かって発砲する
パン!
酒場の客が一斉に悲鳴を上げちりぢりに逃げてゆく
シルダンとクレバースがあわてて柱の陰に隠れ、マックスは両手を挙げ降伏のポーズを取る
「待ってくれ!俺は関係ない」
柱の陰からシルダンとクレバースが叫ぶ
「いや、関係ある!お前も谷の生まれだろ!」
「そうだよ!あいつをやっつけておくれよ!」
マックスが【あいつ】と聞いて思わずオースティンの方を向くと、山賊じみたひげもじゃの顔と目が合ってしまう
「おお?俺様と撃ち合おうってのか?」
そう言うやいなやオースティンは銃を撃つ
パンパン!
引き金を引いたまま撃鉄を2回叩く連射技【ファニング】だ
たまらずマックスも柱の陰へ隠れると先に隠れていたシルダン達がはみ出てしまう。シルダンはとっさにマックスを押し返す
「おお、撃ってくるぞ、ほら撃ち返せ」
「ふざけんな!もう谷は関係ない、俺に押し付けるんじゃねーよ」
この期に及んで逃げ腰のマックスにクレバースが再び怒鳴る
「やっぱりあんたは最低のクズだよ」
「なんだって?」
「だから最低のクズだって言ってるんだよ!」
「なんとでも言え!俺はやらない!」
マックスが意固地に反論したそのときだった、酒場の扉が開き一人のガンマンが入ってきた
「待ちな、レディに対して失礼じゃねーか?」
赤いシャツにポンチョを羽織り、腰にはガンベルト、マックスは見覚えの無いガンマンに問う
「誰だ?」
ガンマンはその問いには答えず話続けた
「せっかく女の子がののしって下さっているのに、その態度はないだろ」
「は?」
「さては恥ずかしいのか?」
すると扉からもう一人、ハットをかぶった東洋人が入ってくる
「ちょっと兄貴、危ないって」
脱走者を連れ戻しに来たオースティンは情報量の多さに一瞬混乱するも、横から入ってきたガンマンにターゲットを絞る
「なんだてめぇ?けんか売ってんのか?」
ガンマンがオースティンと正対し決闘の構図になる。ただしオースティンの銃口はガンマンに向けられているが、ガンマンはオースティンの目を見ると高らかとしゃべり始めた
「ふと、女の子が誰かをののしる声が聞こえた」
「は?」
「そのののしりは泣いていた。」
状況がわからないシルダンは逃げるよううながす
「君!早く隠れて!撃たれるぞ!」
ガンマンはそれでも話続ける
「なぜ受けて止めてやらない」
「わけのわかんねーことを!」
「彼女の大事なののしりがこぼれちまったじゃねーか、もったいない」
そこでマックス・マグワイアはある事に気がついた
「……俺に言ってるのか?」
そのガンマンはマックスに背を向けたまま語りかけてくる
「そうだ!、お前はそれでもガマンか?」
「ん?ガマン?」
後から現れた東洋人が慌てて口を挟む
「兄貴、ガマンじゃない、この人はガンマンだよ」
「え?、うそ?さっきガマンって話し声が聞こえてきましたけど」
「それは、そうなんだけど、えーっと、前々から言おうと思ってたんだけど兄貴、ガマンってのは職業じゃないからね?」
「え?じゃあ俺は?」
意味不明な状況を黙らせようとオースティンが発砲してきた
パン!
慌てて隠れるガンマン
「ひぃい、怖いよ、怖いよ!」
そのかっこ悪い姿に撃ったオースティンも拍子抜けするほどだ
「あ?、なんだおまえ?」
マックスもだんだんこの男が大したことないと感じ始めていた
「もしかして弱い?」
その予感はマックスだけで無く、シルダンやクレバースも同じだった
「口ばっかり達者で、大したことないな」
「気持ち悪いことばかり言って、あれじゃただの変態だね」
ところがクレバースも言った最後の一言に、その男は反応した
……ただの変態だね。……ただの変態だね。……ただの変態だね。
男は胸の中でその言葉を反芻し、やがて堂々とオースティンの前に姿をあらわにした
「そうさ、俺は、ただの変態さ」
「死ねーーーー!」
オースティンの銃はついに脅しでは無くなった、顔面を狙って引き金を引こうとしたその瞬間
「はい!」
謎のガンマンはそう叫ぶと、なぜかオースティンに背を向け、右の腰に下げていたリボルバー、【コルト・ピースメーカー】を抜くと左の脇から背面でオースティンに向かって発砲、
オースティンの手元の銃はカキンと鈍い金属音を立ててはじけ飛んだ。
「な、なに!」
そしてその男はオースティンの太もも当たりに銃口を向けへ警告した
「股間の銃もなくしたいか?」
驚いたのはオースティンだけでは無い、シルダンも目の前で起こった事が信じられなかった
「まさか!背面撃ちで手元の銃だけを正確に撃ったのか?」
「そんな事、人間業じゃない」
マックスもシルダン同様に目を丸くしていた。
銃を無くしたオースティンは奥歯をかみしめながら男にたずねる
「お前、名前は?」
男はオースティンの股間に銃を向けたまま名を名乗る
「ジル・リキッド、人は俺を我慢のジルと呼ぶ」
「我慢のジル、忘れねーぞ」
そう言い残してオースティンは店を出て行った。
ジルと名乗った男は指先で器用に銃を回しながらガンベルトのホルスターに見事に収納して見せた。それを見るやいなやシルダンがはジルに駆け寄る
「あんた、俺たちの谷を救ってくれないか!」
「谷を救う?」
「カネはこの通り、頼むもうほかに頼る当てはないんだ。谷のみんなももう限界で、このままじゃ俺たちは」
「俺は男の依頼は受けねー」
「そんな」
それを聞いてクレバースが思わず口を挟む
「サイテーの男だね」
一瞬ジルの表情が変わる、
シルダンは失礼なことを言ってしまったクレバースを慌てて制する
「おい、クレバースやめろ!」
「だって!」
ジルはじっとクレバースを見つめている、その熱い視線は見ようによっては怒っているように見えなくも無い
「おい待て、もういっぺん言ってみろ」
シルダンは慌てて謝罪する
「すみません、田舎者なもんで、おい謝れ」
「違う!もういっぺん言ってみろって言ってんだ」
シルダンは何も言えなくなった。これはもうダメだ、さっき見た奇跡のような技、せっかく凄腕のガンマンを見つけたと思ったのに、彼を怒らせてしまった。そう思うとがっくりと肩を落としため息をつく。それはクレバースも同様だった、自分の発した言葉のせいとは言えジルと名乗る男の言動はおかしすぎる。そしてクレバースは半ばやけくそになり、ジルに暴言を吐いた
「クソ!サイテーのクソやろうだよ、男の依頼は受けないなんてただの女たらしじゃねーか」
ジルはゆっくりと胸に手をあて、目を閉じた
「いい。」
「はぁ?」
「いいよ。」
「ど、どういう意味だい?」
「君のののしりは、しっかりと俺の胸に届いた」
「……おまえ、気持ち悪いな」
「おまえ、気持ち悪いな……、おまえ、気持ち悪いな。いい響きだ、よしこの依頼受けよう」
クレバースは困惑した、どういうこと?何を言っているんだ?あまりのおぞましさに鳥肌が立ってくる。
「アタシ、こんな変態みたいなやつに頼みたくないんだけど」
ジルはその瞬間床に膝をついた
「はっはっはっは、受けさせてください。」
シルダンもさっきまでの勢いとは違い迷いはじめていた、確かにこの男はおかしい、しかしさっき見た奇跡のような技は疑いようも無い、迷ったシルダンは一緒にいた東洋人に問いかける
「腕は、間違いない、……と思うけど、……そうですよね?」
「ええ、そこだけは保証します。」
「わかった、あそれじゃあんたに頼むよ。」
そう言ってお金の入った袋をジルに差し出すが、ジルは立ち上がりそれを拒否した
「やだね」
一緒にいた東洋人は慌てて説明を入れる
「ああ、ごめんなさいね。えーっと、あなた」
「アタシ?」
クレバースが指で自分の鼻を指す
「そうあなた、こう言ってみてもらえます。「そんなにこの依頼が受けたいのかい?」って」
「は?」
「ほら、早く「そんなにこの依頼が受けたいのかい?」」
「そ……そんなに、この依頼が、受けたいのかい?」
ジルは再び膝をついて、手もついた
「はっはっはっ、お願いします。」
そこでシルダンが宣言した
「契約成立だ」
シルダンとクレバースは凄腕の用心棒が見つかった事に喜んだ、これで谷の平和を取り戻すことができるかもしれない。ところがマックスは一人浮かない顔をしていた
「タートルヘッドは大物だ、一人じゃ無理に決まってる」
せっかくのムードに水を差すマックスの名をシルダンが制するように叫ぶ
「マックス!」
怒られたところで事実は事実だ、一人じゃどうにもならない、マックスはふてくされたが、その横顔をじっと見つめるジル
「何人いればいい?」
「最低でも、7人は」
「なら集めよう、攻めてる7人を」
聞き慣れない言葉にクレバースとシルダンが問う
「攻めてる7人?」
「攻めるための7人って事じゃないか?」
しかし一緒にいた東洋人がその真意を説明する
「7人の変態って意味ですよ」
「うげー、じゃあこれからアタシの谷に変態がたくさん集まってくるってのかい?」
ところがそんなやりとりはお構いなく、ジルはマックスを見つめゆっくりと近づいてゆく
「お前、持ってるだろ?」
「何をだ?」
「人に言えない自分だけの特技を」
不意の質問にマックスの口元が笑う
「ふっ……、何の事だか」
「俺の目はごまかせねぇ」
マックスもジルの目をじっと見返した。その瞳を見てジルは確信する
「名前は?」
「マックス・マグワイア」
「お前が一人目の変態だ」
ジルとマックスは固い握手をかわした
西部劇の3大ロケーションと言えば、酒場、教会、牧場の三つです、前作は酒場が多かったので、今回は教会をメーンで入れて行こうと考えております。
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