8-1 影町じゃあ日常茶飯事さ
毎日の生活の中でふと思い出すときがある。
当たり前の日常に感謝するのって、意外と難しいものだ。
奴隷のような召使い時代に比べるとなんて幸せな毎日なんだろう。
今日もわたしの首にはナイフが突きつけられているのに、なんて幸せな日常なんだろう。
男1「いいか!大人しくしてないとブッ刺すからな!」
男2「こんなガキでもそれなりの値段で売れそうじゃねぇか」
今日はわたしが釣り餌の担当だ、いつものように思慮の浅い人さらいが罠の中に自ら寄って来る。
全く刺す気概のないナイフも、ただのセンスの悪いアクセサリーにしか見えない。
こんな状況でも幸せを感じるわたしはどこかおかしいのだろうか?
男1「こいつ全然暴れねぇし、楽な仕事だったな!」
男2「今日は久々に肉でも食うか~!」
アザミ「お肉いいですね、キャベツが残ってるので今日はお肉だけ買って夜はホイコーローに・・・」
男1「おい!何ぶつぶつ言ってんだ!」
男2「怖くて震えてんじゃねぇのか?」
ああ、それにしても今日は天気が良くてあったかい、
こんな日はみんなと光町に買い物にでも行きたいなぁ・・・
折角だから一日中麻雀するのもいいなぁ・・・
いやいやそれは天気関係ないし、どうせなら雨の日のほうが・・・
どうでもいいことを考えているとなんだか急に眠気が襲って来た、
ルクリアさんとユッカが来るまで寝ててもいいかな・・・なんちゃって・・・
男1「おい・・・コイツ寝ちまったぞ・・・」
男2「怖くて気絶したんじゃねぇのか?」
男1「いや、よだれたらして気持ちよさそうに寝てんぞ・・・」
男2「何考えてんだコイツ」
男1「ま、まぁいいや、さっさとこいつを売りに・・・」
???「やめなさい!」
ビクッとなって目が覚めた。
一瞬自宅で寝てたような錯覚になったが、すぐに仕事中であることを思い出した。
アザミ「ぁ、ルクリアさ、ん?」
ウトウトとしていたため足音も声質も違うことに気づかなかった。
寝ぼけ眼をがんばって見開くと、そこには一瞬男性かと間違ってしまいそうな、見知らぬボーイッシュな女性が立っていた。
ボーイッシュな女性「あなたたち何やってるの!早くその子を放しなさい!」
男1「やべっ!見つかった!」
男2「逃げるか、いやでも折角の獲物が・・・」
ボーイッシュな女性「大人しくしなさい!!!」
彼女は猛ダッシュで近づいてくると人さらいの男二人の腕を取り、簡単に地面に押さえつけてしまった。
半分寝ぼけていたため、まだ夢の中の出来事かと深く考えないで眺めていた。
とらえた男達と何やら会話をしており、話がつくと男達は逃げるようにどこかへ行ってしまった。
そのすぐ後に彼女はわたし目掛けて血相を変えて近づいてくる。
ボーイッシュな女性「君っ!大丈夫だった!ケガはない?」
アザミ「は、はい、大丈夫です・・・」
わたしに向けられる大きな声と真剣な眼差しで目が覚めた、夢ではなかった。
ボーイッシュな女性「無事で良かった~!危ないわよ!こんなところにいたら!」
アザミ「いえ、わたしは・・・」
ボーイッシュな女性「私が連れて行くから、一緒に帰りま・・・」
ルクリア「おいおい、ちゃんと足止めしとけっつったろ~逃げちまったじゃねえか」
ユッカ「アザミちゃ~ん!お待たせ~ってどちら様?」
少し離れた物陰から、隠れていたルクリアさんとユッカが迎えに来てくれた。
ちょっと予想外の状況ではあっただろうが、わたしもよく理解できていない。
ルクリア「あ?」
ボーイッシュな女性「あなた、この子のお母さん?」
ルクリア「ぶっ!違うわっ!なんだテメェ!」
ボーイッシュな女性「あ、失礼!私はササユリっていいます!」
ユッカ「あたし、ユッカだよ!」
アザミ「アザミです、助けてくれてありがとうございます、ササユリさん、」
ユッカ「助けてもらったの?」
アザミ「はい、人さらいの人達を追い払ってくれました」
ルクリア「余計な事しやがって」
ササユリ「こんなところにいたら危ないですよ!この子が人さらいにさらわれるところだったんですよ!」
ルクリア「あ~、はいはい、」
ユッカ「ササユリさんこそ、こんなところで何してるの?この辺結構危ないよ?」
ササユリ「私はねボランティアでこの辺の治安を守ってるの!」
ユッカ「ボランティア?」
ササユリ「そう!この辺人さらいとか悪い人たちが多いって聞いたから、私がパトロールしてるの!」
ユッカ「ジャージにスポーツバックで学校の部活帰りみたいだね」
ササユリ「うん!この方が動きやすいし、私、学生時代武術の大会で優勝したの!だからこの力をみんなのために使いたいと思って!」
アザミ「お仕事ですか?」
ササユリ「ううん、みんなの平和のためにやってるの!」
ユッカ「へぇ~、保安隊でもないのにすごいね!」
ササユリ「来年二十歳になったら保安隊に入る予定なの!だからそれまでにも町のためにいろいろしたいなと思ってね!」
アザミ「どうしたんですか、ルクリアさん?」
ルクリア「いや・・・こういうザ・正義の味方みたいなやつ見ると気分が悪くなる・・・ぜってー話合わねえだろうなと思ってよ」
キラキラと希望に満ちた彼女の笑顔は、ルクリアさんには眩しすぎたのか、額に手を当てて下を向いてしまった。
本当に具合の悪い人の様相だ。
ユッカ「他にもいっぱい助けたりしたの?」
ササユリ「うん!さらわれそうな人たちとか、脅されてるような人たちを何人か助けたわ!」
ユッカ「助けた人達は?」
ササユリ「もちろんちゃんと町まで送って行ってあげたわよ!」
ユッカ「倒した悪い人たちは?」
ササユリ「みんなちゃんと反省してるみたいだから、もう悪い事はしないように言い聞かせて返してるわ!」
ユッカ「あれ、ルクリアさんは?」
アザミ「あっちで吐いてる」
ササユリ「・・・ん?今ルクリアさんって・・・ちょっと待って!!!」
彼女はバッグをゴソゴソとかき回すと、中から紙の束を取り出し熱心にめくり始めた。
ササユリ「やっぱり!あなた!人さらいの賞金首のルクリアね!」
ユッカ「そうだよ~、さすがルクリアさん!有名人だね!」
ササユリ「ちょ!ちょっと!危ないわよ君たち!」
ユッカ「何が?」
わたしとユッカをかばうように陣取り、右手を伸ばすとわたしたちを後ろに守ってくれた。
アザミ「あの、大丈夫です」
ササユリ「あなたたちは知らないでしょうけど、あの人はとっても悪い人さらいなのよ!」
当然知っている。
でも悪い人さらいっていうのは知らない。
ササユリ「ルクリア!あなたを捕まえます!」
ユッカ「ササユリさん?」
ササユリ「大丈夫!私が守ってあげるから!覚悟しなさい!ルクリア!」
アザミ「いえ、そうじゃなくて・・・」
説明したいことは山ほどあるのだが、言ったところで聞き入れてもらえだろうか、
よく言えば実直なのだが、固定観念の塊のようなこの人にわたしたちのことを理解してもらえるとは到底思えなかった。
離れてうずくまっているルクリアさんにユッカが大きな声で問いかける。
ユッカ「ルクリアさ~ん!戦えそう~?」
ルクリア「・・・無理だ・・・気持ちわりぃ・・・おまえらで何とかしてくれ・・・うぷっ!」
ユッカ「ありゃりゃ」
また吐いてしまった、今日の夜ごはんはいつもより多めに作ろう。
ユッカ「どうする?アザミちゃん」
アザミ「・・・わたしがやる」




