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わたしの仕事は人さらい  作者: おどるニコル
1.一番嫌いな仕事
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1-6 嫌われる決意


アザミ「あの人さらいの人たちはどうなっちゃうんですか?やっぱり強制労働とか人体実験とかですか?」

ルクリア「影町にはああいったギルドがいくつかあるんだが、デカい大手のギルドだとどんな人間だろうが盗品だろうがなんでも買い取るし高い値をつければどこにでも売っちまう、」

アザミ「こ、怖いですね、」


ルクリア「さっき行ったとこはあのおっさんが個人でやっててな、おっさんのつてでそれなりのところに送られてるらしい」

アザミ「悪い人たちを、どう使うんでしょうか、」

ルクリア「詳しくは知らんが、ただ売るだけじゃなく、人の特性をちゃんと見て仕事を与えてるらしい。もちろん見張り付きのきつい仕事なんだろうがな、やつらのやってきたことに対してはこの上ない温情措置だよな、」


初めて聞く人身売買の現状を目の当たりにし、言葉に詰まってしまう、


ルクリア「アザミ、おまえがあの4人を雇うとしたら誰に一番金を出す?悪い事してるってことの除いてな、」

アザミ「え?う~ん・・・ヤブランですか?一番若いし働き手になりそう、」

ルクリア「違う」

アザミ「え?」


ルクリア「1番高いのはリーダーの男だ」

アザミ「そうなんですか?あの中では年配で体も細そうでしたけど・・・」

ルクリア「やってることは最悪な連中だったが、リーダーの男は計画を立てて行動をすることができる、そして部下を束ねてそれぞれに指示をすることができる、」

アザミ「なるほど、」


ルクリア「次は背の高い男と髭のやつ、やつらは力仕事系だろうな、リーダーの指示にちゃんと従って行動できるし、ガタイがいいのも特性のひとつだからな、」

アザミ「じゃあヤブランは、」

ルクリア「ヤブランは一番安いだろうな、責任感も経験もなく、目先の金だけみて先の事を何も考えてない」

アザミ「厳しいんですね、」

ルクリア「仕事をするってのは厳しいんだ、」

アザミ「・・・」


ルクリア「それでおまえ、これからどうするつもりだ?」

アザミ「お金も住むところもないし、何か仕事でも探します、・・・さっきのところで求人の広告いっぱいもらってきたので、私にもできる仕事でもあれば・・・」

ルクリア「どれ、見せてみ」

ルクリアさんは広告をざっと見るや否やすべてを突き返してきた、


ルクリア「やめておけ、こんなチラシにある仕事はろくなもんじゃねぇ」

アザミ「そうなんですか?」

ルクリア「影町の仕事を甘く見るな、」

アザミ「リンドウさんのお店なら、信頼できるんじゃ・・・」

ルクリア「あそこもギルド協会には加盟してるから、そういう広告や仕事依頼の情報は定期的に入ってくるが、形だけだ、」


アザミ「高い報酬もいっぱいあるみたいですけど、」

ルクリア「例えばこの荷物の運搬で5万、これは犯罪関係の運び屋だろうな、」

アザミ「え?・・・」

ルクリア「若い女性優遇で時給1万~、これはいかがわしい仕事だな、売られてた時と変わんねーだろう、」

わたしは下を向いて赤くなってしまった、


ルクリア「鉱山の採掘、採掘した宝石の半分は自分のものに、これは命の危険と隣り合わせの仕事だな、そいつがどうなったって簡単に隠滅できるからな、」

アザミ「・・・」

ルクリア「しいてやるならこれだな、朝から晩まで一日清掃、雑用他で雀の涙程度の日給、影町で募集してる仕事なんてこんなもんばっかだ、」

アザミ「やっぱり私、世間のこと全然わかってない・・・」


タンッ!と音を立て、下を向くわたしの前に飲んでいた水のコップを叩き置かれた、

ビクッ!となりすぐ様、顔を上げた、


ルクリア「いいか!今までのお前のひどい境遇は決しておまえのせいじゃない、周りの連中のせいだ!だが、自分で仕事を選んだらそこでどんな目にあっても半分は自分の責任だからな、覚えておけ!」

アザミ「は、はい、そうですよね・・・」

ルクリア「知らなかった、誰も教えてくれなかったで許されるほど社会は甘くないからな、絶対楽して簡単に稼ごうと思うなよ!」

アザミ「わ、わかりました・・・」

ルクリア「ちゃんと自分で自分を自制しろよ、」


息をつく暇もない程まくしたてられる剣幕に、度肝を抜かれてしまった。

でも彼女の言っていることは正しかった、

自分の考えの甘さをズバリと指摘され、何一つ抗う言葉もでなかった。


アザミ「でも、わたし、ちゃんと仕事をして、生活できるようになりたいです、」

ルクリア「まぁ、出来ればそれが一番だけどな、」


アザミ「もし私が売られてたらいくらになってました?」

ルクリア「なんだ急に、そうだな・・・安くても300万はするだろうな、何かスキルや技術的な経験があればもっと上がっていくけどな、」

アザミ「ルクリアさんのお手伝いしてもいいですか?」

ルクリア「!?、正気か、おまえ?」


アザミ「もしあの時ルクリアさんが私を売っていたら稼げた分の300万、一緒に働かせて下さい、」

ルクリア「いいんだよ、そんなの気にしなくて!」

アザミ「ルクリアさんの下で働かせて下さい!」


わたしは真っ直ぐルクリアさんの顔を見つめ続けた、

初めて・・・初めて自分の瞳に光が入った感じがした。


ルクリア「・・・さっき体験しただろ、一歩間違えればとっつかまって人生終わりだぞ、せっかく自由になったんだから、もう少しまともな・・・」

説得しているつもりだったが、なんだか自分に言ってるような気がしてきて言葉が止まってしまった、

自分でやってる分にはそこまで何とも思っていなかったが、こんな子が自分と同じ境遇に引き込んでしまっていいものなのだろうか、

だがルクリアにはこんなことをしている自分を優しいと言って慕ってくれる子がいることが、心のどこかで嬉しかった。


ルクリア「・・・人に嫌われて、自分の生き方を否定される生活だぞ」

アザミ「大丈夫です、今まで悪い事もしてないはずなのに、毎日毎日ずっと否定され続けてきたんです。だったら、嫌われる仕事して嫌われた方が納得できます。わたしはその方がいいです。」


ルクリア「・・・じゃ、おまえに合った仕事が見つかるまでだ!、体力的にも精神的にもきつかったらいつでもやめていいからな、」

アザミ「はい、よろしくお願いします、」


自分は売られてきたのか、さらわれて来たのかはわからないが、おそらく人の手によって売られ、召使いになったということは想像していた、

そんなわたしにとって人さらいをする人間など最も軽蔑していた人種だったはずなのに、今その道に自ら行こうとしている、


それでもやるしかなかった。

こんなところに一人で放り出されてもまともに生きていけるはずがない。かといって光町に戻ったところで生活していくすべもない、


生存本能なのかはわからないが、この人についていくことが最善の道だと直感した。

ルクリアさんの言うようにここからの決断は自己責任だ、もし間違っていたとしても誰のせいにもしない、そう決めた。

初めての自分での決断だった。


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