1-4 はじめてのじんしんばいばい
ルクリア「ここは一見仕事を探したり依頼したりする職安を兼ねたギルドだが、裏で人の売り買いも行われている、」
アザミ「こ、この人たちを売るんですか?」
ルクリア「ああ、こんなゴミどもでも労働力や兵力にはなるからな、それなりに値はつくんだ、」
アザミ「わ、わたしも売るんですか?」
ルクリアさんはわたしの顔を見つめてニヤッと笑った、
ルクリア「入れ」
逃げた方がいいのかとも思ったが、この人から逃げられるとは到底思わなかったし、不思議と怖いとも思わなかった。
・・・
店に入ると正面のテーブルに子供が一人座って絵本を見ていた。
6、7歳くらいの男の子?女の子だろうか、髪はボサボサであまりきれいではない服を着ており、見た目で判断してはいけないが、おそらくこの影町の住人だろうなと判断してしまった。
子供「こんにちは~」
ルクリア「おうフキ!おみやげだ!」
フキ「ありがと~」
ルクリアさんは小さいお菓子をあげて、その子の頭をくしゃくしゃと撫でていた。
お互いに気を許している感じが微笑ましかった。
ルクリア「リンドウさんいるか?」
フキ「いる~、よんでくる~」
少し舌足らずな話し方のその子は奥の方へ走って行ってしまった。
声からして女の子のようだった。
他に人は誰もいないが、壁やテーブルには仕事依頼の広告がたくさんあり、ルクリアさんの言う通り仕事を探す場所ではあるようだった。
間もなくして、わたしにとっては見上げるくらいの大きな男性が現れた。
50代くらいだろうか、多めの白髪交じりの短髪に目の周りの傷、人さらいの奴らの怖さとは比較にならないほど威圧的な瞳をしていた。
ルクリア「おう、こいつら頼むわ」
そう言って人さらいの4人を投げ出すと男性は黙って受け取り、2人でいろいろ話を始めた。
細かいことはわからなかったが、捕まえてきた経緯を話しているようだった、
わたしは店内を眺めながら二人の話が終わるのを待った。
アザミ「こんにちは、わたしアザミ、よろしくね」
フキ「アザミ~」
この影町でわたしより小さい女の子に会えるとは思っていなかった、
背丈の割には会話もおぼつかなく、小さいころのままどこか成長が止まっているようにも感じた、
ここにいるくらいなのだから、いろんな問題を抱えているのだろう、
だが、純粋さだけはどんな人よりも優れて見えた。
こんなわたしに躊躇なく寄ってきてくれるそんな子の存在は、嬉しかった。
この子もどこからか売られてきたのだろうか、そして今からどこかへ売られて行ってしまうのだろうか・・・
アザミ「な、何してるんですか・・・?」
リンドウ「ん?あぁ、契約書にサイン貰ってるだけだ、」
ルクリア「ペッ!ペッ!、ふぅ、」
リンドウ「確かに、」
顔面に塗りたくったインクを紙に写すと、汚れを拭きながら瞳をゆっくりと開いた。
ルクリア「何とかなんねぇのかよ、この方式、」
リンドウ「誰がいつ、どいつを売ったかはちゃんと記録しておかないとダメだからな」
ルクリア「サインの方法だよ!」
アザミ「サイン?」
ルクリア「このおっさん、人の唇をサイン代わりにして判断してんだよ」
アザミ「手書きのサインじゃダメなんですか?」
ルクリア「あんなもんいくらでも偽装できるからな、だが唇は人それぞれ微妙に違うから証拠になるんだ、」
リンドウ「売った方の責任問題にもなるからな・・・前から言ってるが口だけでもいいんだぞ、」
ルクリア「口だけの方がこっぱずかし~だろ!キスマークみたいでよ!顔面つけた方がまだマシだ!」
そういうものなのだろうか・・・インクだけのせいではなく、ルクリアさんの顔が赤くなっているような気がする、
ルクリア「まぁ仕事請け負って逃げ出す奴や危ないやつ売りに来る連中も少なくないからな、」
リンドウ「ここに出入りしてるオッサンのサインも山ほどあるぞ、見てみるか?」
ルクリア「んなもん見せんでいい!」
・・・
ルクリア「待たせたなアザミ、メシでも行くか!」
アザミ「は、はい・・・でもわたし、お金も何も持ってないです、」
ルクリア「なに言ってんだ!手伝ってもらった礼だ!いっぱい食わしてやる!」
そう言うとルクリアさんに手を引かれ、また影町の中を連れまわされた。
アザミ「あ、あの女の子は、リンドウさんの子供なんですか?」
ルクリア「いや、昔売られてきたが買い手がつかなくておっさんが面倒みてるんだってよ、似合わね~よな!」
アザミ「優しい人なんですね、」
ルクリア「ははは!どうだかな!ただの変態のおっさんかもしれねぇぞ、」
アザミ「今から売られるんじゃなくて、安心しました、」
ルクリア「また他人の心配か?お人好しだな!そんなんじゃこっちで生きていけねぇぞ」