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わたしの仕事は人さらい  作者: おどるニコル
5.みんなでする仕事
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5-5 ウェルウィッチアの花


挿絵(By みてみん)


アザミ「お疲れ様です、」

寝泊まりさせてもらっている設備室に戻ると、夜も遅いというのにウェルさんはいろいろ機械をいじっていた。

調理場の人達を見ていてもそうだが、汗水たらして働いてる人はとても美しく見える。


彼女の機械油や汚水にまみれたその手は、飾るだけのアクセサリーなどより何倍も輝いて見えた。

わたしも日々一生懸命働いてはいるつもりだが、そう見てもらえるにはまだまだかかりそうだ、


ウェルウィッチア「あ、お疲れ様!アザミちゃんも今日はもうあがり?」

アザミ「はい、ウェルさんはまだ仕事中ですか?」

ウェルウィッチア「時間ごとの点検だけだから、もう終わるよ、」

時計の針も間もなく重なろうとしたころ、ようやく二人でゆっくり座ることができた、


ウェルウィッチア「なんか良い匂いするね」

アザミ「これ、料理長さんにいろいろ教えてもらいながら作ったんです、良かったら一緒に食べませんか?」

ウェルウィッチア「いいの!?ありがとう!丁度お腹空いてたの!」

アザミ「良かったです、」


夜遅く、設備室の狭い休憩所で二人で顔を突き合わせてする食事は、ちょっとした背徳感が心を躍らせる、

やっぱりわたしにとって優しい人と一緒に食べる食事は嬉しいものだ。


ウェルウィッチア「すごく美味しいっ!」

アザミ「ありがとうございます、」

ウェルウィッチア「普段の仕事も大変なのにわざわざありがとう!」

アザミ「すいません、初めての職場で、終わると疲れちゃってここに戻るなりいつもすぐ寝ちゃって、」

ウェルウィッチア「いいよいいよ、慣れないところは疲れるもんね!」


アザミ「せっかく一緒に泊まらせてもらってるのに、ろくに話もできなくて、」

ウェルウィッチア「私もしょっちゅう呼び出されてあちこち修理とか行っててあんまりここにいないからね、」

アザミ「ウェルさんの仕事も大変ですね、寝てても急に電話で呼び出されてるみたいですし、設備の部屋は蒸し暑いし、電気や水回りの修理とか、難しそうな機械の扱いとか、」

ウェルウィッチア「大変な仕事の中でもね、楽しかったり嬉しかったりすることはいっぱいあったりするのよ、」


アザミ「でも、朝も夜も、周りの人が休んでる時も働いてるみたいで、」

ウェルウィッチア「当たり前だけど、誰かが休んだり遊んだりしてるってことはその裏で誰かが働いてるってことだからね!」

アザミ「そっか、・・・そうですよね、」


ウェルウィッチア「アザミちゃんはいろんな仕事に興味があるのね!」

アザミ「ウェルさんは今までいろんな仕事してきたんですよね、」

ウェルウィッチア「そうね、・・・大きい声で言えないような仕事もいっぱいあるけどね、」

狭い部屋にはわたしたちしかいないのに、笑顔をわたしの耳元に寄せてくれて、二人だけの会話にしてくれた。


アザミ「聞いても大丈夫なんですか?」

ウェルウィッチア「アザミちゃんにならいいよ!・・・そうね~、言える範囲だと、高い山の頂上付近にしか生息してない鳥やきのこ採ってきたりとか、病院の職員になって期限切れの薬根こそぎ貰ってきたりとか、偉い人の接待で使われる料亭で残したごちそうを使いまわししたりとか・・・」


アザミ「す、すごいですね、いろいろと・・・貴重な鳥捕まえてきて、ペットにでもするんですか?」

ウェルウィッチア「その時は、ある田舎の村に発電所の建設予定が立ってね、村の人達は昔からの自然を守りたいから反対なんだって、」

アザミ「はぁ、」


ウェルウィッチア「でもね、大きな会社のプロジェクトで計画はどんどん進んでたらしいの、」

アザミ「はい、」

ウェルウィッチア「でもね、いろんな決まりがあって予定地の周辺に希少な鳥の生息が確認されるとその計画が一から見直されるんだって、」

アザミ「ああ、それで、」


ウェルウィッチア「それで私がこっそり捕まえてきて、調査の時に村の人達が鳥を放すんだって、その後計画がどうなったかまではわからないけどね、」

アザミ「そのための鳥だったんですね、」

ウェルウィッチア「発電所が悪いわけじゃないのよ、発電所が出来れば近くに工場なんかもいっぱいできて、村の発展に大きくつながるからね」

アザミ「じゃあその村はなんで反対を?」

ウェルウィッチア「その村は自然を守って、それを観光資源にしてそっちの方向で村を発展させたいんだって」


アザミ「どっちを取るか、難しい決断だったでしょうね」

ウェルウィッチア「そう、実際発電所に賛成の声もたくさんあったみたいだし」

アザミ「みんなが満足する答えなんてないんですね」

ウェルウィッチア「複雑だよね、誰も間違ってないのにね」


この人はどんな仕事でもただ受けるのではなく、その奥底にはちゃんとした自分の軸を持っているんだ、

それらは正式なルールからはどこか逸脱しているのかもしれない、でも自分の欲を満たすためだけに動いている感じはまるでしなかった。

ルクリアさんが信用している人だというのがわかってきた。


アザミ「ウェルさんは、いろんな仕事経験してきて、どの仕事もちゃんとこなしてて偉いです、」

ウェルウィッチア「そうでもないわよ、合わない仕事だってたくさんあったわよ、」

アザミ「合わない仕事もあったんですか?」

ウェルウィッチア「い~っぱいあったよ、例えば少し前に伝統工芸品の技術を盗んできて欲しいっていう依頼があったからね、弟子入りしてみたの、」

アザミ「また特殊な仕事ですね、」


ウェルウィッチア「細かい作業が多くてね、それは別に嫌じゃなかったんだけど、どうしても教えてもらわないとわからない事が多くてさ、でも何聞いてもほとんど教えてくれなくて自分で考えろ、技術は盗めみたいなスタンスの先生だったんだよね」

アザミ「職人さんって感じですね、」


ウェルウィッチア「そうなのよ、ちょっと教えてくれれば1分で済むのにね、何も教えないくせに言われて通りやれバカとか言われるから、効率悪すぎてムカついてトイレ行くふりして帰っちゃった!」

アザミ「怒られなかったんですか?」

ウェルウィッチア「さあ、それから戻ってないし、まだトイレに行ってると思ってるんじゃない?」

笑いながらすごい事言うなぁと思った。


ウェルウィッチア「人によって向き不向きはあるから、さっき言った職人みたいな仕事だって私には合わなかったけど、そういう黙々と作業するのが得意な人はいっぱいいるからね、」

アザミ「でも簡単に人にバカって言っちゃダメですよね、」

ウェルウィッチア「そう!一生懸命やってる人をバカ呼ばわりするのが伝統なら廃れた方がいいのよ、」

アザミ「わたしもそう思います、そんな伝統工芸品欲しくないです、」


ウェルウィッチア「私の考えだけどね、仕事は中身ももちろん大事けど、同じくらい周りの人っていうのが大事なの」

アザミ「周りの人、ですか・・・」

ウェルウィッチア「辛い事思い出させちゃって申し訳ないけど、アザミちゃんだって召使いの時に料理や掃除してたけど、今だってルーちゃんやユッカちゃんのためにしてあげてるでしょ?それは大変?」

わたしはここぞとばかりに大きく首を振った。


アザミ「ううん、今は全然大変じゃないです!むしろ二人のためにするの楽しいです!」

ウェルウィッチア「でしょ?」

アザミ「でも、わたしのやってることなんて仕事というかただ生活の・・・」

ウェルウィッチア「何言ってるの!自分家の掃除や料理って立派な仕事なのよ!」

アザミ「・・・そうですか?」


ウェルウィッチア「アザミちゃんが長年苦労して、毎日耐えて頑張ってきたその技術は、今ルーちゃんとユッカちゃんを笑顔にするためにあったんだと思うよ!」

アザミ「・・・そ、そんなこと言ってもらえて、嬉しいです、」


急に目に涙が浮かんできた。

そんな風に考えたこともなかった。

今まで辛いことをしてきた人たちの事は無理矢理にでも忘れようとしていた。


でも嫌な記憶というものほど執拗に忘れることは出来ない。

それは人間の構造上仕方がないがないんだ、

だから、それ以上に今優しくしてくれる人たちの事を考えよう、

優しくしてくれる人たちの事を考えよう!

優しくしてくれる人たちの事を考えよう!!


アザミ「ルクリアさんたちのこと話してたら、なんか家のことが心配になってきました・・・」

ウェルウィッチア「明日は一日休みなんでしょ、一旦帰ったら?」

アザミ「はい、そうさせてもらいます、」


ウェルウィッチア「ルーちゃんとユッカちゃんのパーティー用のドレス借りていくからって言っておいてね、」

アザミ「はい、ユッカはパーティー楽しみにしてたので、よかったらかわいいドレスをお願いします、」

ウェルウィッチア「オッケーよ!ルーちゃんのもかわいいの準備するからね!」

アザミ「いいですね、」

ウェルウィッチア「そろそろ寝よっか、」

アザミ「はい、」


後ろを向いているウェルさんが作業服の上着を脱ぐと、キャミソールの下には大きな火傷の跡があった。

仕事で負った火傷だろうか、それとも事故だろうか気になったが、あまり深追いして聞こうとはしなかった。

ルクリアさんにドレスを着る役を任せた理由がわかった気がした。


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