1-3 報い
女性「そういやおまえ、名前はなんてーんだ?」
少女「ア、アザミです・・・、」
女性「そうか!いい名前だな、アザミ!」
アザミ「お、お姉さんは?」
女性「ルクリアだ、」
アザミ「ル、ルクリアさん、助けてくれてありがとうございます、」
ルクリア「気にすんな!私の仕事だ!」
アザミ「仕事?」
ルクリア「テメェの名前は?」
若い男「ヤブランっす」
アザミ「ルクリアさんの仕事は保安隊か何かなんですか?」
ヤブラン「こいつらを捕まえに来たんすか?」
ルクリア「いや、そんないいもんじゃねーな」
・・・
ルクリア「アザミ、おまえ捕まる前どこにいたんだ?光町か?」
アザミ「はい、光町の方にいましたけど、ずっと召使いやってました。」
この地域は光町と影町に分けられている。正式な名前ではないが、街の雰囲気と住んでる人間の層から人々の間でいつしかそう呼ばれるようになった。
光町は南側の暖かい方に位置し地域の大部分を占める。街はまだまだ発展途上の真っ最中だが活気があり、人々は仕事をし、学校に通い、比較的豊かな生活を送っている。
電気、水道、ガスのインフラはある程度普及しているが、最先端の情報源は新聞とラジオ、通信手段は手紙が主流で電話は大きな建物に一つあればいい方だ、車なんかはとても一般人が持てる用な代物ではない。
何もかもがアナログで、それが当たり前、
広い世界のどこかにはもっと進んだ技術があるらしいけれど、
反対に影町は北側に位置し、訳あって光町を追われたような人たちが集まっている。治安は悪く、犯罪は多発し、人さらいや暴行なども珍しい事ではない。
町の平和を守るべき保安隊も把握はしているが、統制が追い付かなく黙認されている状態である。
アザミ「もの心ついた時から召使いとして小さな屋敷で毎日毎日掃除、炊事、洗濯、雑用だけしてました。」
ルクリア「・・・そうか、」
アザミ「どんなにきちんと仕事をしても必ず毎日怒られて、否定されて、蔑まされてきました。・・・でもご主人と奥様が、7年働いたら光町の住民証を買ってくれるというので黙って従ってました。」
住民証とは光町の方では自分の存在証明のようなもので、顔写真や生年月日、それぞれに振り分けられた番号なども記載されている。
仕事をするにも学校に行くにも、病院に行くのにも生活するにおいて必要な証明書になっている。
影町の住人は持っていない者が多い。盗まれた者、金のために売ってしまった者、両親とも持っていなかったため持っていない者、
闇市などで高値で取引されていたりもしており、誰かの住民証を手に入れて生活しているものも少なくない。
アザミ「泣いても泣くな、笑ってもヘラヘラするな、って怒られるので、ただただ黙って言うこときいて働いてました、」
ルクリア「(・・・だから感情が全く出ないんだな、)」
アザミ「でも最近、新しく一緒に働く小さい女の子も来て、あと少しで住民証を買ってもらえるってところで、この人たちにさらわれてしまったんです・・・」
ルクリア「今いくつだ?」
アザミ「??、たぶん14くらいです、」
ルクリア「・・・」
アザミ「?」
ルクリア「おそらく、その主人どもがこの人さらいどもに頼んだんだろうな、」
アザミ「え?・・・なんで?」
ルクリア「女はおまえくらいになると値段が上がるからな、ガキの頃安く買って、召使いでこき使って、最後に高値で売っぱらおうってとこだろうな」
アザミ「・・・」
ルクリア「精神的にはいろいろされただろうが、暴力はなかったただろ?」
アザミ「はい、」
ルクリア「傷がつくと価値が下がるのがわかってんだろうな、」
アザミ「・・・」
ルクリア「新しいガキが来ていろいろ教えたんだろ?次の召使いの準備ってところだろうな、」
アザミ「・・・昔私が入った時も、ちょっとの間お姉さんに召使いの仕事教えてもらって、少ししたらそのお姉さんがいなくなって、聞いたら住民証を買ってもらって自由にしてるって奥様たちが・・・、」
ルクリア「その姉さんも売られたんだろうな、」
アザミ「・・・そうなんですね・・・」
ルクリア「ヤブラン、さらうターゲットは誰でもよかったのか?」
ヤブラン「いえ、リーダーたちが数日前から決めてたようでした、あの時間に人気のない路地を通るからそこを狙えって」
ルクリア「やっぱりか、」
アザミ「・・・」
ルクリアさんの説明に頭が追い付かなくなっていたが、そう考えるとすべての辻褄が合うように思えてならなかった。
おそらく真実なのだろう、
考えることが多すぎて背負っている背の高い男が重いとも感じなくなってしまっていた、
・・・
しばらく歩いていくと雑居ビルや一部が壊れたような家屋の並ぶ街並みに入る、
話で聞いたことしかなかったが、ここが影町であることはなんとなくわかった。とても一人で歩けるようなところではない雰囲気であった。
さらに細い路地に入っていくと突き当りの数軒手前に古びた店が出て来た、
・・・営業しているのかどうかも怪しい、
申し訳程度に”MADOGIWA”と書かれた看板が掲げられている、
ルクリア「ここでいいぞ、」
ヤブラン「へいっ!あー疲れたー!」
ルクリア「ご苦労さん、お礼だ、両手を出せ」
ヤブラン「おっ!一番重いやつ運んだんすからね!俺!っえ?」
ルクリアさんはスピーディーにヤブランの出した両手を縛っていた、
ヤブラン「え?ちょっと!なんすかこれ!!」
ルクリア「調子に乗んなよ!人さらいしといて、しかも仲間を置いて逃げようとするような奴に用はねぇんだよ!」
ルクリアさんはヤブランの顔面すれすれににらみを利かせて言い放つ。
ヤブラン「な、仲間じゃなかったのかよ!」
ルクリア「おいおい、冗談はよし子ちゃんだろ、誰が人さらいをするような奴と仲間になるんだよ、」
ヤブラン「お、おお、俺は今回が初めてで・・・だからその・・・」
ルクリア「てめーは売られた人たちがその後どうなるか考えたことあるか?自分の目の前の小遣い欲しさになんにも考えてねーだろ!」
ヤブラン「そ、そんなこと」
ルクリア「楽して金儲けしようとした代償はデカいぞ、今から身をもって味わうんだな!」
ヤブラン「ぐぶっ!!!」
アザミ「!?」
どてっぱらにルクリアさんのこぶしが入ると、白目をむいて一瞬でその場に膝から崩れ落ちてしまった。
ルクリア「私の仕事はな、こいつらと同じ人さらいだ、人さらい専門の人さらいってところかな」
アザミ「?、?、」