合流
村に着いたのは、夜が一番深くなる頃だった。
精神的なダメージももちろん大きいのだが、昼間以降何も口にしていないのと、何よりかなり冷え込んでおり
霧により衣服も濡れて、体温が奪われる。
濡れて顔に張り付く前髪を、何度もかき分けて
周りを気にし合いながら歩くが、体力の限界を迎え、座り込んでしまう者も少なくは無い。
その為、先遣隊と本隊とで別々で動くことになった。
比較的元気で、体力がある人達を二つに分け、子ども達を抱え、シャロア様と先に村へと向かってもらう
もう一つの部隊には、族長の妹である私が率い、高齢の方に肩を貸し、状態を配慮しながらゆっくりと進む。
『大丈夫、少しずつ村に近付いてますから
ゆっくり急ぐ気持ちで⋯
辛い方は言ってください、適宜休憩をとりながら行きます!』
どんなに辛くても、声掛けを忘れてはいけない
人間は互いに励まし合い、助け合えるのが強さなのだ。
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『や、やっと村の入口だ⋯』
先に向かったはずのシャロア様達とは、到着時間は大差無かったようだ。
やはり疲れや不安で子ども達がぐずったり、親の手を払ってどこかへ向かおうとしてしまったりあったらしい
それでも、避難していた村人は全員無事に村に帰ることが出来たのだから、まずはそれを素直に喜ぶべきなのだろう⋯。
「メノン!!!」
村に入るとすぐ、一番聞き慣れた人の声が聞こえる
私は、その声がした方を振り向くと同時に、硬い何かに強く抱き締められた。
『ぐっ⋯
に、兄様⋯苦しいよ⋯』
それでもアゲット兄様は、ぼろぼろと涙を流しながら
私の存在を確かめる様に、強く私を抱き締めた。
「はは⋯、許してやってくれ、メノン
アゲットは本当にメノンが心配で
狩りだって半ば切り上げて、帰ってきたようなものなんだ」
『タイズさん!』
兄様の右腕であり、頼りになるもう一人のお兄さんの様な存在であるタイズさん
普段は生命力溢れる顔をしているが、今日に至ってはやはり、どこかやつれていた。
「メノン、良かった!
無事だったのか!」
『スフェンも!』
私達を見付けて、スフェンも駆け寄ってきてくれる
その元気な姿に、本当にいつもの日常が戻ってきた様で、実はやっぱりあんな出来事は夢だったんじゃないかと、目頭が熱くなる。
それでも、駆け寄ってきたスフェンの後ろには、怪我をした戦士団の姿があり
冷たい現実に、また打ちのめされそうになる。
「って、メノン!
服に血が着いてる⋯
怪我でもしたのか!?」
アゲット兄様から私を引き剥がし、私の肩を掴んで青ざめるスフェン
その声に、アゲット兄様まで叫びながら私をあらゆる角度から見渡した。
『ちょ、ちょっと!
私自身は怪我をしていないので大丈夫!
⋯でも、村の子ども達が⋯』
その私の一言で、しん⋯と静まり返ってしまい、何人かの戦士団の人も駆け付けてきた。
「メノン、亡くなった子どもは誰だか分かるか?」
「構わないから、メノンさえ良ければ教えて欲しいんだ!」
『え⋯?』
⋯ああ、そうか
皆も見たのか⋯
そうだよね、あんな姿じゃ一体誰が殺されてしまったのか分からない
もしかしたら、自分の子なのではないか、と
不安に思う人の方が多いことだろう。
でもこれは、私から言えるものでもなく
ただ言う勇気が無いのもある、不安に満ちたその表情が崩れるのを私は見たくは無い
『一度作業を中断して、皆で顔を合わせましょう
今は一番、それが大事なことだと思うんです』
「⋯ああ、そうだな
おーい!皆!
一度作業は中止だ、避難していた者達が帰ってきたんだ!」
私のその言葉に、兄様はそっと頷き
村のあちこちで片付けをしている戦士団を呼び寄せてくれた。
作業に没頭して、私達が帰ってきたことに気付かなかった者もいたので
改めてクラース族で集まって、皆で顔を合わせた。
当然、家族で集まり互いに怪我はないかなどを確認し合うが
悔しそうにその場で項垂れる戦士団の男性と、泣き叫ぶ女性の声が聞こえてきたので
きっと、我が子が殺されてしまったことに対して、教えてもらったのだろう
その時もまた、全体が静まり返ってしまう程、全員で悲しみに飲み込まれてしまった。
「シャロア、妹から聞いたが
皆を導き、助けてくれたそうだな⋯
族長として、改めて感謝する。」
「いいえ、私は神の導きのままに行動を起こしただけですから」
兄様が感謝の意を示し、他の戦士団の人も
シャロア様に頭を下げた。
そして兄様は改めてクラース族皆の方を真っ直ぐ見る。
「クラースの民よ、互いに何があったのか
話せたらで良い、状況を把握したいから教えてはくれるだろうか」
そこで私達は、互いの身に起きた事の情報交換を始める。
村では、シャロア様の神託で早くに避難していたこと
村の場所がバレてしまったこと、黒い兵が村に来たこと、サフィの身に起こったことなどを説明するり
いろいろな反応があったが、アゲット兄様は皆を鎮めながら、戦士団もその黒い軍勢に襲われた事などを話し始めた。
アゲット兄様の胸騒ぎで、早々に帰還し始めていたこと、軍勢はアンデッドであり、容易ではないが倒せない敵ではなかったことなど
戦士団の皆も、危険に晒されていたことを知った。
「⋯そうか、メノンは頑張ったんだな
危険な目に合わせてしまってすまなかった
無事でいてくれて、本当に⋯良かった⋯」
兄様はまた涙ぐみながら私の頭を撫で、そんな兄様の背中を戦士団の皆が擦った。
⋯それにしても、アゲット兄様の胸騒ぎも的中していたし、本来危機察知能力というのは
生き物の本能として、携わっているものではあるが
互いにこんな事は初めてだった。
「よし、いろいろあったけどまずは休もう!」
「お日様が昇ったら、村を立て直そうぜ!」
「解体した大きな熊の皮があるんだ、暖はとれそうだぞ」
戦士団の人達が、暗い顔をする村人達を元気付ける為か、周囲を和ませながらいろいろ狩りで得た物をもってくる
「⋯だが、村の場所がバレてるんじゃ
また攻めてくるのでは⋯」
「その時は返り討ちにすれば良い!」
「それならいっそ、村の場所を移した方が⋯」
「霊木とご先祖様の加護が無いところに行くっていうのか?」
誰もが心のどこかで不安に思っていた“私達クラース族のこれからの生活”
確かに、一番重要であり、一番難しい話だった。
「⋯⋯そう、だな
これからの事か⋯」
兄様は頭を抱え、小さな溜息を吐く
正直、これからの不安はとても大きいし、定まっていない内はこの不安は消えないだろう
けれど、あまりに疲労困憊してしまった我々に、これからを考える余裕などなく
今を生き続けることすらも、大変だった。
『アゲット兄様⋯、クラース族の皆⋯
まずは、休みませんか
村を照らすものがなくなって、真っ暗ですし
何よりまだまだ冷え込みます。
全員ではなかったけれど、今は生きて再会できたことに感謝をして
少しでも休みましょう』
そして私は、そっと兄様の隣に座る
皆も続く様に、その場に座り、身を合わせ
溜まった疲れを少しでも癒そうと、目を瞑った。
今晩が満月で良かった、満月でなかったら、雲がかかっていたら
きっと隣の人の顔も見えなかったことだろう。




