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呪われた貴方を佑ける方法  作者: 槻 みことӪ
第一章 アウラ島脱出編
5/25

巫女の託宣

ゴーン、ゴーン⋯



ふと、村の召集の為の鐘の音が鳴った。

この鐘を利用出来るのは族長である兄と、その妹の私

そして、聖職者(サケルドース)の中で一番偉い巫女、シャロア様だ。


誰も外気を呑むほど、綺麗な顔立ちで

キラキラとした白くて長い髪

髪と同じ色の、長い睫毛の下には

紫色の宝石をそのままはめた様な瞳がある。


アゲット兄様が不在の今、鐘を鳴らしたのはシャロア様だろう

謝肉祭(カルネヴァーレ)の準備もいよいよ大詰めな、そんな時に一体何があったのだろうか⋯


私が家を出ると、既に他の村人も鐘の音を聞きつけ、家を出て周囲の状況を探っている様子だった。

このクラース村の真ん中には、聖職者(サケルドース)が祈祷をする為に造った台座のような建築物があり

そこに鐘は存在する。

なので、私も含め村の人達はその台座へと集まるのだ。


台座の上には、シャロア様が立ち

その周りに、何人かの聖職者(サケルドース)が後ろで手を組み立っている。


(雰囲気からして穏やかではなさそうだけど⋯)


シャロア様は村を見渡し、殆ど全員が集まったであろう事を確認すると

小さく息を吸い込んで、胸の前で手を合わせた。


「クラース族の民よ、先程神託を授かったので

今ここで、表明致します。

先刻、アウラ島の東方に位置するアーク港にて、邪な力を帯びる軍勢が

真っ直ぐこのクラース村へと向かってきています。」

「な、なんだって!?」

「まさかイーオン帝国では?」

「ど、どうしよう

謝肉祭(カルネヴァーレ)に合わせて戦士団は狩りに出ているから

私達しかいないよ!」


シャロア様の発言により、村人に一気に不安が襲う

確かに皆が言う通り、今クラース族の戦士団は狩りに出掛けており、この村に、戦う力がある者はいない

残った男性はお年寄りか子どもであり、聖職者(サケルドース)は攻撃の魔法は覚えることが出来ない為、戦力として数えることは出来ない。

何人か、女よりは戦えそうな聖職者(サケルドース)もいるが、皆狩りに同行してしまっているのだ。


「で、でも村はこの霊木に護られているし

静かにしていれば攻め込まれる事はないんじゃ⋯」

「そ、そうだよね

不安がっていたって仕方ないよね⋯!」


その声に、不安で波打っていた空気に落ち着きが戻る

私も、護られているのでそれ程の恐怖を感じはしないけど⋯


「いいえ、今回攻め込んでくる軍勢は今までとは違います。

そこのご婦人、息子さんはどちらに?」


シャロア様にふと声を掛けられたのは、今日の朝私と一緒に山菜採りに出掛けたサフィという女性だ

四歳くらいの男の子がいて、どの山菜が食べられるのか

薬草の効果を持つもの、毒を含むものなど

母親であるサフィさんの教えを興味津々に聞いていたのを見た。


「⋯あ、息子は

今日のクラース鍋で必要な唐辛子が少々足りなくて

さっき、採りに村の外へ⋯

ですが、村を出てすぐの街道に生えているのを発見していましたし

一人ではなく友達と行きましたし、そろそろ帰る頃かと!」

「なんという愚行を⋯」


シャロア様は険しい顔をして小さく溜息を吐く

そして下を向き、言葉をグッと少し溜めて、

また私達を見た。


「その子どもに何かしらの細工を施し、村の位置を特定してくる事でしょう。」

「「「「「ッ!!?」」」」」


途端に村が大騒ぎになった。

今までそんな事をしてくる敵などいなかったし

平和ボケをしていた⋯と言えば、返す言葉も出ないが

ちょっとの気の緩みからくる失敗があることを、今この瞬間痛感したことだろう。


「落ち着いて、村を離れても霊木の加護はあります

村を離れ、息を潜めるのです。」

「ま、待ってください!

息子は、帰りを待つことは出来ませんか!」


取り乱したサフィさんが、シャロア様に向かって言うが

シャロア様は冷静に、そして冷たさを感じる決断をくだした。


「村に残るかどうかは、好きになさい

一人の子どもの命より、村人全員の命です。


⋯さあ、助かりたい者は私についてきなさい。」


シャロア様は、他の聖職者(サケルドース)の人と目を合わして頷くと

台座を降りて、村の外へと向かう

そんな急な展開に、頭はついてこれなくても

村の巫女が託宣をし、これからの出来事を予知した事と

何より、その襲撃を受けたくない、助かりたいという本能的な判断で

状況も分からぬまま、シャロア様について行く意志を見せた。



「ああっ⋯

あぁああぁぁあ⋯!」


サフィさんはその場で泣き崩れた。

周囲にいた他の村人が、背中をさすり、それでも助けようとサフィを連れて行こうとするが

サフィさんはその手を振り払って、顔を覆い、その場で力無く座り込んでしまう。

そんなサフィさんの気持ちを、分からぬでもないと

それでも置いていけずにいるが、シャロア様達の背中が遠くなるにつれて、その姿に迷いを見せ始めた。


『⋯あの、サフィさんの事は私に任せてください』

「メノン⋯」


私は他の村人達に、シャロア様について行くように促す


『族長である兄様も、クラースの民を一人も危険な場所に置いて行くことはしません

⋯もちろん、私も』


その言葉にサフィさんは少しだけ顔を上げた。

涙でぐしゃぐしゃになったその顔に、私そっとハンカチを渡して背中を擦る。


『それに兄様達ももう時期帰ってきます!

村だって、もしかしたら加護のお陰で大丈夫かもしれませんし、兄様達クラースの戦士団が帰ってきたら

そんな軍勢だって、けちょんけちょんですから』


そうは言っても、私だって正直不安でいっぱいで、きっと擦ることを()めてしまえば、震えている事が気付かれてしまうだろう。

予知を外したことがないシャロア様が、村を放棄して逃げ隠れることを決断された⋯

それは相当な事だとは思っている。

けれど、私は少しでもその不安を取り除きたいので

残った村人に精一杯笑いかける。


『逃げる時は、子ども達の手をしっかり握ってください

足が遅い高齢の方をしっかり助けてくださいね


⋯あと、クラース鍋を作っていたので

火をつけたままの家もあるかもしれませんし

私が火の始末をして、ついでに鍋の味見もしておきますから!』


そんな私の言葉に、敵わない⋯と思ってくれたのか

不安ながらに笑って、シャロア様達の方へと向かってくれた。


『⋯よし、サフィさん

ちょっとここを動かないで待っていてください

私は家をまわって、火の始末をしてきますから』


木と茅で造られた家だ、サフィさんは確か土属性だったはずだし

万一火がついてしまったら水属性の力を持つ村人がいないと、大変なことになってしまう

兄様達が帰ってくるまでの間、村の留守を預かる気持ちでいれば大丈夫⋯

私はそう思いながら、村の家を一軒一軒回ることにした。







最後の家を見終える頃、外は暗くなっていた

やはり何件か、釜戸に火がついたままの家があったので全ての火を消し

村を照らすのは、複数の松明と石窯だけ。

私は念の為、猪の牙で作られた短剣を懐に持ち、サフィさんの元へと向かった。


『サフィさん!』


サフィさんは先程よりは落ち着きを取り戻せたようで、私にありがとうと笑いかけ、その場で座り直す

私は、そんなサフィさんの横で台座に重心を預ける様に立ち、シャロア様達が行ってしまった村の出入口の方をボーッと見つめた。


「メノン、ごめんなさい

私のせいで、貴女まで⋯」

『いいえ、きっといつもの日常なら、こんな事は起きなかったんです

全ては帝国が悪いんですよ、きっと⋯


充分な土地と資源を得ているのに、尚周囲へ侵攻を止めない

まさかあんなに大きなパトリア大陸でも飽き足らず、アウラ島にまで足を向けるとは⋯

想像もできませんよね』


私がそう返すと、サフィさんは少しホッとしたように力無く笑った。

すると、村の出入口の方で人の気配を感じた。


「あ、息子が帰ってきたんだわ!

すぐに連れて、シャロア様達の方へ向かわないと!」


サフィさんは待ちわびていた!と言わんばかりの勢いで立ち上がり、走っていく

私も後を追おうと、右足を前に出した瞬間____



『⋯ッ!?』


ぶわわっ!と全身を突き抜ける様な危機感に襲われた。

身体中から嫌な冷や汗が出て、そのまま硬直して、思うように歩けない。


『⋯な、何⋯?』


なんだろう、この嫌な感じは

底知れぬ恐怖と、悲しみ⋯?

想像もつかないほど、長い間苦しんだ物に対する感情⋯?


私はサフィさんを追うことが出来ず、かと言ってこの台座から走って家に駆け込める程の余裕もなく

ふらふらと台座に背中を預け、座り込み

ただただ胸の前で手を組んで、祈る様に身体を丸めた。

それしか出来ない程に、恐怖が⋯

闇がすぐそこまで迫っていることを感じたのだ。


(身体が⋯震える

おさまれ、おさまれ⋯

きっと大丈夫⋯っ)


目を瞑り、畳んだ膝に額をつけて、震えが治まるのを待つ

自分で自分を制御出来ないほどに、私の身体は震えていた

全身で警告を示すように、そして今ここを動いてはいけないと

そして組んだその手のひらを解いてはいけないと、何者かが私に語りかける様な確かなものを感じていた。



____長く感じたようで、きっとほんの数秒しか経っていないだろう

私は少しだけ落ち着きを取り戻し、やっとの思いで目を開き、顔を上げた。



『⋯⋯ッ、く⋯ぅ⋯!』


目の前に、あの夢で見た、真っ黒な兵隊の顔があるではないか!

喉から飛び出そうになった声を、必死に押さえ込んで

その場で動かない様にする。


気付かれた、気付かれた、気付かれた

私を見つめる、兜から漏れ出る赤い二つの光

そしてきっと次に、その右腕に持つ真っ黒で大きな剣を、私に向かって振り下ろす事だろう。


(嗚呼、ごめんなさい⋯

私はここまでだ。)


目を瞑り、自分の死を悟る。

最後に浮かぶは兄の顔、そしてまだ両親が居なくなる前の

家族でクラース鍋を囲んだ、幸せな情景が浮かぶ。


(これが、走馬灯⋯?)



長くはなかったけれど、両親の死後も必死に私を育ててくれたアゲット兄様

そして村の皆、ありがとう

私は⋯充分幸せでした⋯⋯。


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