表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪われた貴方を佑ける方法  作者: 槻 みことӪ
第一章 アウラ島脱出編
24/25

炉端焼き

もごもごするリルントさんの言葉を聞き取ろうと

そっと耳を傾けると、その裾を誰かが掴んだ。


誰?と尋ねる前に、掴まれた裾を引っ張られて

小さな影に誘導される。


『アモルさん⋯?』


私がそう言うと、顔だけ私の方を振り向いた。

この辺りでは見かけない、珍しい灰色の髪に

深い海を閉じ込めたような、暗い蒼色の瞳

私より身長が低く、幼いその顔付きは

古代王国の国軍の、更には副団長にはとても見えなかった。


然し、放つオーラが異質で

その容姿には騙されるなと、

只者では無いと、私の本能が悟った。


目が合ったのはほんの一瞬で、すぐ顔を前に戻して

私の裾を引っ張り続ける。

無口なのだろうか、特に言葉は発さずとにかく連れられ

辿り着いたのは、船内の調理場だった。


『あ、ありがとうございます』

「⋯⋯」


私がそう言うと、アモルさんは床下の小さい蓋を開いた。

中には水色の魔法陣と、幾つかの食材が入っており

ふわりと冷気を感じた。


水色の魔法陣、そしてこの冷気⋯

リベラル軍には、水魔法を極め

氷の属性まで扱える人がいるみたい。


アモルさんは中を漁り、何やら柔らかい紙に包まれた物を取り出した

そして、私に押し付ける様に渡す。


『こ、これは?』


そう聞きながらも、包装を開いて見ると

乳白色の塊が中には入っていた。

この色と、固さ

鼻を近付け、匂いを嗅ぐと若干の甘さに寄った独特な香りがする。


『もしかして、牛酪⋯?』

「⋯バター

あとこれも、混ぜて」


アモルさんはまるで鈴の様な声でそう言って、調理場の小さな踏み台に腰掛けた。


これを使って、という意味なのだろうか⋯

それにしても、どう見ても牛酪だよね

パトリア大陸では、“ばたぁ”っていうのかな


私達の村でも、飼養していた山羊のお乳から作った事があるけれど

保存は難しく、量も作れないので

ちょっとした贅沢な調味料として扱われていた。

お菓子作りに使う事が殆どだったけれど

他の用途もあったのかと、勉強になる。


そしてもう一つ渡されたもの

竹の入れ物に入った、液体のようなもので

蓋を開けて匂いを嗅ぐと、香ばしさと

少し食欲を掻き立てるような、今まで嗅いだことのない匂いがした。


「お、ここが調理場か」


程なくして、兄様とタイズさんが入ってくる。

こじんまりとした、最低限の設備である調理場は

二人の男性が入ると、手狭に感じるほどの広さで

普段からも丁寧に使われているのだろう、物は整頓されており、小綺麗だった。


「じゃあメノン、これ置いておくぞ」


兄様はどかっ、とクラーケンの足を置き

ふう、と肩を回した。


「結構な量だな⋯

何か手伝うことはあるか?」

『うーん、まだどこに何があるかまでは分からないんですけど⋯

とりあえずどんどん調理していこうと思うので

タイズさんは出来上がったものから、皆さんに配っていただいても良いですか?』

「了解した」

「メノン!兄ちゃんは?」

『兄様は、洗い物をお願いします』

「おう、任せとけ!」


それぞれでやる事を決めて、振り分ける

炭が入った四角い石造りの設備があるので、焼き物にはちょうど良い、と炉端焼きを思い付く。

炭に火種を入れ、筒で息を吹き込み、火が灯ってパチパチと音を鳴らす頃

団扇で仰いで、入念に火を起こす。


そして、炭が赤く光り

強い熱を放つ頃、上に網を敷いて

タイズさんに切ってもらったクラーケンの足を

串に刺して、網に並べた。


「これは、牛酪か?

それと、その黒い液体は何だ?

食べれるものなのか?」


後ろから覗いてくる兄様

私がお椀に、アモルさんから受け取った液体と、牛酪を混ぜ入れているのを見て

不思議そうな顔をする。

私も、竹筒から出てきたものが茶色いみを帯びた、黒い液体だった時は

ちょっとびっくりしたが、アモルさんがいる手前

引き顔になってしまうのだけはどうにか抑える。


『見たことない調味料だけれど

匂いが美味しそうなの』

「すんすん⋯

確かに、嫌いじゃないな」


黒い液体に、何とか牛酪を混ぜて

刷毛で、クラーケンの足に塗ると

ジュゥウ、と良い音を立てて

ふわり、と甘香ばしい匂いで部屋が満ちた。


「うわ、美味そ⋯」


その匂いに、お皿を並べていたタイズさんまで寄ってきて

期待を込めた顔をする。


串に刺したクラーケンの足を焼くその隣で、籠に入っていた芋や人参の根菜も

一口の大きさに切ってから、小さな薄い鍋で焼く

こっちは塩と胡椒だけかけて、クラーケンの足と共に、お皿に盛り付けた。

牛酪と混ざった黒い液体調味料は、まるで黄金の様な色味と輝きを放っていて、とても美味しそうだ。


『こちらのお皿から、順番に持っていってくださって大丈夫です』

「分かった」


タイズさんは、今日に何枚もお皿を腕も使って持っていく

私は、後ろで足をパタパタさせながら

何だかワクワクしているように見えるアモルさんにも、出来上がった料理を渡した。


アモルさんは目を輝かせながら、クラーケンの足の串を持ち

パクっと食らいつく。

はふはふと、立つ湯気からまだまだ熱いのが分かるのに

待ってました!と言わんばかりの反応で

思わず笑みが零れた。


アモルさんは、蛸足を食べる事に抵抗はないみたい

付け合せの野菜もぺろり、と食べると

おかわりを要求する様に、お皿を両手で渡してきた。


『は、早い!

待っててくださいね、第二段が焼き終わりますから』


私はアモルさんからお皿を受け取り、また焼き上がったものからお皿へと盛り付けていく。


『そ、それにしてもアモルさん

この黒い液体って何なのですか?』

「⋯せうゆ」

『せ、せうゆ?』

「東国の調味料

交易品でしか手に入らない」


“せうゆ”⋯初めて聞く名前だった。


「⋯海で捕れるやつは、バターとせうゆで焼いたのが好き」


アモルさんはそう言うと、またさっきまで座っていた踏み台に腰掛けて

まだかまだかと、足をパタパタさせた。


(仕草も本当に子どもみたいだ⋯)


そう思いながら、芋の皮を剥き、一口大に切っていく

最初は無口かと思って、ちょっとどうしたら良いか分からなかったけれど

話せば返してくれるし、何だか空気が和む。


懐かしさすら覚えるその雰囲気に、ちょっと癒されている自分がいた。





____バンッ!



「美味そうな匂いがするー!!!」

『ふぁっ!?』



急に強く開かれるドア

驚きすぎて、持っていた箸をぽろっと落としてしまう。


『え、あ⋯

スフェン!?』


箸を拾い上げながら、扉の方を見ると

立っていたのは満面の笑みのスフェン

どうやら食事の匂いにつられて、起きたみたいだ。


「こらスフェン!静かに入ってこいよ

びっくりするだろう!」


兄様がスフェンの頭に拳骨するが

そんなダメージもお構いなしに私に飛び付いた。


『わっ、ちょっと、危ないってば!』

「メノン、あたしの分は!?

お腹ぺこぺこで!」

『もうそろそろだから、少し待っててよぅ』


スフェンの額を押しながら、何とか引き剥がすと

落ち着きなく、私の周りをうろうろと歩き回る。

その奇行に、集中力が途切れそうになるのをなんとか抑えながら、ちょっと山盛り気味に盛り付けて渡す。


「いただきます!!!」


スフェンは私から、奪う様に料理を受け取ると

アモルさんにも負けぬ勢いで食べ始め


「なんだこの味付け

美味いな!!!」


と、これまた大きな声で喜ぶのだった。












「お〜い、なんとか全員に配ったぞ⋯」


調理を始めて、一時間と半分は経っただろうか⋯

ちょっと疲れ気味なタイズさんが休憩〜と

椅子にどかっと座った。

タイズさんの役割が終わる頃、逆に兄様は大忙しで

先に配った人のお皿を回収して、ただ今洗い物に専念中

因みにスフェンは、働かざる者食うべからず⋯と兄様の指示で

お皿回収の役割を担い、どんどん流しにお皿を運んで来ては、兄様に渡していくのだった。


私は手を洗って布巾で軽く拭き

タイズさんに料理を渡した。


『お手伝い、ありがとうございます

では、私達も食べましょう』


そして、タイズさんの向かい側に座り

自分の分の料理も置いた。


『いただきます!』


スフェン曰く、お皿を回収しに行った時

リベラル軍から、美味しかったと大層好評だった事を聞いたので

少し期待しながら、クラーケンの足を一口⋯


『⋯!

お、美味しい!


確かに、ちょっと甘みがあるような

そしてこの香ばしさと旨み⋯


元々クラーケンは海にいたから、ほんのり塩っ気がありましたし

美味しいですね!』

「そうだな! 初めての味だがこれは美味い!」


匂いや、アモルさんとスフェンの反応からして

美味しいんだろうと思ってはいたが

正直期待以上の美味しさだった。


後ろではアモルさんが、既におかわりの10皿目を食べ終わっており

満足、とお腹をさすっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ