クラーケン
「アモル殿⋯?」
俺がリルント殿の横を見ると
俺より背が低く、年齢も低そうな男が立っている。
何回か見かけてはいたが、近くでしっかりと見たのは初めてかもしれない。
副団長とは聞いていたが、威厳も覇気もなく
無口で、何を考えているかは分からないとは思っていたが⋯
「お前、大した奴だったんだな!」
「⋯⋯」
そう言うと、愛想無く顔を背けた。
「あの合流地点での気配と姿を隠す魔法も、アモルの魔法だ」
「え⋯」
あれもだったのか⋯
頭でも撫でてやろうと、伸ばした手が引っ込む。
大陸の魔道士っていうのは、本当に想像もつかない魔法を使うんだな⋯
「防御魔法に長けているということは、
聖属性の使い手なのか?」
「しっ⋯
アゲット、そろそろ襲撃してくるぞ」
リルント殿は、そっと剣を抜きながら
海の方を見た。
幾つか海から伸びてきた、まるで蛸の足の様なものが
確認するかのように、ペタペタと防御魔法に触れている。
防御魔法が張られているといっても、一見何も無い様に見えるが
触れられた部分だけ、透き通った六角形の外殻の様なものが見えた。
「あれが、防御魔法か」
「⋯防御魔法・鎧」
「え?」
アモル殿が小さくそう呟く
それを補足するように、リルント殿が
「通常の防御魔法は、正面にのみその外殻を出現させるが
防御魔法・鎧は対象を中心として
球体状にその外殻を張り巡らせる事が出来るというわけだ」
そして、勢いよくその場で床を蹴り上げて飛び上がると
足の一本に、電撃を纏わせた斬撃を放った。
ズバッと切れた足が、防御魔法・鎧をすり抜け
船上へと落ちてくる。
他にも伸びてきていた他の足が、急に激しくくねりだし
痛みに悶える様に、防御魔法・鎧を叩き付け始める。
「俺達も行くぞ、タイズ!」
「ああ!
相手は水属性のようだから、俺の属性とは相性が良いしな!」
タイズはそう言って、抜いた大剣を鉱石へと変化させる
そしてそのまま、また足の一つを切り落とした。
俺も剣に力を込め、足の一つを斬り裂くと
隣でリルント殿が、更に二本落としていた。
「あいつ、強いな⋯
負けてられん!」
俺は近くに置いてあった樽を踏み台に蹴り上がり、反対側の柱を蹴る
そのまま空中へと飛び上がると、帆まで到達しそうな
一際大きな足へと斬りかかった。
「くっ、さすがに硬いな⋯」
一度剣が弾かれ、俺はマストの登る為の取っ手を掴み
体勢を立て直す。
「っ!」
高い位置へと上がった事で
海の中に、ギラギラとこちらを睨む
二つの鈍い光が見えた。
本当にバカでかい魔物の様だ。
(俺の剣じゃ相性が悪いが⋯
ただの攻撃では、三手はかかりそうだ)
そう思いながら剣を見ると、剣にはめられた
紅い魔石がキラッと光る。
「⋯ふぅ、よし⋯
化け物、これでも喰らえ!!」
もう一度取っ手を蹴って、剣を握る手に今一度力を込め
先程攻撃した足へと斬り掛かる
「うぉおおおっ!」
すると剣の刃が入った少しの断面から爆発が起こり、クラーケンという魔物の足は
斬られる⋯というより、爆ぜて千切れる様に
ぶつッ!と音を立てて、ニ断された。
そのまま、甲板へと着地して
続けてもう一本の足を落とせば、いつの間にか
襲ってくる足の気配は無くなっていた。
「全部やったのか!」
俺がそう言うと、斬られているのに
まだ少し動いている足が、数えると十本ほどあった。
そして、俺が斬った一際太くてでかい足と
同じ足が落ちているのを見て対の足である事が分かる。
「造りはまるで蛸だな」
「ああ、そうだな」
大剣を納めながら歩いてくるタイズと言葉を交わした。
「アゲットは火属性を極めているんだな
爆破の力まで使えるとは⋯
リベラル城にも一人しかいないぞ」
⋯⋯ギクッ
急にリルント殿に話しかけられ、肩が跳ねる。
「あ、ああ⋯
まあな⋯?」
「⋯ん?」
俺の返事を怪しむ様に、リルント殿は顔を顰めた。
「そ、それよりリルント殿も
雷属性まで会得しているとは、風属性を極めた証じゃないか」
横に落ちている、リルント殿に斬られたクラーケンの足は
断面が焦げて、ぷすぷすと小さな煙が出ていた。
「風属性なら、あの灯台の高さから降りて
無傷なのも納得だ」
風を発生させて、落ちる衝撃を緩和できるのも
また風属性の特徴ともいえる。
魔力操作が繊細な魔道士なら、空も飛べるくらいだ。
「⋯当然だ。」
「ところで、このクラーケンの足はどうするんだ?
食うのか?
まだ動いてて鮮度も良いし、でかくて美味そうだ!」
「はあ? あんなぬるぬるとしたものをお前達は食うのか?」
「当たり前だろ? たまに会う行商人から買ったり
他の種族との物々交換でしか手に入れられない、貴重な食材だ!」
俺が胸を張ってそう言うと、他のリベラル軍も
青ざめた顔をしていた。
「俺の妹に調理なんてさせてみろ!
美味くて頬が落ちるぞ?」
「遠慮しておく
船の上で体調を崩すわけにはいかん。」
「何だ失礼な!
妹の腕が悪いと言いたいのか!」
「誰もそんなことは言ってないだろう!」
何故リルント殿はそこまで嫌がるのか
きっと食えば分かるはず⋯。
「よし、こうしちゃいられない!
妹や船内にいる奴らの安全確認がてら
呼んできてやる!」
俺はそう言いながら、その場を後にした。
「⋯⋯クラース族はこんなゲテモノを食べるのか⋯
調理される前に海に捨ててやりたいところだが⋯
お前達、足がまだ動いている
何かに吸い付いたり、絡み付く前に
一先ず縄か何かで縛ってから隠しておけ!
奴に見つからないようにな!」
「「「はっ!」」」




